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第10章

VS原初

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カッ──────!!



王城の上空で幾度となく衝突を繰り返し、夜空を照らすように紫と白の軌跡は衝撃波を撒き散らす。
ぶつかる毎にギャリギャリと耳障りな金属音が奏でられた。
古代魔法荒れ狂う混沌としたその場所に、少女の舌打ちが響いた。


「ちっ、この………!ちょこまかと!」


鬱陶うっとうしそうに羽織っていたローブを脱ぎ捨て、露わになったのは古代ローマ風の装束。
しかし、いわゆる見覚えのある白いものではなく、黒に染まった布地がベースだった。
右の二の腕には何やら金色の装飾がなされた腕輪をつけている。

灰髪を肩まで伸ばした赤眼の少女は、漆黒の片翼を大きく羽ばたかせて俺に追いつくと。
限界まで引き絞った右腕を振り払った。
剣のように手刀に纏った紫色の魔力が一閃。
その延長線もろとも大地を斬り裂く。

分厚い城壁がまるで豆腐のようにスパッと切断された。
恐ろしい斬れ味だ。
……………だが、当たらなければ全く意味がない。
再び放たれた斬撃を弾き、瞬時に少女の背後に移動。
お返しの一撃を喰らわせてやる。


「くっ!?」


俺の黒剣が、盾となった魔力の剣を砕き割った。
それでも尚止まらない刀身は少女を捉え、確かな手応えと共に城壁までぶっ飛ばす。
ドゴォオ!!と重々しい音で打ちつけられ、巻き上がった土煙の向こうからは苦しそうなうめきが聞こえてくる。

案外タフだな………。

俺はノエルと分担し、この"イル"という名の少女の相手をしていた。
相手は原初だ。
ここで放っておけばより被害が拡大してしまうため、唯一同等の力で戦える俺達が食い止めなければいけない。

あまり女の子を傷つけるのは趣味では無いのだが…………まぁ、俺の嫁に手を出した輩は男女関係なくボコる。
そんな心情の元さっきから何度もぶっ飛ばしたりしているのだが、一向に倒れる気配がないのだ。
HPが果てしない………いや、果てしないのは魔力か?

どうも妙な感覚だ。
ダメージは確かに与えているはず。
もちろん外傷を治されたりはするのだが、それとは別に驚くほと手応えがない。
ここで言う手応えってのは、HPを減らせている手応えって意味ね。

しかしHPが多すぎるわけでも、減ったそばから回復されて変化がない状態とも違う。
言わばゲームのチュートリアルで出てくる、HPの減らない敵キャラみたいな。

どれだけ攻撃を喰らおうが全く意に返さず、様子はさすがに引いた。
斬られたはずが、次の瞬間には逆再生のように傷が消えている。
回復魔法とはまた違う。
不老不死でもない。
不老不死なら俺みたいに血は出るはずだし……………。

魔力もそうだ。
先程から消費魔力の多い古代魔法ばかり使っているが、少女の残存魔力が一切、微動だにしないのだ。
どれだけ魔法を使おうが消費される魔力はゼロ。

ありえない。
山のように高くとも、少しずつ削っていけばいずれ小さな変化くらいは起こるだろう。
しかし、それが無い。
一切無い。

もはや"さすがは原初"という域を超えている。
それこそ無尽蔵の魔力やスタミナでも無い限り不可能な芸当だ。

………………いや、むしろこれこそが、彼女が"原初"たる所以ゆえんなのかもしれない。


「あの子の〈エクストラスキル〉と関係あるのかな」


エクストラスキル。
その名の通り、普通のスキルやユニークスキルのさらに上位互換たる特殊なスキルである。
ユニークスキルと同様に各エクストラスキルは世界に一つしか存在せず、の効果を誇る。

かつての聖魔戦争の最中であっても、エクストラスキルたった一つで戦況は一変すると言わしめた。
エルムとやり合える連中が蔓延はびこっていた時代にも関わらず、そんな事が言われていたんだから余程のものなのだろう。

言わば戦国時代に、ミサイルや戦車などの現代兵器を持ち込むようなもの。
下手すれば核兵器にも相当すると言っても過言では無い。

またその発現率は異常なまでに低く、近年発現者が全く居ないことから、今は存在すら幻想のものとして扱われている。

原初と呼ばれる王達、そして数千年前の太古に活躍したほんの一部の者達は、このエクストラスキルを所持していたらしい。


「くそっ……よくもぶっ飛ばしてくれたわね!」
「おっと」


片翼で土煙を吹き飛ばし、怒りご心頭の様子の少女は俺向けて右の手のひらを掲げる。
紫の魔法陣が生成された傍から大蛇が出現して噛み付いてきた。
人を丸々飲み込めそうなくらい大きい。
すっ、と躱して首を斬る。


「今更こんなのでどうにかなると─────」


俺は首を傾げた。
時間稼ぎならまだ分かるが、未だ少女は動く気配がない。

一体何をしたいのか。
それはすぐに明らかになった。



『シュルル……シュルルルルル!!』

「なっ、何それ!?」


頭部と泣き別れしてビクンビクンと痙攣けいれんしていたはずの胴体が、ゆらりと起き上がって、まるで一本の糸が通っているかのような動きで引かれ合い、頭とくっついた。
ベチャッ!!と生々しい余韻を残し、復活した大蛇が怪しく光る紅い瞳で俺を睨む。


「生き返った………?」


アンデッドや操り人形って感じじゃなかった。
しっかり生物だったのに。


「ふふっ、どう?これが私の力よ!」


少女が指を鳴らすと、空中に大量の魔法陣が出現。
大小様々なそれから数え切れないほどの魔物が姿を表した。
とんでもない数だ。
一人スタンピードとかずるいだろ………。

明らかに魔物のレベルも高いし、なんなら中には図鑑でしか見た事ない古代の魔物とかも居るし。
全員が謎の飛行能力を得ている。

召喚、もしくは使役的な能力か。
数の暴力だ。
シンプルだけど厄介すぎる。
まだ全勢力では無いだろうに、これだけで普通に一国が滅びるだろう。


「あんた達は下に行きなさい」

『グルア!』


「あっ、このやろ………!」


召喚した魔物のうち十数体が命令を受け、王城の敷地内に降りていってしまった。
ちっ、面倒なことしやがって…………でも尚更ここを離れる訳には行かなくなったし…………。

よし、あっちはカルマに任せよう。
俺はまた増える前に、なるべく早くこいつを無力化しないとな。



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