上 下
67 / 516
序章 英国フォルティア学院

どうやって抜け出そうか。。

しおりを挟む
――‥

あれから数日と経ったが、やはり動きがないということは… 噂は単に噂に過ぎないということか――‥

クリフェイドは一息つくと首を横に振った

いや、そもそも僕には関係ないことだ。僕が気に留める必要はない。それよりも、今の状況を何とかしたい…

クリフェイドは切実に願った。

今の状況、それは…


今日はこの国の建国日。国を祝う祭り…要するに建国祭。よって、ここの大聖堂では建国日を祝い、それを感謝祭とも呼んだ。

感謝祭では国を挙げての祭り…


大聖堂ではその建国祭を祝い、神に感謝し聖歌隊たちの合唱を神に… 王に捧げるのがしきたりだ。そんなことをすっかり忘れていたクリフェイド、逃げだそうにも逃げ出せない状況だった。

何故かというと既に全員、裏方のステージに上がり出番を待っている状況、広い礼拝堂の中は一般人や貴族も含め、
二階の席には若き王とその他の王族に護衛の騎士たちがいるため、下手に行動を起こせば目立つに限るためだ――‥。


しかも、王の隣には父アクシオンやヒュー、ジルタニアスまでもがいた。

元々、人前に出ることをあまり好まないクリフェイド、ステージの上にいるということさえも非常に堪え難いことだった。

  はぁー…

クリフェイドの口からは溜息が漏れる‥


聖歌隊は全員、純白の服に着替えた。無論、クリフェイドも…。皆、王族や貴族を前にして謳を唄うことに些か緊張気味だ。

だが、そこはやはりクリフェイド。逃げ出すことしか考えていなかった。

……よし!

「フェルディス牧師、すみません… 友人の形見を……落としたみたい…なんです」

無口で無表情で通ったクリフェイドは口数少なく牧師に落ち込み気味な声で嘘をつく。


チャールズ・フェルディス牧師、彼は最年長の牧師でここ、大聖堂の中で一番の権力を持つ長というべき存在だ。次期後継者のことでポール・ヒューマン牧師と何かと揉めていることは… もはや牧師たちの中では知り渡った話である。。

フェルディス牧師は聖歌隊の子たちに向けていた視線をクリフェイドに移し、壁に掛かった時計を確認した


「シュバルクのとこの坊やか。うむ…。 時間が惜しいが、友人の形見とならば仕方あるまい」

行って来なさい、と老いぼれた牧師は溜息と共にクリフェイドに告げる


「……ありがとうございます」

俯き、クリフェイドは小さな声で告げると裏の出口から抜け出した

「…………」

そんなクリフェイドを意味ありげに見つめるフェルディス牧師は小さく溜息つく


「あの子の秘密にヒューマンが気づかなければ良いが…」

ヒューマン牧師を目の端でちらりと捉えたフェルディス牧師は意味深な言葉を呟いた


「…あの子に神のご加護があらんことを」

「なんとか抜け出せたな…。しかし、父さんたちに後でなんて言い訳しようか‥」


合唱は聖歌隊全員で唄うため、クリフェイドが出ていないこともすぐにアクシオンたちは気付くだろう

クリフェイドはそこを心配していた。腕を組みながら、ブツブツ呟きながら適当な言い訳を考えるクリフェイド…


つい最近まで通っていた学園には父や兄の部下が密偵として報告していたのだ。クリフェイドに友人もなにも、そんな親しい人間がいないことは明白。よって、フェルディス牧師についた嘘はアクシオンやヒューには通じないのだ。

どうしたものか、と腕を組んだまま唸りつつ…


裏口から出たクリフェイドは聖堂の敷地内の芝生を歩く。

ふと、クリフェイドは足を止めた


「……………」

礼拝堂から漏れる聖歌隊の賛美歌、どうやらもう合唱は始まったようだ。だが、クリフェイドの足を止めさせたモノは聖歌隊による賛美歌ではなく――‥

「………ねこ?」

芝生に横たわる微動だにしない仔猫だった…。

何気なく、足を一端止めたクリフェイドは小さく息をついた

  ふぅ…

様子がおかしい仔猫にクリフェイドは無視するわけにもいかず、仕方なしに仔猫の元へ足を運ばせる。

そこで初めて気づいた。仔猫が微動だにしない理由が…。

その小さき身体には鉤爪が食い込んだような痛々しい傷痕、まだ生えきっていないふわふわだったであろう毛には乾ききった赤黒い血がこびりついていた。

恐らく、この小さい仔猫は烏かなにかに捕まり、巣に持って帰ろうとした烏が巣へ運ぶ途中、何かの弾みで空中から落としてしまったのだろう…

「…………」

親から引き離された仔猫、まだ幼い仔猫の死ぬ直前まで感じていた恐怖を思うと、どうにもいたたまれない気持ちになる‥。

クリフェイドとて、なにも冷酷な性格ではない。優しき心も少なからずあれば、哀しむこともある。クリフェイドは既に息絶えている憐れな仔猫を壊れモノのように優しく抱き上げると口を開いた


  それは――‥

仔猫の魂の冥福を祈り、風と共に紡がれる弔いの唄――‥。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

ザ・兄貴っ!

BL
俺の兄貴は自分のことを平凡だと思ってやがる。…が、俺は言い切れる!兄貴は… 平凡という皮を被った非凡であることを!! 実際、ぎゃぎゃあ五月蝿く喚く転校生に付き纏われてる兄貴は端から見れば、脇役になるのだろう…… が、実は違う。 顔も性格も容姿も運動能力も平凡並だと思い込んでいる兄貴… けど、その正体は――‥。

副会長様は平凡を望む

BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー 『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』 …は? 「え、無理です」 丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。

生徒会補佐様は平凡を望む

BL
※《副会長様は平凡を望む…》 の転校する前の学園、四大不良校の一つ、東条自由ヶ丘学園でのお話。 ♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢ 『───私に喧嘩売ってるのでしょうか?』 南が前の学園で、副会長として君臨するまでの諸々、武勇伝のお話。 本人の主張する平凡とは言い難い非日常を歩む… そんな副会長サマもとい南が副会長になるまでの過程と副会長として学園を支配… 否、天下の副会長様となって学園に降臨する話である──。

和泉くんの受難

BL
『こっちへおいで…』 翁のお面を付けた和服の青年に手を引かれ、少年はその手を掴んだ。 ――――――――‥ ――‥ 「…ってことで、和泉くんにはそろそろ うちの学園に入ってもらいたいんですがねぇ」 「え、無理」 首を傾げる翁お面の青年に顔をしかめる。 「だって、俺は…」 遠い昔、人間であったことを捨てた少年は静かに溜め息ついた-

親衛隊総隊長殿は今日も大忙しっ!

BL
人は山の奥深くに存在する閉鎖的な彼の学園を――‥ 『‡Arcanalia‡-ア ル カ ナ リ ア-』と呼ぶ。 人里からも離れ、街からも遠く離れた閉鎖的全寮制の男子校。その一部のノーマルを除いたほとんどの者が教師も生徒も関係なく、同性愛者。バイなどが多い。 そんな学園だが、幼等部から大学部まであるこの学園を卒業すれば安定した未来が約束されている――。そう、この学園は大企業の御曹司や金持ちの坊ちゃんを教育する学園である。しかし、それが仇となり‥ 権力を振りかざす者もまた多い。生徒や教師から崇拝されている美形集団、生徒会。しかし、今回の主人公は――‥ 彼らの親衛隊である親衛隊総隊長、小柳 千春(コヤナギ チハル)。彼の話である。 ――…さてさて、本題はここからである。‡Arcanalia‡学園には他校にはない珍しい校則がいくつかある。その中でも重要な三大原則の一つが、 『耳鳴りすれば来た道引き返せ』

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

処理中です...