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第4章 猫又編 (98〜104話)
宴会
しおりを挟む「うへへぇ~、やっぱりセンリのお酒は美味しいねぇ~!」
「わっはっは!当然じゃ、ワシが年月をかけて丹精込めて作った物だからのぅ。…………どれ、お主のクニの郷土料理とやらも食させてもらおうかの!」
氷でできた崖の上から、上機嫌な笑い声が二つ聞こえてくる。
お互いお酒や手土産の料理などを持参して、仲良く盃を交わしているのはシュカとセンリだ。
二人の周りに置かれているのは、何かの肉を薄い皮で包んだ小籠包のようなものを始め、鬼人のクニの郷土料理の数々。
そして、センリが自分で作ったらしいお酒の入った氷の入れ物等。
久々の再会に弾む会話を肴に、センリとシュカはどんどんとお酒と料理を口に運ぶ。
「お二人共、すっごく楽しそうですね………!」
「だね。こりゃシュカ連れて来て正解だったな」
そんな二人を下から眺め、イナリと顔を見合せながら頬を綻ばせる。
俺達は俺達で二人からそれぞれ料理を分けてもらい、あっちほどでは無いが盛り上がってプチ宴会中だ。
二人は一緒でもいいって言ってくれたんだけど、二人っきりの方が出てくる話題もあると思い、一旦はこんな感じで分かれてやる事にした。
「主、クロもそれ食べたい」
「はいよ。ほれ、あ~ん」
「あ~…………んっ」
俺の膝の上に頭を乗っけて寝っ転がるクロのリクエストに答え、先程の小籠包のようなものを箸で取って食べさせてやる。
熱いから気をつけてね?
小籠包の肉汁は軽く凶器だからな……………。
前世で横浜の中華街に行った時に熱々の小籠包を食べたんだけど、その時は無意識に一口で半分くらい食べちゃって、マジで死ぬかと思った。
もう熱いのなんのって。
おかげさまで舌を火傷してしまった。
そんな経験則があるので、ぜひクロには注意して欲しい。
クロはこくりと頷き、ふー、ふー、と息を吹きかけると……………………………ばくしっ!と一口で小籠包を口の中に収めてしまった。
「あっ!?」
「もぐもぐ……………ん、美味しい」
えぇ…………よく大丈夫だね………。
なんと、熱々の肉汁をたっぷり含んでいたであろう小籠包もどきを一口で食べてしまったのにも関わらず、平然と咀嚼してごっくんと飲み込んだクロ。
オマケに感想を言う余裕さえあるらしい。
テンプレよろしく猫人族は猫舌とかって訳じゃないのか……………。
あ、ちなみにクロは何も、好き好んでこんな体勢で食べている訳では無い。
傷は回復魔法で癒したものの、クロがセンリとの模擬戦の際に使ったと思われる技の副作用で、体が動かす度に悲鳴を上げているのだ。
本人曰く、指を動かすのでさえ億劫になるほど、との事。
あのクロにすらここまで言わせるのだから、相当肉体へのダメージが高いことが分かる。
痛み的には全身筋肉痛に近い感じらしいが………………明らかに比べ物にならないくらい今の方が重症だ。
これに関しては魔法じゃどうしようもないからなぁ…………。
俺達にできるのは、こうやって身の回りのお世話をしたりするくらい。
センリに聞いた限り結構頑張ったらしいので、ご褒美の意味合いも込めていっぱいちやほやしないと。
「あ、クロさんこれもどうですか?"サンダーバイソンの丸揚げ"、ですって!」
「ん、食べる」
「ですよね!……………えっと、はい、あ~ん」
「んむ、もっもっ……………」
イナリがどこからか持ってきたサンダーバイソンの丸揚げとやらを、必死に大きな口を開けてかぶりつく。
揺れる頬はまるでリスのようにパンパンだ。
その微笑ましい光景を見て、イナリはニヨニヨしながらふへへ………と幸せそうなため息を漏らす。
どうしたイナリ。
「えへへ…………なんだか必死に食べてるクロさんが小動物っぽくて、つい………!やっぱりクロさん可愛すぎます!」
どうやら今の状態のクロの可愛さにあてられて、それはもうメロメロらしい。
胸にズッキュン来たそう。
きゃー!とはしゃぎながら今度はフォークに肉を刺して、雛のように口を開けて待つクロに食べさせた。
分かる、その気持ちすっごいよく分かる。
「主、頭なでて~」
「任せんさい!よしよし」
「んぅ~………」
今のクロはちょっぴり甘えん坊だ。
いつも通りクロのきめ細やかな髪や耳を、クロが…………と言うか俺が満足するまで色んな方法で撫でたりもふったりしまくる。
クロが好きな耳の付け根をモフると、普段の無表情が若干崩れて気持ち良さそうに目を細めた。
あー、本当にクロの猫耳は触り心地抜群だ……………もう一生触ってられるね、うん。
されるがままのクロから少し手を離す。
すると、動けない体を必死に伸ばして、もっと撫でて!とでも言うかのようにグリグリ頭を押し付けてきた。
可愛い。
可愛すぎる。
「もうクロったら俺をキュン死させる気か!」
「んぅ~。主大好き」
「むぅ。クロさんだけずるいです!ご主人様、私もなでなでしてくださいよぉ!」
そこは嫉妬するんかい。
本人曰くそれはそれ、これはこれ。
素直に羨ましいんだってさ。
………………嬉しい事言ってくれるじゃんかイナリよ。
「マシローーーー!!」
「「えっ」」
早速両膝をついて頭を差し出し、準備万端で耳をピコピコさせて期待の眼差しを向けるイナリが微笑ましい。
もちろん俺からしてもバッチコイだ。
ご期待通りもふりまくってやるぜぇ!と、目を輝かせ手をわきわきさせていると、不意にデジャブを感じさせるセリフと共に俺達に大きな影が差した。
それに釣られて上を見た俺とイナリは呆然と口を半開きにし、デフォルトで仰向けの状態なクロは再びいつものジト目に戻ってしまう。
俺達が見た光景。
それは、氷の崖の上から跳躍して、満面の笑顔のままこちらに向かって一直線で落下する馬ほどの大きさの黒猫と、なぜかその上にひょうたんを片手に跨ったシュカだった。
一匹と一人、どちらも頬がかなり赤みがかっている事から、既に相当の量のお酒を飲んだ事がよく分かる。
黒猫は俺達の真横に音も無く着地し、背に乗せていたシュカを降ろす。
そしてポンッ!と煙を上げたかと思うとその姿は忽然と消えていて、視線を落とした先にはちょこんと小さな子供サイズの黒猫が一匹居た。
しっぽの毛先が白く染まった、二又の黒猫だ。
「マシロ、ワシも撫でてくれなのじゃ!」
「え………もしかして、センリさん………なんですか…………!?」
「んにゃ?そうじゃが?」
ぴょんっ!と飛び上がって俺の肩に乗り、頬をすりすりと擦り寄せて鳴き声を上げていた黒猫が当たり前のように首を傾げる。
あ、そういや昔、変身できるみたいな事を言ってたな……………。
これは種族の特性とかではなくて、猫又になったことによって得た新しい力だそうだ。
大きさなんかも結構変幻自在に変えることができ、食事や水の量、生活スペースなんかも少なくて済むから割と重宝しているのだとか。
あれだよな、イナリが言ってた一部の獣人にしか発現しない変身能力ってやつ。
うちのイナリも同じように子狐に変化できるけど、サイズの変化はちょっと難しいそうで。
おそらく熟練度が違うのだろう。
注文が二つ入ってしまったので、右手ではセンリを。
左手ではイナリを撫でたりもふったりする。
喉元をカリカリしてやるとゴロゴロと喉を鳴らし、背中でフリフリ揺れていたしっぽが腕に巻きついてきた。
さらに反対側のイナリはちょっと耳を触っただけで、すでにしっぽはぶんぶん荒ぶりまくりである。
…………………たまにはいつもあんまり触らない、しっぽの付け根ら辺も触ってみようかな。
多種多様に動くしっぽを前に、ふとそんな事を思った。
別に嫌いとか皆に嫌がられてたとかじゃなく、むしろ王都でクロに出会った日、撫でたら喜ばれた。
それに他の場所と違った感触がして気持ちよかったのをよく覚えている。
そんなふと思い浮かんだ出来心で、イナリのしっぽの付け根の毛をす~っと梳いてしまった。
「んぁっ………!」
途端に、イナリがビクビクッ!と逸らした背を震わせ、嬌声と共に熱を孕んだ甘いため息を漏らす。
………………………ん!?
反射的に一瞬体が固まり、しかしすぐさま我に返ってさっと手を引きぬ─────────(がしっ)。
「…………ご主人様、もっと……………もっとやってください…………」
「お、おう…………」
後ろ手に俺の腕を掴み、潤んだ瞳でそう懇願するイナリ。
え、いいの?
これ続けちゃって大丈夫?
正直、この音が反響する空間で嬌声を上げるイナリを撫で続けるのは若干、と言うかかなり抵抗があるんですが。
別にエッチなことをしている訳ではないはずなのに、なんだろうこの背徳感。
しかもここに居るのは俺以外、全員が女の子……………………気まずさの極地に至った気分だ。
「あっ………んん、ぁんっ………………」
助けを求めるようにセンリの方に顔を向ける。
「まったく、しっぽの付け根は獣人にとって大切な場所。それこそ性感帯と言っても過言では無いのじゃぞ?普通は大切な人以外にそうそう触らせるような場所ではないのじゃ」
俺はバッ!と膝枕されていたクロを見る。
すっ、と視線が逸らされた。
………………どうやら本当らしい。
「まぁワシらにとってはあまり関係ないじゃろ。マシロが好きだからのぅ。なんならワシのも触ってみるか?」
「そうすると俺の精神衛生上、大変よろしくないから遠慮しとく」
これ以上、俺の煩悩を増やさないでくれ……………。
ほら、そこでグビクビお酒飲んでるシュカを見習って俺達も宴会を再会しようそうしよう。
名残惜しそうにするイナリから手を離し、そばに置いてあったお酒の入った杯をくいっと傾ける。
……………これで顔が赤い言い訳ができるってもんよ。
ちなみにこの後、酔ったセンリとシュカの勢いに負けて、外が暗くなるまで皆で飲み明かした。
─────帰ったら当然のごとくノエルとアイリスに怒られました。
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