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- 陰の王国と廻りだす歯車 -

『星降る夜に偲ぶ想い出』

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「ジキルドが… いや、俺たちが今、最も警戒すべき相手は影の存在だ。実体を持たない… 意思だけの存在。この国に昔から存在する忌むべきモノ───。」

影は影でも魔神バルディモスとは全く別のモノ。

「アレはこの国の負の遺産であり、この国が創建されたときから存在し、人間や精霊の負の感情を糧にこの地を支配してきた混沌とした名無き闇の存在。…俺はずっとこの国を守ってきた。国の守護精霊として。ずっとアレを力ずくで抑え込んでいた」

『……精霊や神が力を発揮出来るのは信仰心があってこそ。けれど、信仰心が無くなれば精霊は… 存在意義を失くし、力の弱い精霊は… 消えてしまう』

「ああ、そうだ。俺達は力が強い部類に入るから、存在は消えやしないが、それでも… 大半の力を失い、本来の力が発揮できない。───故に、アレがいつ目覚めてもおかしくない状態だ。俺の力が弱まっている以上、これ以上アレを抑えつけるのには限界がある」


腕を組んだまま、ジークはその端正な眉を顰める。

「力で抑えつけていた故に、アレが表に出て来ることはなかったが、それでもアレは隙あらば出てこようとする。……この国を混沌の闇へと堕とすつもりだ」

『唯でさえ、立て込んでいるのに… よりによって。それも前回まではこんなことはなかったはず!それなのにどうして…』

拳を握りしめるバクの沈痛な表情を見たジークもまた… 表情を曇らせる。

「イレギュラー… だから、か?」

『  !  』

ジークの何気なしに吐いた呟きにバクがハッと顔を上げた。

「今までそんなことは… なかった。と、考えれば… 
幾度と繰り返される負のループ。繰り返される度に修正が入り、それ故に少しずつ歪みが生じていく。理に背くことはご法度だ。だが、俺達はあの子とこの世界を守るためにその理に背いた。

───… そう考えるのが妥当じゃないか?」

ジークの推測に、バクも神妙に頷く。


『そうか…。確かに、理を背いている。その仮説も一理あるね』

「問題なのは、影をどうするかだ。闇の魔女と闇堕ちした魔法使い、そしてあの影が手を組めば… それこそ、今までになかった災厄が訪れる。下手をすればこの世界をも混沌の闇で支配されてしまうかもしれない。奴らが手を組む前に先に手を打たなければ… この世界は終わる」

まだ、希望はあるが…。と付け足すジークにバクは頷いた。

『ルティ…だね?』

「あぁ、それから… ジキルド」

『ルティは陰と陽の両親の血を受け継ぐも、どちらかと言えば陽に近い。ジキルドはドラゴンの血を引き、同時にこの国の陰の血をも受け継いでいる…。陰と陽は対等であり、対となる。そういうことだよね?』

「ああ、そうだ」

『言いたいことはわかるよ?だけど、今となっては僕はジークォンよりも力が弱い』


「神獣が何を言うか。…そこはお互い様だろう?」

『………』

ジークが何を言ってんだ?とばかりにバクに呆れた眼差しを向ける。

「まあいいさ。───ここからは、お互い別行動か?」

万が一、一方と連絡つかなかったときを考えて、俺達二人はしばらく会わないほうがいいだろう?二人一緒にいるところを奴らに見られたらまずいからな。

そう口に出したジークの言葉にバクも賛同とばかりに頷き返した。

「僕ら二人が捕まるわけにはいかない。最悪は… 一方が犠牲に、の可能性も考えないといけないからね」


バクとジークの目が互いに交差する───。それは互いに相手の無事を祈っているようで… 

そして同時に、夜空に浮かぶ月を見上げた。

「星降る夜、か…」

騎士の誓いの言葉に出てきた一節、それは今は懐かしい… 古き想い出。

『月の神子ルシェが、かつての太陽の巫女ティハンに贈っていた言葉だったね。確か…。あの頃は幸せだった。…魔神バルディモス、闇の魔女となってしまったルティの母親…。彼女はもう、覚えてないかな?』

「……どうだかな」

その背中に哀愁を纏わせ、二人はいつまでも… 夜空の月を見上げていた───。
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