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第12章
"転幻"
しおりを挟む〈転幻〉とは、使用者の魂魄に干渉するスキルだ。
生物の核たる魂魄に干渉し、使用者の本来の力を解き放つスキル。
そのため解放後の姿はその者の内面に著しく影響を受けやすく、荒々しい性格ならば雄々しく猛った姿に。
冷淡な性格ならば凍てつくような氷をモチーフにした姿に。
これはあくまで数ある中の一例に過ぎず、典型的なパターンというものは存在しない。
人の心や魂に同じものがないように、使う人物によって千差万別、誰一人として同じ〈転幻〉を持つことはないのだ。
〈転幻〉によって与えられる恩恵はステータスの底上げから始まり、特性の強化や魔法・スキルなどの性能上昇、特殊なスキルの習得など。
場合によっては生物としての格をも上げる時がある。
しかもこれはあくまで基本的に起こることに過ぎない。
先程言ったように〈転幻〉は生きとし生ける生物の数…………それこそ無限大の数を誇るのだ。
一概にこういう効果があると断言はできない。
これをベースに、さらに魔改造が加わることだって、逆に能力がアンマッチすぎてむしろ弱くなることだって十分にありえる。
また当然ながら全てにおいて上昇率に幅があり、時には強大すぎる力を制御しきれず暴走してしまった例もあるそうだ。
身に余る力は自分をも滅ぼしてしまう。
しかしそれを克服し、完全に扱えるようになれば………一発逆転、起死回生の一手となる。
「〈転幻〉 玖ノ妖・"白面紅月《はくめんこうづき》九尾之狐"」
一瞬にして、濃い紫色の炎が天を貫く勢いで立ち昇った。
遅れて燃え盛る炎がボボゥ!と火の粉を撒き散らしながら揺らめき、九つの火の玉を生成。
人魂のように彷徨うそれは地面に設置されると共に軸となり、細い線が伸びて巨大で複雑な魔法陣を形取る。
他者を寄せつけないための境界線だ。
確立された結界内に崩れ落ちた炎の柱が広がり、全てを焼き尽くす炎海となって波打ち空間を満たす。
軽く数千度に達するであろう内部では、直立不動の状態であったイナリにも変化が起こっていた。
まず腰まで伸びた髪とキツネ耳が真っ白に染まり、炎によって巫女装束が一部焼失した。
裾はミニスカよりももっと短くなって帯に締められ、肩から下ろした白衣から中の真っ赤な襦袢に支えられた立派な乳房が露出。
広がる純白の九尾も相まって実に美しい。
最後にズズッ………と先っぽが炎の色に染められて終了。
下駄がかこんっ、と透き通った音を鳴らす。
少し長くなった袖から手を伸ばし、いつの間にか被っていた白い狐の面を掴むと。
鋭い爪でそれを握り潰す。
露わになった紫色の瞳が光を宿した。
同時に押さえつけられていた妖気が解放され、結界を破り炎海を消し去っても尚、変わらぬ圧力で周囲を蹴散らす。
その勢いは、まるで竜巻のように巻き起こる余波だけで、原初たる褐色の男を数歩押し退ける程だ。
顔の前に風よけの腕を構え、男は目を細める。
ここでも彼の感情はイマイチ伺えない。
驚いているのか無関心なのか………。
いずれにせよ引く気はない、というのだけは確かだ。
"白面紅月九尾之狐"。
文字通りイナリの九尾の力を完全に解放した、奥の手である。
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