228 / 282
第12章
VS神野悪五郎
しおりを挟むキィィィンッ!!
真上に掲げられた分厚い日本刀に赤黒い妖気が集まり、敵を殲滅せんと巨大な衝撃波となって四方に拡散した。
嵐なんて比じゃない。
妖力の本流が竜巻のように荒れ狂い、一瞬のうちに彼の周囲を更地に変えた。
常人であれば、とっくに心臓が停止していてもおかしくない程の尋常ならざる殺気が、正面から叩きつけられる。
同時に男の近くで光が瞬き、弾丸のような光線が放たれた。
イナリとシュカはその場を左右に分かれて飛び退き、各々が反撃を開始。
シュカが羽衣のように身にまとっていた紅蓮の炎が主の元を離れて勢いを増し、男を飲み込んで大いに燃え盛る。
炎はまさに炎海と称すに相応しい様子で、大気を焦がし火の粉を撒き散らす。
普通なら骨も残らないだろうが、これでもあまり効いていないのは分かっている。
挨拶代わりの攻撃だ。
炎の間からちらりと見えた涼し気な瞳に無言でそう返す。
一拍遅れて、上空から自由落下の勢いを上乗せしたイナリが刀を振り下ろす。
しかし…………。
ぶつかり合った風圧でブワッ!と波状に炎が消し飛び、空気をこれでもかと振動させる。
あっさりと片手で掲げた日本刀によって受け止められてしまった。
視線が交差したのは一瞬。
ググッと刀が押し込まれそちらに気を取られた瞬間に、シュカの突き技で腹に衝撃を受け、男はくの字に体を折り曲げてぶっ飛んだ。
「うへへ~。自信なくすな~………」
苦笑い気味に、剣を持ち替えて突き出した右腕をぷらぷら揺さぶる。
相変わらず硬い。
今度はブシッ!と血が吹き出しているので、ダメージを与えられていることは明確だが、それでもその深さは数センチ程度。
あれくらいなら回復されるのも時間の問題だ。
一応、貫通させるつもりでやったのだが………。
「シュカさん!あいつ、弱点とかないんですか!?」
「ん~、困ったことに…………これと言ったのがないんだよねぇ~」
割と絶望的な情報をのほほんと口にするシュカさん。
これと言った弱点が無い。
それは神野悪五郎が、特殊な能力を一切"有していない"というのが原因の一つだろう。
ミリアのエクストラスキル〈無効貫通〉のように当たらなければ良いだとか、ノエルのようにある程度想像力がないと使えない能力だったりとか。
何とかして攻略の糸口を見つけられるような要素が存在しないのだ。
純粋な肉体と妖力による強さ。
その戦闘スタイル、明確な弱点が無いとなると攻略法はたった一つしか残されていない。
正面から実力で潰す。
もちろん罠など姑息な手を使うというのはアリだが、イナリにそれは向いていない。
何より並の罠が通じるのであればこんなに苦労はしていないだろう。
結局は脳筋のゴリ押しで勝つしかないのだ。
「ふっ、いくら攻撃しても無駄な事よ。お前達ごときでは我を殺すことはできん!」
男が腕を振るうと共に拡散弾のような光が扇状に飛び散り、それを回避しながら再び二人は距離を詰める。
ギィィィンッ………!
イナリが繰り出した袈裟斬りが中途半端な位置で弾かれてしまい、バランスを崩す。
代わりに命中したシュカの横薙ぎの一閃で腹に真一文字の傷が刻まれるが、そんなのお構い無し。
垂れ流れる血を無視して、胸ぐらを掴んだイナリを勢いよく突き飛ばす。
「けほっ………!」
そして引き止めようとしたシュカの頭を無理矢理押さえ込み、すぐさま咳き込むイナリに追いつくと。
お返しの豪快な袈裟斬り。
肉が裂ける生々しい音。
あまりにもあっさりと赤い鮮血が舞う。
男の口角が少し上がった気がした。
おそらく久々の感覚だとでも思っているのだろう。
大量虐殺を平気で行うような輩だ。
その思考回路を理解することは決して出来ないが、ある意味では分かりやすい。
二人の間でキラリと何かが輝いた。
怪訝そうな男の視線の先には、チェーンが外れ宙を舞うオレンジ色の宝石のネックレスがあり──────。
イナリがそれをパシッと左手でキャッチ。
途端に、彼女の纏う妖気の量が倍増した。
「何っ!?」
「はああっ!!」
一瞬で体勢を立て直したイナリのアッパーが鳩尾にめり込み、続いて一回転からの回し蹴りがクリーンヒット。
バギィ!と重い音を立てて男を弾き飛ばす。
その先ではシュカが待ち構える。
刀身に炎を纏った刀で三連撃。
右手首を切断、胸に大きな傷など。
今度こそかの鋼の肉体に確実な損傷を与えた。
20
お気に入りに追加
572
あなたにおすすめの小説
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
【物真似(モノマネ)】の力を嫉妬され仲間を外された俺が一人旅を始めたら……頼られるし、可愛い女の子たちとも仲良くなれて前より幸せなんですが?
シトラス=ライス
ファンタジー
銀髪の冒険者アルビスの持つ「物真似士(ものまねし)」という能力はとても優秀な能力だ。直前に他人が発動させた行動や技をそっくりそのまま真似て放つことができる……しかし先行して行動することが出来ず、誰かの後追いばかりになってしまうのが唯一の欠点だった。それでも優秀な能力であることは変わりがない。そんな能力を持つアルビスへリーダーで同郷出身のノワルは、パーティーからの離脱を宣告してくる。ノワル達は後追い行動ばかりで、更に自然とではあるが、トドメなどの美味しいところを全て持っていってしまうアルビスに不満を抱いていたからだった。
半ば強引にパーティーから外されてしまったアルビス。一人にされこの先どうしようとか途方に暮れる。
しかし自分の授かった能力を、世のため人のために使いたいという意志が変わることは無かったのだ。
こうして彼は広大なる大陸へ新たな一歩を踏み出してゆく――アルビス、16歳の決断だった。
それから2年後……東の山の都で、“なんでもできる凄い奴”と皆に引っ張りだこな、冒険者アルビスの姿があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる