憑かれ男子

夏目とろ

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憑かれ男子

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 どうやら拓海先輩は目の前の中途半端な容姿の大学生(俺のことね)が自分の幼なじみだと気付いたようで、

「入れば」

 そう言って俺たちを部屋に入れてくれた。通された玄関の先には長い廊下まであり、部屋数が一つじゃないことを物語っている。
 部屋がいくらあるのか聞きたかったけど、ここで聞くのはやめにした。拓海先輩が案内してくれたのは一人暮らしにしては広すぎるリビングで、勝手知ったる様子で玲先輩は拓海先輩の背中を追う。

「お前……、本当に玲なのか?」

 そう聞いてくる言葉は半信半疑だが、拓海先輩の目は真っ直ぐに俺の姿の玲先輩を見詰めていた。

「うん。この身体は同じ大学の後輩君のものなんだけど、彼が拓海と話して来いって貸してくれたんだ」

 そう言う玲先輩の眼差しはとても柔らかくて、拓海先輩のことを優しい目で見詰めている。

「俺さ。拓海の前で間抜けにも階段から落っこちちゃったじゃん? しかもそのまま死んじゃったりしてさ。それ、拓海のせいじゃないから。全部俺のせい。だから拓海には俺に負い目を感じて欲しくないんだ」

 どうやら自嘲気味に語り始めた俺の中に玲先輩を見たようで、拓海先輩からは警戒心がすっかり抜け、ただ静かに玲先輩の声に耳を傾けている。

「実は、ね。俺……拓海のことが好きだったんだ」
「それは俺も……」
「そうじゃなくて。親友としての好きじゃなくて、恋愛感情から来る好き……、つまりはライクじゃなくてラブだったんだよ」

 その声はとても小さかったけれど、先輩の想いは拓海先輩にしっかり伝わったようだった。

 高級そうな黒いレザーのソファーに向かい合わせに座り、玲先輩は拓海先輩に想いのたけを伝えた。長い長い沈黙の後、拓海先輩がおもむろに玲先輩の隣に移動する。

「俺も玲と同じって言ったら……?」

 そう言う拓海先輩の声は、さっきよりも低く掠れている。

「玲」
「……なに?」
「見た目は玲じゃないけど、中身は間違いなく玲なんだな?」

 玲先輩がそうだよと言った時には、俺はソファーの上に押し倒されていたのだった。


 申し訳ないなあといつも思うのは、憑依されている間も意識や感覚は遮断出来ないということ。こうやって触れられると身を持って感じるし、二人の会話もしっかり耳に入って来る。どうやら二人が両思いだったのは明白で、

「あ……」

 優しく優しく頬を撫でられて、俺は思わず甘い吐息を零してしまった。
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