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第10章

南門②

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剣技スキル、〈オクタグラム〉発動。
紅の光を纏った剣閃が閃き、次々と魔物を斬り裂く。



戦場を踊るように駆回る少女の姿は、まるで戦乙女ワルキューレのよう。
その少女─────ミリアの身を包むのは、白と真紅をベースに金色の刺繍が成された騎士服のようなものだ。
〈無効貫通〉を発動すると勝手に装備されるこの服には、"身体強化"、"自動修復"など様々な付与効果があり、また素材は謎だがありえないほど軽いので、戦闘において大きなアドバンテージをもたらす。

"破邪の魔王"との戦いを境に、エクストラスキルに〈無効貫通〉による恩恵はこれだけではない。

ずっと出来なかった〈無効貫通〉の常時発動が可能になっただけでなく、発動中の武器の基礎性能上昇、身体強化、魔力増強。
そしてなにより、ユニークスキル〈限界突破〉と、〈転幻〉の獲得だろう。

〈限界突破〉に関しては文字通りなので言うまでもないが、〈転幻〉というスキルはミリアもマシロも初めて見たものであった。

結論から言うと、〈転幻〉とは使用者の魂魄に干渉するスキルだった。
生物の核たる魂魄に干渉し、使用者の本来の力を解き放つスキル。
そのため解放後の姿はその者の内面に著しく影響を受けやすく、荒々しい性格ならば雄々しく猛った姿に。
冷淡な性格ならば凍てつくような氷をモチーフにした姿に。

これはあくまで数ある中の一例に過ぎず、典型的なパターンというものは存在しない。
人の心や魂に同じものがないように、使う人物によって千差万別、誰一人として同じ〈転幻〉を持つことはないのだ。

また〈転幻〉によって与えられる恩恵はステータスの底上げから始まり、特性の強化や魔法・スキルなどの性能上昇、特殊なスキルの習得など。
場合によっては生物としての格をも上げる時がある。
しかもこれはあくまで基本的に起こることに過ぎない。
先程言ったように〈転幻〉は生きとし生ける生物の数…………それこそ無限大の数を誇るのだ。

ミリアの場合は上記のステータスアップ系に加え、〈無効貫通〉の能力を引き出し、制御することが出来るようになる。
ちなみにスキルの効果としてはあくまで制御"補助"の域を出ないため、あまり使用者に対する負担が大きくなく、燃費としてはかなり良いと言えよう。
逆に言うと、〈転幻〉に覚醒しないと、一生〈無効貫通〉を"使いこなすことをは出来なかったと言うわけだ。
それだけ高度かつ強力なスキル。
さすがエクストラスキルに名を連ねるだけはある。


『グルァア!』

「ふっ!」


飛びかかってきたオオカミ型の魔物を一刀両断。
返り血がシャワーのように降り注ぐ間を抜けて、正面の太ったオークを一突きの元に葬り、引き抜きざまの一回転で周囲の魔物を一斉に蹴散らす。
ミリアを中心に撒き散らされた炎の軌跡に、魔物達が怯えたような気配を見せた。
しかし、さすがに自分達の懐に入り込んだ異物を好き勝手させる趣味は無いらしく、咆哮一つ。
目に殺意を漲らせながら突っ込んでくる。
数が数だけにまるで肉の壁が押し寄せてくるようだ。


「このくらい、どうって事ないわ!」


ミリアを圧殺せんと迫る壁の一番手前。
軽くミリアの三倍以上の体躯を誇るサイコロプスが振り下ろした腕を斬り落とし、ジュワッと傷口を焼く痛みに悶える体を踏み倒して前へ。
炎を纏わせた片手剣を上段に構え、両手で思いっきり振り下ろす。
放たれたのは、開戦してから間もない時にミリアが放った一撃と同じもの。
込められた莫大なエネルギーが、振り下ろした剣の延長線上へとどこまでも伸びて行き、爆散。
巻き上げられた炎の渦も相まって、魔物側に甚大な被害を与えた。


『ゴァアアアアアアッ!』


カッ───────!
と眩い閃光が一筋。
次の瞬間、圧倒的な熱量を含んだ紫色の光線が地を焼き尽くしながらミリアに迫る。
周囲の魔物すら巻き込んだ無差別の攻撃だ。
しかし、ミリアは危なげなく片手剣を盾がわりにかざし、その場に踏みとどまって光線を防ぐ。


キィイイインッ…………………。


甲高い音を残しながら光線が消えるまでの十数秒間。
多少押し返されはしたものの、ミリア自身へのダメージはほとんどゼロ。
熱線が撒き散らした火の粉を払いながら、悠然と腰のマントを翻す。


『クルルルルッ………!』


遥か向こうで、熱線を放った犯人であるトカゲ型の古代の魔物が忌々しそうに唸り声を上げた。
自分の会心の攻撃を防がれたことが、よほど頭に来ているらしい。
再び背を仰け反らせたかと思えば、背筋が赤色に発光。
ミリアが危険を感じて飛び上がるとほぼ同時に、先程とは比べ物にならない威力の熱線が解き放たれた。


『ゴァアアアアアッ!』


赤い閃光。
先程より数段加速した光が、魔物達の間を一瞬で通過。
遅れて、盛大な爆発とともに地面を抉る。
プスプスと煙が立ちのぼる地上では、もろに喰らった魔物や地面が溶解し、まるで地獄のような景色が広がっていた。
こんな熱線を放つ二足歩行のトカゲ型魔物……………もしこの光景をマシロが見ていたら、「ゴ○ラかな?」と白い目でツッコミを入れていた事だろう。

ちなみにあのトカゲ型魔物の正式名称は"リザード・ヒート"。
見た目はまんまゴ○ラだが、大きさは二階建てビルくらいとそれほど大きくない。
体内に摂氏四千度の炎を保管しており、それを魔力によって圧縮、加速させることによって絶大な威力を誇る火炎放射を放つ。
さらに肌を覆う岩石のような鱗は非常に固く、ダメージを与えるのは至難の業だ。


二度目も避けられ、ついに業を煮やしたリザード・ヒートが苛立ちの咆哮を上げる。
すると、全身から真っ赤な炎が溢れ出し、何十……………いや、何百の炎弾となって夜空を埋め尽くす。


『グルァアアアンッ!!』


そして、地上に降りたミリア目掛けて放たれた。
視界を染め上げる炎弾の嵐。
しかし───────。


「"天燐てんりん"」


ミリアが正面に掲げた片手剣に、紅の光が集束。
瞬き、炎が溢れ出す。
溢れ出した炎は渦となり。

急速に膨れ上がるプレッシャーに、リザード・ヒートは思わず後ずさる。
生き残っていた魔物達もそうだ。
鋭く、それでいて凛とした雰囲気に呑まれ、戦場を静けさが支配する。


そして。



「"不知火しらぬい"」


凛と響く一声。
ただ、左から右へと剣が一振されただけなのに。


キンッ────────。


澄み切った音と、残心の状態で静止する少女。
リザード・ヒート含め多くの魔物達が見た、最後の光景がそれだった。




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