366日の奇跡

夏目とろ

文字の大きさ
上 下
36 / 103
[第3章]リコール

14 要side (書記)

しおりを挟む
 それから一時間後にようやくメンバー全員が揃った。それまで静かだった生徒会室が一気に騒がしくなる。だが、まあいつもの光景だ。

「会長、どうしたのさ。土日は休みだってそう言ってたよね?」

 そう言ったのは庶務の日下部で、休みの日くらいはゆっくりしていたいのにと頬を膨らませた。

 ふと皆が集まる前の静けさを思い出し、羽柴はいつもあの静けさの中で仕事をしていたのかと今更ながら思い知る。誰もいない生徒会室はシンと静まり返り、いつもは全く聞こえない空調の音がやけに大きく聞こえた。そんな中、羽柴は休日も返上で、あまつさえ門限ぎりぎりの深夜に及ぶまで仕事をしていたはずだ。

「鷹司……?」
「あ、ああ。悪い」

 副会長で幼なじみでもある椿野の声に我に返った。

「ぼーっとするなんて鷹司らしくないな! 疲れてるなら寮に帰って休んどけよ。俺達が鷹司の分も仕事をやっとくからさ! そのための仲間だろ」

 佐倉はいつもの大声でそう言うと、俺の背中をバンバンと平手で叩いた。羽柴はどんな時もたった一人で黙々と仕事を熟していた。それは羽柴が前会長から今年度の会長に任命されたからで、それは去年一年間、きっちり会長補佐の仕事をやり抜いたからで……。

「かいちょ、だいじょぶ?」

 普段、滅多に声を出さない庶務の不知火しらぬいにまで心配されてしまった。不知火はその大きな体と睨みを効かせた三白眼に似合わない繊細な心の持ち主で、佐倉は不知火が偏見の目で見られて傷付いていることを一発で見抜いた。
 佐倉は総長時代の自分もそうだったからよくわかると不知火の懐に入り込み、酷い人見知りの不知火の心を鷲掴みにした。佐倉は少し馴れ馴れしすぎるところもあるが、総長時代に培った仲間意識と強調性、仲間を統一する力を含めたカリスマ性は大きな武器になる。

 佐倉は羽柴の解雇後に入って来たメンバーだが、佐倉も今となってはうちの生徒会には必要不可欠な人材だ。だとしたら……。

「佐倉、皆も聞いてくれ。今日は元会長で、リコールが通って解雇された羽柴のことについて話がある」
「ちょ、かいちょ!」

 日向が慌てて止めに入ったが、これ以上、俺は黙っていられない。

「佐倉。仕事をサボっていたのは羽柴じゃなくて俺らの方で、羽柴は俺らの分も含め、たった一人で生徒会の全仕事を熟していたんだ」
「……は? 鷹司、なに言って……」
「それから生徒会室にお気に入りの親衛隊員を連れ込んで、毎日乱交パーティーをしてるって噂は全くのデマだ。そもそも羽柴には親衛隊もなかった」
「え……」

 他のメンバーは俺の話に顔面蒼白で、

「そ、そんな。俺は無実の人間をリコールしたのか……?」

 佐倉は初耳だろう今回の件の真相に固まってしまっている。

「羽柴が会長になったのは羽柴が去年一年間、会長補佐の仕事をきっちり熟して前会長から会長に任命されたからだ。うちの学校には次に会長を任せる生徒を一年生の中から選び、一年間、会長補佐として生徒会の仕事をみっちり叩き込む風習がある。俺は羽柴より先に前会長から会長補佐の着任を打診されたが、それを蹴って一年間遊びほうけていたんだ」
「……」
「つまりは羽柴が解雇される要因は一つもない。前会長から後続を託された羽柴こそ、会長に相応しい人間だ」

 6名ものメンバーがいるのに、例によって空調の音が聞こえた。安心しろ。全校生徒から選ばれたお前らには責任取らせねえから。悪いのは全部俺だ。

「よって俺は柴咲しばさき学園高等部生徒会、会長の権限をもって今、ここに宣言する」
「ちょ、待っ……」
「令和×年4月23日、14時39分。不当に解雇された羽柴翼を会長に戻し、現会長の鷹司かなめをリコールする」
「……!!」

 会長にそんな権限があるかどうかは不明だが、不当に解雇されたものを取り消すだけだ。
 
 それなら何も問題ないだろ?



【注釈】
鷹司が宣言している年号は執筆時(2015年)に倣って平成でしたが、改正に伴って令和に書き換えさせて頂きました
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

管理委員長なんてさっさと辞めたい

白鳩 唯斗
BL
王道転校生のせいでストレス爆発寸前の主人公のお話

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

ボクに構わないで

睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。 あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。 でも、楽しかった。今までにないほどに… あいつが来るまでは… -------------------------------------------------------------------------------------- 1個目と同じく非王道学園ものです。 初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

天使様はいつも不機嫌です

白鳩 唯斗
BL
 兎に角口が悪い主人公。

皇帝の立役者

白鳩 唯斗
BL
 実の弟に毒を盛られた。 「全てあなた達が悪いんですよ」  ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。  その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。  目を開けると、数年前に回帰していた。

気にしないで。邪魔はしないから

村人F
BL
健気な可愛い男の子のお話 , , , , 王道学園であんなことやこんなことが!? 王道転校生がみんなから愛される物語〈ストーリー〉 まぁ僕には関係ないんだけどね。 嫌われて いじめられて 必要ない存在な僕 会長 すきです。 ごめんなさい 好きでいるだけだから 許してください お願いします。 アルファポリスで書くのめっちゃ緊張します!!!(え) うぉぉぉぉぉ!!(このようにテンションくそ高作者が送るシリアスストーリー💞)

処理中です...