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- 陰の王国と廻りだす歯車 -

『氷の貴公子と妖しく光る瞳…』

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…なぜでしょうか。

先ほどから、ごまかされてる感が半端ないのですがーー。

「書き換えられた一部の記憶、と先ほど言いましたよね?それは…」

聞いていいのでしょうか。今さらなんですが、これは兄上のことですし、何より本人差し置いて、ジークから聞くというのは… 少し気が引けてしまって。言い淀む僕の心境を知ってか知らずか、ジークは口を開きました。

「書き換えたのは、ほんの一部だ。アイツに乳母がいたことを含め、あの惨劇の全てーー。無論、ジキルドの記憶だけを操作したところで意味を成さない。そう考えたこの国の守護精霊は… 前国王夫妻を含めたこの国の民からその部分だけの記憶を書き換えた」

『だが』

そう切り出すジークはその端正な顔立ちを歪めた。

「この世に完璧なものはない。そしてそれは精霊を含めた王も同じ。記憶が無くとも、心は… 否、魂は覚えている。そしてそれはお前にも言えることだ。ル… オーディット」

ーー 今、ジークが何かを言いかけたような気がしましたが、気のせいでしょうか?

「ジークは…」

少し言い淀んで、それから顔を上げた。

「ジーク、あなたは… 一体、」

何者なんですか?そう聞こうとしたのに、なぜか言葉にならない。ジークの瞳の色が一瞬、変わったような気がして… それを見た途端、なぜか急に眠気を感じました。

「疲れただろう?少し喋り過ぎたようだ」

もう、夜更けだ。早く寝ろと言うジークに、そんな馬鹿なと窓を見る。さっきまで… というより、朝、起きたばかりだったはず。なのに、どういうわけか、窓を見ると本当に外が真っ暗になっていました。

Σえ、えぇええッ!?

眠気も吹き飛び、吃驚して目を見開く僕に… 
ただ、一人ジークだけは驚きもせず、再度、僕の目を覗き込む…

ジークの目が一瞬、妖しく光ったような気がして、

「え?」

目を瞬くと、

「効かない、のか…?」

ジークは驚いたような表情で、けれど…


「ああ、なるほど。」

一人納得すると、顎に指を添えて頷いた。


「効かないって何のことですか?」

そんな僕の問いに困ったように笑うだけで、答えてくれないジークは…

「何でもない。ただの… そう、独り言だ。ーーそうだ。ジキルドから伝言でな、食事は… 王族揃って共に取るのが通例だが、襲撃事件の一件とお前のトラウマを考慮して、オーディット、お前の食事は部屋で取らせるように取り計らっているが、それで構わないか?」

少し申し訳なく思うも、兄上からのその有り難い申し出に頷く。

「それから、城内は… 好きに動いても構わないそうだ」

好きに動いても構わない、その言葉に、僕はゲーム中のオーディットの断罪を思い出して… 

「どうしたんだ?難しい表情をして」

「いえ… ただ、今まで部屋から出ることがなかった分、楽しみで…」

自分の死を回避するためにはこの世界をもっと知らなければならない。そして、その断罪の決定打となる母上の行動を先読みして… 阻止しないと!

内心、意気込むのをおもてに出さず、笑みを向けると…

先ほど見たジークの瞳と、さっき僕が聞いた質問の答えが知りたくて、聞いてみようと口を開きかけたとき、ジークの瞳がまた色濃くなったような気がして…

咄嗟に掴んだジークの袖を握り締めたまま、僕の意識はそこでシャットアウトしてしまいましたーー。
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