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第12章

VS神野悪五郎

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キィィィンッ!!


真上に掲げられた分厚い日本刀に赤黒い妖気が集まり、敵を殲滅せんと巨大な衝撃波となって四方に拡散した。

嵐なんて比じゃない。
妖力の本流が竜巻のように荒れ狂い、一瞬のうちに彼の周囲を更地に変えた。
常人であれば、とっくに心臓が停止していてもおかしくない程の尋常ならざる殺気が、正面から叩きつけられる。

同時に男の近くで光が瞬き、弾丸のような光線が放たれた。
イナリとシュカはその場を左右に分かれて飛び退き、各々が反撃を開始。

シュカが羽衣のように身にまとっていた紅蓮の炎が主の元を離れて勢いを増し、男を飲み込んで大いに燃え盛る。
炎はまさに炎海えんかいと称すに相応しい様子で、大気を焦がし火の粉を撒き散らす。

普通なら骨も残らないだろうが、これでもあまり効いていないのは分かっている。
挨拶代わりの攻撃だ。
炎の間からちらりと見えた涼し気な瞳に無言でそう返す。
一拍遅れて、上空から自由落下の勢いを上乗せしたイナリが刀を振り下ろす。

しかし…………。

ぶつかり合った風圧でブワッ!と波状に炎が消し飛び、空気をこれでもかと振動させる。
あっさりと片手で掲げた日本刀によって受け止められてしまった。

視線が交差したのは一瞬。
ググッと刀が押し込まれそちらに気を取られた瞬間に、シュカの突き技で腹に衝撃を受け、男はくの字に体を折り曲げてぶっ飛んだ。


「うへへ~。自信なくすな~………」


苦笑い気味に、剣を持ち替えて突き出した右腕をぷらぷら揺さぶる。
相変わらず硬い。
今度はブシッ!と血が吹き出しているので、ダメージを与えられていることは明確だが、それでもその深さは数センチ程度。
あれくらいなら回復されるのも時間の問題だ。

一応、貫通させるつもりでやったのだが………。


「シュカさん!あいつ、弱点とかないんですか!?」
「ん~、困ったことに…………これと言ったのがないんだよねぇ~」


割と絶望的な情報をのほほんと口にするシュカさん。
これと言った弱点が無い。
それは神野悪五郎が、特殊な能力を一切"有していない"というのが原因の一つだろう。

ミリアのエクストラスキル〈無効貫通〉のように当たらなければ良いだとか、ノエルのようにある程度想像力がないと使えない能力だったりとか。

何とかして攻略の糸口を見つけられるような要素が存在しないのだ。
純粋な肉体と妖力による強さ。
その戦闘スタイル、明確な弱点が無いとなると攻略法はたった一つしか残されていない。

正面から実力で潰す。

もちろん罠など姑息な手を使うというのはアリだが、それは向いていない。
何より並の罠が通じるのであればこんなに苦労はしていないだろう。
結局は脳筋のゴリ押しで勝つしかないのだ。


「ふっ、いくら攻撃しても無駄な事よ。お前達ごときでは我を殺すことはできん!」


男が腕を振るうと共に拡散弾のような光が扇状に飛び散り、それを回避しながら再び二人は距離を詰める。


ギィィィンッ………!


イナリが繰り出した袈裟斬りが中途半端な位置で弾かれてしまい、バランスを崩す。
代わりに命中したシュカの横薙ぎの一閃で腹に真一文字の傷が刻まれるが、そんなのお構い無し。
垂れ流れる血を無視して、胸ぐらを掴んだイナリを勢いよく突き飛ばす。


「けほっ………!」


そして引き止めようとしたシュカの頭を無理矢理押さえ込み、すぐさま咳き込むイナリに追いつくと。
お返しの豪快な袈裟斬り。

肉が裂ける生々しい音。
あまりにもあっさりと赤い鮮血が舞う。

男の口角が少し上がった気がした。
おそらく久々の感覚だとでも思っているのだろう。
大量虐殺を平気で行うような輩だ。
その思考回路を理解することは決して出来ないが、ある意味では分かりやすい。

二人の間でキラリと何かが輝いた。

怪訝そうな男の視線の先には、チェーンが外れ宙を舞うオレンジ色の宝石のネックレスがあり──────。

イナリがそれをパシッと左手でキャッチ。
途端に、彼女の纏う妖気の量が倍増した。


「何っ!?」
「はああっ!!」


一瞬で体勢を立て直したイナリのアッパーが鳩尾みぞおちにめり込み、続いて一回転からの回し蹴りがクリーンヒット。
バギィ!と重い音を立てて男を弾き飛ばす。

その先ではシュカが待ち構える。
刀身に炎を纏った刀で三連撃。
右手首を切断、胸に大きな傷など。
今度こそかの鋼の肉体に確実な損傷を与えた。





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