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第6章

徹底的に利用させてもらうわ

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「ねぇ、あんた……………なんで私を買ったの?」



主従契約を終え、家に帰るために王都を出て荒野を歩いていると、不意に少女こと"ミリア"が足を止めてそう問いかけた。
お、これはチャンスだ。
と言うのも、実は契約の時からずっと話しかけてもしおらしい返事をするか黙り込んでしまうかで、ちゃんと話をできていなかったのだ。

ミリアって名前も契約した時に表示されて知ったしね。
本当はもっと話すべき事とかあるんだろうけど……………こういう時どうすれば良いか分からん。

だからミリアから話しかけてくれたのは、正直言って非常にありがたい。
自分の情けなさに悲しくなりつつ、気を取り直して振り返る。
が、合わせた視線は気まずそうにそらされてしまった。
ううむ、なんかこうも最初と反応が違うと調子が狂うな…………。


「えっと、"なんでミリアを買ったのか"、だっけ。そりゃ助けたかったからとしか言いようがないな」
「……………助けてなんて、あんたにお願いした覚えは無いわ」
「いやまぁそうだけどさ……………」


すごく言い方がトゲトゲしてるなぁ…………。
やっとこさこちらを向いた瞳も、すっと細められてまるで余計なお世話とでも言いたげだ。


「ミリアの目的は"破邪はじゃの魔王"を見つけ出すことなんでしょ?」
「ええ」
「だったら、利用出来るものは徹底的に利用した方が良いと思うぞ」


ミリアにも既に話したが、俺はXランクの冒険者であり各地のギルドにもかなり顔が利く。
多少の無理も通せる立場にあるため、お願いすれば情報の収集など容易な事だろう。
自分で言うのもアレだが実力も確かなもの。
情報源的にも戦力的にもミリアの力になれるはずだ。


「……………てっきりあんたの事だから、復讐なんて忘れて生きろって言うのかと思ってたわ」
「本当はそうして欲しいんだけどね。だけどうちは放任主義だからさ、ミリアがやりたいのなら止めはしない」


俺の本心はたしかにミリアの言う通り。
しかし、家族も友達も知り合いも皆殺されて、でもそれを忘れて楽しく生きるなんてできるだろうか。
たぶん俺は無理だ。
ノエルやクロ、アイリスにイナリ。
仮に皆殺されてしまったら、俺は自分を抑える事が出来なくなるはずだ。
ミリアはまさに今、その状態にあるのであって、それを俺が無理矢理止めるのはやはり違う。

かと言って復讐の怒りに飲まれるのをただぼーっと傍観するつもりもないが………………とにかく、実に難しく繊細な事柄である。


「だいたい、子供は大人にわがまま言って甘えるもんだ。たとえ理不尽な事だろうと付き合ってあげるから、うちで暮らさない?」
「……………………子供って、あんたも変わらないじゃない」
「ぐふっ!?」


きょをつかれたような表情の後、すぐさま呆れ顔で放たれた言葉のボディブローが心にクリーンヒット。
思わず四つん這いに倒れ伏してしまう。
マジな声色で言われたのがなおのことダメージを……………。


「そんなに低い………?てかその言い方は辛い過去を思い出すからやめてくれ…………」
「あっ(察し)……………って、知らないわよあんたの過去なんて!」


哀れみの視線で申し訳なさそうにしたものの、それは一瞬だけではぁ、とため息をついてあっという間に元の調子に戻ると。


「分かったわよ。あんたがそこまで言うなら、徹底的に利用させてもらうわ」
「おう、骨の髄まで吸い尽くしてくれ」
「きもい」
「酷くない!?」


そんなに言わんでも…………。
まぁ、しゅんとしてるよりこっちの方がミリアらしくて安心感はあるんだけどさ。
受けるダメージもデカいんだよね。


「ふふ、私もマシロさん…………いえ、主様を吸いたいです。色々な意味で」
「それは却下するとして、別に今まで通り"マシロさん"呼びでいいんだよ?」


じーっと俺を見つめて舌なめずりするリーン。
血を吸うって意味なら構わないが、性的な意味ならもちろん却下だ。
そしてなぜか首輪を付けてから"主様"呼びに変わったことについて聞くが、リーンは「いえ」、とかぶりを振る。


「こちらの方がより主様を身近に感じれますし、が増します!」
「もしかしてリーンはドMさんなのかな?」


なんかもはや隠さなくなってきてないか?
グッと拳を握って力説するリーンをジト目で見つめる。
本人は否定とも肯定とも取れる微妙な返事で誤魔化してたけど、今俺の中では"リーン・ドM疑惑"が浮上している。
首輪を付けた時の発言やらなんやらで薄々感じてはいたが、これはかなり濃厚な説では?
気のせいだったら非常に申し訳ないのだが……………。


「(ちらっ)…………」
「(ぶんぶん)」


ミリアに目配せするが、まさか~…………みたいな顔でぶんぶん顔を横に振っていた。
だよね。
まぁ人の性癖がどうであれたとえリーンがドMであれ嫌いになる事は微塵もない。
が、リーンのイメージが百八十度真逆になる事は確かだ。


「さあ、どうでしょう。秘密です」

「………………気になるね」
「………………気になるわね」



ふふっ、とリーンは意味深に微笑む。
それはどっちの笑みなんですかね……………。
なんか少しだけミリアと仲良くなれた気がした。





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