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第十四章

原初の人間

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"原初の人間"アダイル。
文字通り始まりの人間であり、その肉体は雌雄同体。
天地創造時代に自分の姿に似せた男と女を創造し、自分の配下に。
初めは良き王として慕われていたが、ある時を境に性格が変貌。
数々の凶行に走ったことで、人々は彼(彼女)に失望した。
それ以降、人々は彼(彼女)の元を離れて独立した種族となった。

司るは「模倣」と「支配」。
基本的スペックは原初の中でもそこまで高い方ではないものの、所持スキルが厄介。
判明している範囲では魔物の支配やその強化から始まり。
配下の魔物の特性を模倣したり、能力を上乗せしたりなど。
また無尽蔵とも取れる強大な魔力と体力を有するが、それがどう言った原理なのかは不明──────。





        ◇◆◇◆◇◆





『おい"原初の神"!今日こそは決着をつけようぜ………!』


センリからの説明が終わる頃には、"原初の人間"はすでに目の前まで迫っていた。
上空から崖の出っ張りに居る二人を見下ろし、好戦的な笑みを浮かべながらそう口にした。
どうやら矛先は片方にしか向いていないようだが。


「ぬ~。神気を使い切ったばかりなのに、面倒な奴なのだ…………」
「しょうがないなぁ。ノエル、ここは僕が引き受けるよ」


爽やかに微笑みながら、腰の黒剣に手をかけるジンさん。
ノエルから「任せたのだ!」とのサムズアップを受け取ると。

一瞬にして姿が掻き消える。
そして。


ギィンッ!!


上空から甲高い金属音が響く。
慌てて視線を転じると、そこでは黒剣を引き抜いたジンさんと"原初の人間"アダイルが鍔迫り合いを繰り広げていた。
ギリギリと譲らぬ双方が間近で睨み合う。


『お前はお呼びじゃ…………ねぇんだけどなぁ!』
「つれないね。たまには付き合ってくれても良いじゃないか」


………………ふむ。
やっぱり、"原初の人間"には見覚えがある。
と言うのも。
少し前にオルメスト王国の王都が襲撃された際、それを率いていた少年少女が居たのを覚えているだろうか。
アダルとイルと名乗った彼らに、原初の人間ことアダイルが似ているのだ。
ちょうど足して二で割ったような顔立ちをしている。
声は二人の人間が同時にしゃべっているかのような不思議な音。
聞いた能力も俺が戦ってた少女とほとんど一緒だし、名前なんてあからさまにそうだ。

異なる点と言えば、感じる魔力がアダイルの方が圧倒的に強大というところか…………。
あれか、二人がヒュー○ョンしたらアダイルになるのか?
それなら、倍と言っても過言じゃないくらいの魔力を感じることも納得出来る。

……………て言うか────────。



「"紫電一閃しでんいっせん"」
『ぐっ!?』


パリッと雷のように放電した紫色の魔力が迸り、一閃。
アダイルの胸に真一文字の斬り傷が刻まれた。
血が噴水のように吹き出し、たまらずアダイルから苦悶の声が漏れる。

なんであの人ジンさん、普通に原初と戦えてるんだろう…………。
しかも今のところ善戦してるし。
あ、なんだかあの人のイキイキした笑顔を見てたら、また胃が痛くなってきたぞ………?


「あれがマシロの師匠か…………た、確かに強いのぅ」
「うへへ~。あれは絶対に怒ると怖いタイプだよ~」
「マシロ君の師匠?と言うことは少なくとも彼女には頭が上がらないはず…………外堀から埋めるのもブツブツ」


なんだか一人だけ視点が違う気がするが、それは一旦置いておいて。
センリは俺と同じくジンさんの強さにおののき、シュカは何やら心当たりがあるのか、悟った目で遠くを見つめている。
きっと身近なとある鬼のことでも思い出しているのだろう。


『はああああっ!』
「おっと」


振り下ろされた魔力の剣をちょんと切っ先で逸らし回避、カウンターで放たれた滑らかな剣閃がアダイルの肌をなぞり、いくつもの斬り傷を与えた。
感嘆のため息が漏れるような惚れ惚れする剣さばき。
豪快な太刀筋、美しい太刀筋、静かな太刀筋。
様々な太刀筋を自在に操るその姿は、まさに剣の神と言うにふさわしい神々しさを秘めていた。


「こほん。原初の人間はちと能力が特殊でな、いまいちその全容が掴めんのじゃ」
「そうなの?でも、魔物の使役ってのは確定なんでしょ?」
「うむ……………と言いたいところなんじゃが、どうも怪しくてな。間違ってはいないが、必ずしも正しいとは限らない、と言ったところか」
「"使役"だけじゃ説明のつかないことがいくつかあってさ~。"模倣"も、"配下の魔物の特徴をコピー"だけじゃしょぼくな~い?」
「む、確かに」
「何せエクストラスキルよ?まだ何か秘密があるに違いないわぁ~」


アダイルは当時から広い範囲で暴れていたらしく、三人とも一度は面識があったとのこと。
その際はもれなく戦闘に発展したので、多い少ないの誤差はあれど全員がその能力を体験している。
しかし、アダイルの全力を引き出せた経験は無く、またその現場を見た者もこの中には居ない。
よって未だ彼の能力の全容は判明していない。
今のところは

・魔物の使役
・使役した魔物の強化
・支配下の魔物の特徴をコピー
・無尽蔵の魔力と体力


と言ったところか。
やっぱり一番下が謎だよなぁ。
能力の秘密はここかな?


「ま、わからんもんは仕方ないか~…………」
「だねぇ~」


まぁ、何も今ここで、全てを解き明かさなくてはならない訳では無いのだ。
むしろ能力を確認できただけで上々。

俺達が話してる間に勝負は引き分けに終わり、アダイルも大人しく引き下がったようだ。
さてさて、それじゃあ次の場所に向かいますか。


「じゃな。次は…………そうさな、"原初の教祖"にするかの」


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