上 下
173 / 271
第9章

漆黒の闇の中で

しおりを挟む




全てが漆黒に飲まれ、奥行や大きさが全くと言って良いほど確認できない異質な空間。
唯一明かりを灯すのは、黒い円卓の上に置かれた一つの燭台のみだ。

鮮やかな紅い炎が怪しく揺れる。
それ以外何も無い。
いや、もしかしたら何かあるのかもしれないが、少なくとも視認は出来なかった。

そして、そんな円卓を囲むのは四人の男女だ。
それぞれの場所に設置された燭台に火が灯ると共に、少し周囲が照らされて隠されていた光景が明らかになった。
と言っても、見えるようになったものはたった一つ。

彼ら彼女らの向こう側にそびえる、巨大なまゆのようなものだけだ。
背後に影を伸ばす繭からは、ドクンドクンとまるで鼓動のような音が聞こえてくる。
生きているのだろうか。


「……………あの御方の復活は近い……」


脈打つ繭に目を向けながら、ついに男が口を開いて静寂を破った。
それに呼応するように影が揺らめく。
対して向かい側の二つの影は。


「邪魔なのはエルムのやつだよな~。あいつ、生きてたんだろ?」
「ええ。それに、も生き延びていたようね」


めんどくさいね~!と顔を合わせ不満を漏らす。
原初の中でも上位の実力を誇る二人が敵戦力として立ち塞がるのなら、たしかに厄介なことこの上ない。


はどうした」
いまだ封印中だってよ」
「かつて我らに相対した者がまだ……………不愉快ですわ!」


募った苛立ちを発散するかのごとく、憤慨した女性がダンッ!と円卓を叩いて立ち上がる。
一番主に心酔している彼女からすれば、その主に歯向かう奴らはただの虫けらに過ぎなかった。
虫けらが主を倒し、封印するなど………………ましてや再び主の前に立ちはだかろうなど、あってはならないことなのだ。


「……………しかも、どうやら一人……異分子が居るらしい」
「異分子?」
「ああ。原初の神のお気に入り。本気ではなかったとは言え、あのエルムと引き分けたそうだ」


「「「 !? 」」」


ガタッ!と全員が動揺を露わにして椅子を揺らした。
本来は居るはずのないイレギュラーな存在。
おそらく計画において最大級の障害になるであろう"その男"をどう始末するかだ。


「そいつ、人間なの?」
「まだ………一応な」
「ふーん………最近のやつらは雑魚ばっかりだと思ってたけど、少しはやるみたいじゃん」
「どこへ行く」
「そいつんとこだよ。たしかオルメストって国に居るんだよな」


ニヤニヤ気味の悪い笑みを浮かべて漆黒の向こうへと足を進めるのは、小柄な男女二人組。
世界を覆わんとする巨大な影のが今、動き出した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜

あけちともあき
ファンタジー
俺、多摩川奥野はクラスでも浮いた存在でボッチである。 クソなクラスごと異世界へ召喚されて早々に、俺だけステータス制じゃないことが発覚。 どんどん強くなる俺は、ふわっとした正義感の命じるままに世界を旅し、なんか英雄っぽいことをしていくのだ!

鬼神の刃──かつて世を震撼させた殺人鬼は、スキルが全ての世界で『無能者』へと転生させられるが、前世の記憶を使ってスキル無しで無双する──

ノリオ
ファンタジー
かつて、刀技だけで世界を破滅寸前まで追い込んだ、史上最悪にして最強の殺人鬼がいた。 魔法も特異体質も数多く存在したその世界で、彼は刀1つで数多の強敵たちと渡り合い、何百何千…………何万何十万と屍の山を築いてきた。 その凶悪で残虐な所業は、正に『鬼』。 その超絶で無双の強さは、正に『神』。 だからこそ、後に人々は彼を『鬼神』と呼び、恐怖に支配されながら生きてきた。 しかし、 そんな彼でも、当時の英雄と呼ばれる人間たちに殺され、この世を去ることになる。 ………………コレは、そんな男が、前世の記憶を持ったまま、異世界へと転生した物語。 当初は『無能者』として不遇な毎日を送るも、死に間際に前世の記憶を思い出した男が、神と世界に向けて、革命と戦乱を巻き起こす復讐譚────。 いずれ男が『魔王』として魔物たちの王に君臨する────『人類殲滅記』である。

俺だけ異世界行ける件〜会社をクビになった俺は異世界で最強となり、現実世界で気ままにスローライフを送る〜

平山和人
ファンタジー
平凡なサラリーマンである新城直人は不況の煽りで会社をクビになってしまう。 都会での暮らしに疲れた直人は、田舎の実家へと戻ることにした。 ある日、祖父の物置を掃除したら変わった鏡を見つける。その鏡は異世界へと繋がっていた。 さらに祖父が異世界を救った勇者であることが判明し、物置にあった武器やアイテムで直人はドラゴンをも一撃で倒す力を手に入れる。 こうして直人は異世界で魔物を倒して金を稼ぎ、現実では働かずにのんびり生きるスローライフ生活を始めるのであった。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

処理中です...