366日の奇跡

夏目とろ

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[第3章]リコール

13 要side (書記)

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 佐倉は一学期が始まって一週間目にS組に編入して来た転校生で、春休みに父親の海外赴任が決まってうちに来た。大勢の使用人を抱える大富豪の子息でもある佐倉は両親が不在でも全く問題はないが、それまでの自分を変えるためにうちに来たと言っていた。思ったよりも編入手続きに手間取り、始業式には間に合わなかったんだそうだ。

 転校初日、皆がドン引きするような大声で、

「俺、佐倉鈴音れおんって言うんだ! 気軽にレオンって呼んでくれよな!」

 そんな自己紹介をした佐倉。ドン引きしたのはその自己紹介だけじゃなく、明らかにウイッグだとわかるパーティーグッズの黒髪アフロと牛乳瓶底眼鏡で変装していたことで、後日変装を解いた佐倉は綺麗なハニーブラウンの髪をした美少年だった。因みに、フランス人の母親と日本人の父親との間に生まれたハーフらしい。

 そんな風に転校初日から浮いていて、言い換えればエリートな俺達の目には新鮮に映った。変装したのは有名な不良グループの前総長だからそれがばれないためだと言うし、ともかく破天荒な佐倉は俺達の周りにはいないタイプの人間で。
 転校して来て三日目にその不良グループの存在を知る者がうちの学校にいないと知ると、あっさり変装を解いて自分の秘密をばらした。秘密だらけのエリート達にはそのことも魅力的に映ったのか、とにかく直ぐにクラスの人気者になったのだ。

 心の底にほの暗いものを抱える椿野は特に佐倉に心酔していて、いい意味で世間知らずの椿野は直ぐに佐倉の虜になった。そんな佐倉は仲間意識の他にもヘンに正義感が強く、根も葉も無い噂を鵜呑みにして羽柴をリコールしてしまい。
 悪気があったわけじゃなく、ただ空気が読めないだけだから尚更たちが悪い。総長だったからこそ仲間意識も強いんだろうが、不良仲間以外の友達も作ろうと必死なのだろう。

「……チッ」

 その気持ちもわからなくはないが、とにかく周りを見ろと言ってやりたい。それ以前にサボっているのは自分達の方なのに、俺達がつるんでいるから羽柴がサボっていると佐倉が思ったこともリコールの理由の一つなのに、それを正さなかった自分にも腹が立つ。そう考えるとますます、

「…………」

 自分が会長でいいのかと疑心暗鬼に陥った。

 佐倉はうちの難しい編入試験をパスした人間で、優秀さで言ったら書記として申し分ない人材なんだろう。ただ、その場を和ませたい一心なのかどうかは不明だが、修羅場ってる時に限って、

「こんな時こそゆとりが大切だって!」

 そんな謎の発言をして、椿野に紅茶を淹れさせて無理矢理休憩を挟みたがる。ただ空気を読めないだけで悪気はないとわかってはいても、忙しさのあまり殺意が沸いて来るんだよな。それとなく注意しようと口を挟むと、椿野や日向から佐倉を虐めるなと集中攻撃を受けるし。
 佐倉はメンバー達の欠点を一発で見抜き、そんなお前だけど俺は絶対に見捨てないと謎の宣言をして皆の心を掴んだ。例えばこれが羽柴だと、自分は悪者に思われてもいいからその欠点を直してやろうとするだろう。直接的な接触はなくとも、この一ヶ月の間にそれを嫌と言うほど痛感した。

 羽柴が会長になってから、俺はいい意味でも悪い意味でも羽柴のことが気になって仕方がない。会長のデスクの上にぽつんと残されていたテディベア。今でもデスクの上にあり、何故だか処分出来ずにいる。

「ああくそっ!」

 生徒会室に来る途中、学生寮で久しぶりに羽柴の姿を見掛けた。制服だったから学校に行くのかと思いきや、学校に続く裏門からじゃなく外出する時にしか利用しない表門から出て行った。
 その時の羽柴の晴れ晴れしい顔が忘れられない。顔色もよく、目の下のクマも見られなかった。相変わらず長い前髪が顔を半分隠してはいたが、いつもの寝癖もついてなくて。

「……はあ」

 ともかくこのままでいいはずがない。そう確信した俺は椿野に電話をして、他のメンバーも生徒会室に来るよう呼び出して貰うことにした。
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