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第10章

パーティ

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「さっ、その料理運んで!机は定間隔、各自担当は確認した?」
「はい、問題ありません!」


体育館よりも広そうな大きな部屋で、大勢の声が飛び交い慌ただしく歩く音がする。
長方形の長テーブルを中心に周辺の机の上には色とりどりの料理や飾りの花、豪華な装飾のされた調度品などが参列。
全体的に煌びやかな洋装で、天井からはそれをより一層引き立たせる巨大なシャンデリアが垂れ下がっていた。
前には肩ほどの高さの壇もある。
作り的には本当に体育館に似ている。

ここはいわゆるパーティルーム的な部屋だ。

主に祝い事で使われ、今日もまたその眩しいまでの光を露わにする。
本日の主役は、曰|《いわ》く国民栄誉賞のような勲章を賜《たまわ》った貴族、+その他諸々。

つい先程まで授賞式を執り行っており、続いてこのパーティルームにて食事会や団欒が始まるという訳だ。
そのためメイドや執事含む従業員は総出で準備に勤しみ、こうして最終確認を終えた。

今回のパーティは国中から重鎮や貴族が集まる非常に大きなもの。
もし何か問題があれば大事件だ。
もちろんその分、入城する時のボディチェックなどはいつもより厳しめだが。

関連して王家の信頼も失墜しかねない。
万全の体制で望む必要がある。
また、俺達にとってはより一層気を引き締めなければいけない一日だ。
何せ大勢の人がここに来る。
当然普段より不審者が侵入する可能性も高く、どうしても警備が行き届かない事もあるだろう。
一時たりとも護衛の気は抜けない。
この機会に乗じて、また賊が来ないことを祈るばかりだ。


ちなみに俺は警備兼給仕のような役割で、パーティ中は部屋を歩き回りながら不審な人物は居ないか、何か困っている人は居ないかなど。
加えて、シャンパンを配ったり空になったお皿を取り替えたり、そんな感じで割とマルチタスクである。
その間の護衛はアイリスにお願いしており、ちょうど中盤で交代する予定だ。

ノエルはルイスの護衛。
ミリアとリーンは厨房で手伝い。
クロとイナリはほとんど俺と同じ仕事。

それぞれ担当は分かれているものの、もれなく大忙し。
まぁ、本職の人達はもっと忙しいんだろうけどね…………。
メイド長のレミアさんとか、特に忙しそうだった。
やっぱり管理職ともなると責任重大だし、いつか過労で倒れてしまわないか心配だ。



さて、その後に最最終確認も無事に済み、やがてパラパラと参加者の方々が入場して来た。
その数は次第に多くなり、十数分経つ頃には部屋いっぱいに人が溢れていた。

すごいな…………皆ドレスや高そうなスーツ着てる。
あの黄金の指輪とか一体いくらするの?
なんか余計に部屋のきらびやかさが倍増された気がする。
目がすっごいチカチカするんだけど、よくこの中で普通に食事したりできるな…………。
もはや慣れなのか?

………………おっと。
そうだ、そんなこと考えてないで仕事しないと。
銀色の丸トレイにいくつかシャンパンの入ったグラスを乗せ、片手に持っていざ出陣。


「シャンパンはいかがですか?」
「おお、一つくれるかい?」
「かしこまりました」


早速目の前の老貴族にグラスを渡す。

あー、やっぱり緊張するなぁ………そもそも接客とかあんまりやった事ないし………。
相手がお偉いさんなら尚更だ。

俺が最後に接客やった記憶なんて、高校の文化祭くらいだろう。
実行委員として駆り出され、ほとんど最後まで仕事をしていたのはもはや良い思い出。


「君、ちょっと良いかな」
「あ、はい。何でしょう」


俺は今、スタッフだと分かりやすいように専用の執事服を着ており、胸にはそれを示すバッチも付いている。
こんな風に話しかけやすくするためである。

一言二言交わしてから話しかけてきた男性はどこかへ行った。

さて、次は──────。


「あれ、あの子…………」


ふと視線で捉えたのは、淡い水色のドレス姿の小さな幼女。
普通居るはずのお供が誰一人居らず、ぽつんと佇んでいる。
迷子か?


「どうかなさいましたか?」
「………………」


試しに声をかけてみたが、まるで反応がない。
ちらっとその黒色の瞳で俺の方を見たものの、反応はたったそれっきりである。
ううむ、警戒されてるのかな………。
ほんの少し、瞳に陰りがあったのも気になる。


「あっ、ここにいらっしゃったんですか!」


声のした方向を振り返ると、メイド服に身を包んだ銀髪の女性が慌ててこちらにやって来た。
幼女が膝に手をついてぜぇせぇ言う女性の服の裾をちょこんと摘んだ。
あ、この人がお付きの人なのかな?
良かった良かった、無事に再会できたみたい。


「すみません、ご迷惑を………」
「いえ、お気になさらず」


やっとこさ息を整え、平謝りで女性は頭を下げる。
まぁ、迷子なんてよくある事だ。
むしろちゃんと再会出来て良かった。

女性に頭を上げてもらい、ついでに聞かれたことをいくつか答える。
その横で、なぜか幼女は俺の顔をじっと見つめていた。
それはもうじーーーーっと。
え、俺の顔に何かついてる………?


「では、失礼致します」
「どうぞごゆっくり」


ぺこりと会釈して二人を見送った。
ちなみに、人の壁で見えなくなるまでずっと幼女が俺の事を凝視していた。
一体何を思ってそんなに俺を見つめていたのだろう。


「あのぉ~」
「ああ、はい。何でしょう─────」




その後も、幾度も質問されたり案内したりした。
迷子はあの子っきり無し。
対して、貴族の女性に話しかけられる数が多かった。
主に話題は単なる雑談と、関係を持ちたいの二つに分かれたが。

後者は本当に何を思って執事の俺にその話題を振ったのだろうか。
身分違いとか気にしないのかな…………。
これって俺の偏見?

中には俺が"草原の剣聖"と知っていた人が極小人数居たのにも驚いた。
もちろん彼女らには口止めした。
でもその代償として、お見合いさせられる羽目になったけど…………。

そんなプチ事件とは裏腹にパーティはつつがなく進行し、徐々に最後のダンスの時間が近づいていた。



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