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第9章

デート "ノエル、アイリス編"②

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カランカラン。



「いらっしゃーい…………ってなんだ、マシロか」
「なんだとは失礼な」


おもむきのある木製のドアを開き、広々とした店内に入って最初に声をかけてきた茶髪の好青年。
彼こそこの"パラダイ"のオーナー、エントである。
実は昨年めでたく結婚したらしく、今は奥さんと共に母親から引き継いだこの伝統あるお菓子屋さんを切り盛りしているそうだ。

見た目通り爽やか長身系のイケメンで、彼目当てのお客さんも相当数居るとか居ないとか。
奥さんいわく、学生時代は大変モテていたらしい。
何の変哲もいろどりもない普通の学生生活を送っていた俺からすれば、もう羨ましいことこの上ない。

ちなみに奥さんとも学校で出会ったのだとか。
数多くの敵を乗り越え、最初にエントの心を射止めたのが奥さんと言うわけだ。


「アイリスさんも久しぶり。えっと……………そっちの子は?」
「あ、そっか。ノエルをここに連れて来たのは初めてだもんな」


俺の横で、キラキラした瞳で店内のお菓子やらショートケーキやらを見渡すノエル。
こっちは全く気にしていないようだけど……………そう言えば二人は初対面だったね。
アイリスはまだダグラス商館に居た時とか、その後も俺についてたまに来てたもんな。

ついでだから軽く紹介しようと思った。
が、首を傾げていたエントがはっ!と顎に手を当て、何やら考え込むように目を瞑ったことによって遮られた。

お?どうしたエント。
頭痛が痛いのか?

改めて目を開け、いぶかしげに俺とアイリスの間で視線を彷徨さまよわせる。
続いて、その茶色の瞳がノエルに移動。
数秒後に再び俺に戻ったかと思うと。


「まさか…………二人の子供か?」

「嫁だよ」
「お嫁さんですね」


「………………マジで?」

「マジで」
「マジですね」


「お前まさかロリK」
「ちがわい!」


おまっ、一応周りにもお客さんが大勢居るんだから、あんまり変な言葉使うなよ…………。
俺が変な目で見られるでしょうが。
すでに女性陣からは殺伐とした視線が注がれてますけども。

「エント君と親しげに話やがって~!」との心の怨嗟が聞こえてくるようである。
こいつ結婚してるのに……………あ、そういう事ではないんですねすみません。

てかエント、今ナチュラルに言ったけど、ノエルがお菓子に夢中じゃなかったら一発殴られてたかもだぞ、お前………..。
まぁさすがにノエルもそこまでバイオレンスじゃないと思うけど。


「いやー、びっくりしたよ。てっきり本当にやる事やってんのかと…………」
「やる事はやってますよ?ねぇ、ご主人様」
「え?あ、うんまぁ…………」
「あ、そう…………」


……………………反応に困る!
両方反応に困る!
ものすごくさらりと言いおったなアイリスさんよ。
別に特段隠すことでもないが………………いや、少なくとも公の場で言うようなものでもないのは確かだわ、うん。

エントからすれば、友達の嫁から"私達おせっせいしてます"って言われてる訳だからめちゃくちゃ気まずいだろう。
俺?俺も気まずいです。
すごく。


「あなた、これ運んどいてくれるー?」
「あ、おう!そこ置いといてくれ」
「はーい」


奥のカウンターから身を乗り出し、こちらに声を投げかけたのはエントと同じ茶髪の女性。
店のロゴが入ったエプロンを来たその姿は噂通りの美人さんである。


「んじゃ、俺は仕事に戻るよ。注文が決まったらまた呼んでくれ」
「はいよ」


若干周囲からの視線を感じつつ、カウンターの方へ向かうエントにお礼を言ってから四人がけの席に座る。
メニュー表は………………これまたオシャレだなぁ。

洒落たデザインが表紙のメニューを開き、三人で文字が陳列するページを覗き込む。
エクレア、クッキー、クラフティ、クレープ、マカロン等々。
前世ではバラバラの国が発祥のスイーツやお菓子の名前が所狭しと並んでいた。
凄いな、まさにスイーツ天国って感じだ。
値段も中々リーズナブルだし、こりゃ次から次へと手が伸びてしまいそうだ。
ただ───────。


「真白ー、"すふれ"?って何なのだ?」
「簡単に言うと、ふわふわした焼き菓子かな。パンケーキみたいな感じの」
「ほー………」

「ご主人様、この"セムラ"とはなんでしょう………」
「シュークリーム似の…………いや、あれって菓子パンなんだったっけ。丸パンの間にホイップクリームを挟んだやつね」
「へぇ…………」


こんな感じで、写真がない分どうしてもそのお菓子やスイーツの見た目がイメージできないのだ。
まぁどんなのが来るか分からないのも醍醐味だいごみの一つと言えばそうなのだが…………。

てか今更だけど、前世と名前が変わらないのがほとんどなんだな。
てっきり意味がわからん名前がずらっと並んでるのかと思ってた。
今のところ、だいたい見覚えのある名前ばかりだ。
時々こっち特有のお菓子があるけどね。

うーむ、野菜は名前が違くて味と見た目は同じのが多かったけど、お菓子を始め全部が全部そういう訳ではないらしい。
基準はわからんが同じだと分かりやすくてありがたい。


「とりあえず俺はアップルパイにしようかな。二人は?」
「じゃあスフレにするのだ!」
「私はセムラで」
「了解。おーい、エント!」


向こうのエントを呼んで注文を済ませ、待つことおよそ二、三分程度。
お皿に乗っけられたスイーツと小皿、フォークのセットが机に置かれた。



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