9 / 271
第1章 異世界へ (1話〜15話)
前兆②
しおりを挟む「皆さーん!そろそろお昼休憩ですよぉーー!!」
火を見守りながらそんな想像に耽っていると、既に完成していた二階建ての建物の入口から、ワンピースを着た女性が顔を覗かせた。
彼女はかつて冒険者ギルドの職員をしていたというシゼルさんで、皆と同じく故郷がスタンピードによって滅びてしまった被害者の一人だ。
ここに来てからは新設したこのギルドで開店準備に勤しんでいる。
最近本部との連絡事や書類の業務が多くて大変らしいけど、いつもその合間を縫って働く人達のためにお昼ご飯を作ってくれてくれるのだ。
正直過労で倒れてしまわないか心配ではあるが、非常にありがたい。
皆、毎日シゼルさんのご飯を楽しみに仕事をしてるくらいだ。
そのため声を聞いた途端、待ってましたと言わんばかりに仕事を中断して、我先にギルド前に殺到。
今日はどうやらネイやノエル達と協力しておにぎりを作ってくれたらしい。
シゼルさん達が、つまみ食いしようとするシルバの手を頬を膨らませながら防ぎ、大量のおにぎりが乗ったお盆を村の真ん中にある広場の机に置く。
皆に飲み物を配れば準備完了。
「「「「「いただきますっ!!」」」」」
日中働きっぱなしでお腹の空いた皆が一斉におにぎりに手を伸ばし、あっという間に一つ目のお盆が空になってしまった。
相変わらずすごい食べっぷりだ。
と、呑気にそんな事言ってたら無くなっちゃう!
俺も食べよっと。
新しく運ばれてきたお盆からおにぎりを取り、一口頬張る。
……………んむ、美味しすぎる!
労働した後のご飯は格別に美味しい。
これなんの具だろう。
味的にはおかかに近い感じ。
異世界におかかってあんのかな…………。
て言うかテンプレだと異世界ってお米が珍しいイメージなんだけど、みんな気にせず普通に食べてるのな。
ここら辺ではあんまり珍しくないとか?
ふとそんな素朴な疑問が頭に浮かんだが、今はそんな事よりおにぎりを食べたいのでスルーする。
バクバク食べる皆に負けじと俺もいっぱい食べる。
…………皆でワイワイガヤガヤ騒ぎながら食べるご飯なんて、前世じゃ考えられなかった。
こういうのも楽しいな。
「真白真白!私が作ったおにぎりも食べて欲しいのだ!」
「お、これノエルが作ったんだ。上手く出来たね」
手伝いが終わったらしいノエルが両手におにぎりを持って走ってきた。
これはお世辞じゃなくて、本当に上手く握れてた。
そう言えばこの前普通にシゼルさんの料理も手伝ってたし、ノエルって意外と手先が器用…………?
はっ、まさかやろうと思えばお菓子も作れるのでは!?
そうなるとやばい。
俺が禁止しても勝手に作って食べてしまう。
それは健康上あまり宜しくないので、ぜひやめて欲しいのだが………。
「真白!あ~ん、なのだ」
「あ~ん………ん!?」
言われるがまま口を開いて、ノエルが差し出したおにぎりをぱくりと一口食べる。
途端に、俺は思わず声を上げてしまった。
あ、いや、別に味がアレだった訳じゃないよ?
というか、むしろさっきのに比べて美味しすぎるくらいだ。
その美味しすぎるのにびっくりしたわけで。
使ってるものは違わなそうだし、これは一体どういう…………?
何か隠し味でもあるのかと、じっと欠けたおにぎりを見つめるが、見た目では他のと区別がつかない。
「おーおー、仲良しな兄妹だこった。俺もあーんされてぇなぁ」
おにぎり片手にやって来たシルバが、茶化すように言いながら俺の隣にドカッと腰を下ろす。
「む、違うのだ!ワタシと真白は兄妹じゃなくて、夫婦なのだ!」
「は!?そうだったのか!?」
「あれ、そういや言ってなかったっけ」
危うく飲んでいた水を吹き出しそうになったシルバが、驚いたように俺とノエルの間で視線を行ったり来たりさせる。
周りの人達も自分の耳を疑いながらこっちに顔を向ける。
特にネイの反応が過敏だった。
ピクピクッとエルフ特有の長い耳の先端が震え、勢いよくこっちを振り返っていた。
あ、これ言ってなかった感じだね。
ネイが膝から崩れ落ちた。
えっ、ちょ、どうしたの!?
「そうだったのか………俺ぁてっきり兄妹なんだと」
「俺も。でも確かに言われると、髪色も目の色も違うもんな」
「…………マシロ、もしかしてロリコンだったり───────」
「違うよ!?」
ネイのなぜかトゲのあるツッコミ。
たしかにノエルはロリだけども!
決してそんな理由で結婚を決めたわけじゃないからね!?
◇◆◇◆◇◆
昼食を終え、それぞれ自分の持ち場に戻って仕事を再開し始めた。
それから三時間くらい経った頃だろうか。
突然地面が小さく揺れだした。
地震かな………。
どうしよう、まだそれほどじゃないけど、火って消した方がいいのかな。
「危ないから一応消すか。ネイ、そっちの火を────ネイ!?どうした!?」
火事になってしまっては大変なので、とりあえず火を消そうと隣の窯を見ていたネイに声をかけたが、反応がない。
気になって見ると、顔を青ざめさせたネイが自身の腕を抱いて小刻みに震えていた。
急いで駆け寄って肩を支える。
いつも気の強いネイからすると想像も出来ないほど、彼女は何かに怖がって身を縮める。
「………ぁ……ぁぁ…………マシロ………!」
涙を目尻に溜め、縋るように俺の胸元に抱きつくネイ。
一体何が…………っ、遠くから複数の魔物の気配が近づいてる!?
しかもこの尋常じゃない数、まさか。
俺の予想した通り、すぐに揺れは大きくなり魔物の気配は近づいてくる。
その数は〈気配感知〉のスキル上だと、村の北西一面が敵意を示す赤黒い反応で染まってしまうほどだ。
これは地震なんかじゃない。
間違いなく魔物達が地を蹴る足音だ。
彼女達にとっては、トラウマを産み付けた悪夢の再来でしかない。
シルバやネイ達の町を壊滅させた、魔物のスタンピードがこの新しい村をも飲み込もうとしていた。
159
お気に入りに追加
566
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
じい様が行く 「いのちだいじに」異世界ゆるり旅
蛍石(ふろ~らいと)
ファンタジー
のんびり茶畑の世話をしながら、茶園を営む晴太郎73歳。
夜は孫と一緒にオンラインゲームをこなす若々しいじい様。
そんなじい様が間違いで異世界転生?
いえ孫の身代わりで異世界行くんです。
じい様は今日も元気に異世界ライフを満喫します。
2日に1本を目安に更新したいところです。
1話2,000文字程度と短めですが。
頑張らない程度に頑張ります。
ほぼほぼシリアスはありません。
描けませんので。
感想もたくさんありがとうです。
ネタバレ設定してません。
なるべく返事を書きたいところです。
ふわっとした知識で書いてるのでツッコミ処が多いかもしれません。
申し訳ないです。
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
俺だけ異世界行ける件〜会社をクビになった俺は異世界で最強となり、現実世界で気ままにスローライフを送る〜
平山和人
ファンタジー
平凡なサラリーマンである新城直人は不況の煽りで会社をクビになってしまう。
都会での暮らしに疲れた直人は、田舎の実家へと戻ることにした。
ある日、祖父の物置を掃除したら変わった鏡を見つける。その鏡は異世界へと繋がっていた。
さらに祖父が異世界を救った勇者であることが判明し、物置にあった武器やアイテムで直人はドラゴンをも一撃で倒す力を手に入れる。
こうして直人は異世界で魔物を倒して金を稼ぎ、現実では働かずにのんびり生きるスローライフ生活を始めるのであった。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる