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第3章 出会い イナリ編 (60〜97話)
温泉旅館
しおりを挟む「おーっ、すごいのだ!」
「これはまた…………ソウカさんもずいぶん奮発して下さったみたいですね………」
「ちょっ、クロさんクロさん、ものすごく高そうなお茶碗があるんですが…………」
「ん。びっくり」
和服を身にまとった若い鬼人の女性に案内され、開いた襖から和室に入った皆がそれぞれ感嘆のため息と共にそんな感想を漏らした。
「ふふっ、喜んでもらえたようで何よりです。それではごゆっくり~」
「ありがとうございます」
女性は一度ぺこりとお辞儀してから静かに襖を閉めた。
思い思いに部屋を見て回っている皆に混ざり、改めて視線を巡らせる。
何畳あるかすら分からないほど広い空間の一角には、掛け軸やお香(?)のようなもの、そしてイナリが言っていたものすごく高そうなお茶碗が飾られていたり、その反対の収納棚には何かが丁寧にしまわれていた。
正直、部屋にこんな高級そうな代物がいっぱいあると壊さないか気が気でない。
盗んだりする不届きな輩が現れたりしないのかなぁ…………と尋ねたところ、どうもとある魔法を付与しているため、そもそも触ることが出来ないんだとか。
だから破損の心配も盗難の心配もほとんど無いんだって。
一応そこら辺はちゃんとしてるんだな…………。
魔法便利すぎ。
壊す心配がないなら安心して過ごせそうだ。
また中央の机にはお茶と急須、それと…………たぶんお菓子かな?
四角い黒い入れ物が二つ置いてある。
その横を通って奥の障子を開き、柵のついた縁側に出ると、外はぼんやりと輝く丸提灯に照らされて、そこら中から楽しそうなお祭り騒ぎが聞こえてくる。
眼下では皆、ワルーダの圧政から解放された喜びを噛み締めながらお祭りを楽しんでいた。
今頃シュカとソウカ ────────特にシュカは事件の後処理で大変な事になっているだろう。
あの後、散々抵抗するシュカをコブラツイストで捕獲したソウカは、俺が露天風呂を貸切にできる宿を探していると知り、お礼だと言ってわざわざこんな高級旅館を貸切にしてくれたのだ。
別にもっと普通の旅館でも良かったのだが、この際なので人生初の高級旅館宿泊をさせてもらう事にした。
シュカは最後の最後まで「ボクもマシロと一緒に行く~!」と駄々を捏ねていたものの、最終的には圧倒的身長差のソウカに背を摘まれて、強制的に連行されて行った。
きっと今は執務室でサボっていた分の仕事に明け暮れている頃だろう。
壊れた城の修復、操られていた兵士のケアや手当、またシュカを裏切ってワルーダ側に着いた鬼人の処罰など、書類だけでも山ほどある。
もちろん狐人族の村で捕縛していた鬼人達も、俺達が一度帰った時に漏れなく解放し、クニまで連れてきた。
あとはシュカ達が何とかしてくれるはずだ。
ちなみに事の発端であるワルーダは極刑こそ免れたものの、その次に厳しい刑として、開拓奴隷としてどこかの未開の地に売られたらしい。
余程の犯罪をしない限り開拓奴隷になんてなったりはしないが、まぁ一族を支配して他種族に喧嘩を売った罰としては妥当なのだろうか。
きっともう一生会うことは無い。
「あっ!ご主人様、こんな所に油揚げがありますよ!」
「なぜに油揚げ………?」
先程見た机の上の黒い箱に目をつけたイナリが、手前にあったそれを開けると、なんと中にはイナリの大好物の油揚げが何枚も入っていた。
目を輝かせたイナリがいそいそと両手に油揚げを持ち、幸せそうな表情でパクパク頬張る。
……………キツネが油揚げ好きってイメージはあるけど、実際のところ本当に好きなんだな………。
「で、どうするのだ?ワタシ達もお祭りを楽しむか?」
アイリスが入れてくれたお茶を飲みながら、ちょこんと俺の足の上に座ったノエルが俺を見上げながら首を傾げる。
ふっふっふっ、愚問!
時刻は何気に八時を過ぎ、辺りは暗く星も見えている。
そんな時に温泉旅館でやる事なんてもちろん決まってるさ!
と言うか、そもそもここを貸切にしてもらうに至った理由でもあるのだが………………。
ハテナ顔の皆の視線を一身に集めながら俺はズビシッ!、と右手の人差し指を天に掲げ、最上級のキメ顔で。
「皆で露天風呂に入ろう!!」
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