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第9章

デート②

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外面からすれば考えられないほど内装は整っていた。
まさに穴場のお店と言うに相応しい雰囲気がある。
壁際の棚にはよく分からない骨董品がこれでもかと並べられ、奥にはいくつか武器も見える。

そんな店内の奥のカウンターに座り、その厳つい顔面を盛大に顰めた大柄の男。
体は鋼のように筋骨隆々としていて、自己主張の激しい筋肉は着ているシャツをピチピチに引き伸ばす。
スキンヘッドにこの筋肉はもはや狙ってるだろ完全に。

ボディビルダーと言われた方がむしろ納得出来るであろうこの男、驚いたことに服屋ガインの店主なのだ。
……………正直、ここを服屋と言うには色々と抵抗があるが。

名前はガイン。

そこら辺の冒険者よりよっぽど冒険者な見た目だ。
大剣とかメイスとか似合うんじゃないか?
実際に数年前まではAランクの冒険者だったらしく、王都アインズベルンを拠点に相当暴れていたのだとか。
しかし、奥さんと出会ってからは危険な冒険者家業は引退し、こうして隠居じみた場所で服屋を営業していると言うわけだ。

そう、服屋。
だが俺はここを服屋とは断じて認めない……………むしろ雑貨屋だろうここは。
なにせ服より他の武具や珍品の方が数多いしな?
おまけに素材の買取もしているらしい。

最初は場所が場所なだけにお客さんが来ないのではないかと心配したものの、どうやら品揃えが良いのとガインのその人柄も相まって、一部の層からそこそこのお客さんが来るらしい。
売ってるものの中にはガインが現役時代に入手した珍しいものなんかもあり、特に冒険者からの需要があるそうだ。

ほら、ガインと同じAランクとかSランクの冒険者がよく来るんだってさ。
俺も何度か利用させてもらったことがある。
時々目を見張るような商品もあるから、中々馬鹿にできなかったりする。


「へっ、お前こそ相変わらずいい身分じゃねえか。昼間っから二人も美少女侍らせやがってよぉ」
「羨ましいだろ」
「残念だったな、俺は嫁さん一筋だ」


ガインの言う通り、彼は結婚してからこの方、嫁さん一筋うん十年。
未だ夫婦間の熱愛が絶えない愛妻家のガインの視線がすごく痛い。
迫力がすごいなまた…………。
若干イナリが気圧されてる。


おいこらうちのイナリを怯えさせるとはいい度胸じゃねえかこの野郎。


「……………で?今日は何しに来たんだよ。掘り出し物はまだねぇぞ?」
「いや、今日はクロとイナリの服を見に来たんだ」


店内をキョロキョロ見回し、近くの謎の置物をじっと見つめていたクロを呼ぶ。
もちろんずっと背後に隠れて抵抗していたイナリも、むんずと抱えてクロの隣に立たせた。


「あ、えっと、どうもぉ~……………」
「ほお………なるほど、プレゼントってわけか」
「そうそう。ほら、この前ガインが見せてくれたやつ、あれまだある?」
「ああ。ちょっと待ってな」


顎に手を当てて二人を見つめると、何かを確認してから奥の方へと向かって行った。
少しして、ずっと肩を張っていたイナリがそっと胸を撫で下ろした。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ?あんな顔でも中身は良いやつだから」
「うぅ、でも怖いじゃないですかぁ………」
「それは激しく同意」


まあ言いたいことは分かる。
ガインは性格はいいけど、完全に見た目で距離を置かれるタイプだ。
だって片手で人握りつぶしてそうなガタイと顔面だもん(失礼)。
短時間話すだけで、面倒見のいいアニキ的なやつだって分かるんだけどね。


「……………」
「お、それ気に入ったの?」
「ん」


静かだと思ったら、クロはまたさっきの置物を眺めていた。
正方形の台の上に乗った水晶の中で、さらさらと白い粒が降り注ぎ下に生えた木々や地面に積もる。
いわゆるスノードームの類似品だ。

こんなものまで売ってるんだな…………てか商品名"謎の玉"って。
単純か。
そして謎なものを売るなよ…………。

どうやらクロは相当これが気に入ったらしく、比較的大きな雪の結晶が振る度にしっぽがゆらゆら揺れる。
ほわー…………と無表情で目を輝かせる姿がとても可愛らしい。

よし、買った!
こんなの即決に決まってるだろう。
どれだけ高くとも、クロの可愛らしい姿がいつでもうちで眺められるならプライスレスなのです。


「ん………主、ありがとう」
「どういたしまして」


嬉しそうに微笑みながらスノードームを抱くクロにサムズアップを返す。
嫁が尊すぎて辛い。






その後、ガインを待っているうちに店内を物色していたイナリも欲しいものを見つけたらしく、それも一緒に購入することにした。

ちなみにイナリが選んだのは獣人用のお手入れセット。
ケモ耳からしっぽまで、用途によって使い分けできるくしが五種類入ったお得な商品だ。

イナリいわく、どれだけ荒れていても、まるで生まれ変わったかのように艶が蘇ると獣人界隈で話題の商品らしい。
当然俺が反対するわけも無く。
もふりながら綺麗にできるとか、まさに得しかない。
二人共喜んでくれたようで何よりだ。
後でガインにお礼言っとこう。

てかそうだ、ガイン遅いな……………。
完全に楽しそうに置物やら飾りやらを見るクロとイナリに夢中で忘れてたけど、そういやここには服を買いに来たんだった。
本来の目的そっちのけだ。


「悪い悪い、少し探すのに時間かかっちまった」


お、やっと戻ってきた。
キャッキャと仲良く商品を見て回る二人の向かい側で、奥から戻ってきたガインの手元には複数の可愛らしい衣服が積まれていた。



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