室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

文字の大きさ
上 下
511 / 516
第1章 月森ヶ丘自由学園

相手は天敵の息子でした。

しおりを挟む


「…なぜ、財務大臣が此処に…」

口にしたクリフェイドは、不愉快窮まりないのか顔を歪めたまま… 嫌悪感を隠そうともしない

そこで、ハッ!と気づく。


…しまった!忘れてた。ウィンディバンクは財務大臣の家の名前だった!

「………」


無言で見据えるクリフェイドに対し、ジェイムズ・ウィンディバンク…財務大臣は何かを言おうとしたが、そんな父を押しのけたのはジェイムズの面影がある男だった。

「クリフェイド君。さすがに父に紹介されては俺の面子に関わる。こういうことは、やはり自分で名乗るのが礼儀っていうものだからな。俺の名前はターナー・ウィンディバンク。ジェイムズ・ウィンディバンクの息子だ」

俺は身体や顔つきは父であるジェイムズに似てはいないが、どこか威張った態度や野心深そうなところはジェイムズ財務大臣にそっくりだ。ターナーと名乗る男は、優雅に会釈するが、クリフェイドとしては尤も嫌いな人種だった。

あからさまに眉間を寄せ不愉快そうにするクリフェイドに、ターナーはお構いなしにクリフェイドに近づき、右手を取るなり軽く口づけを落とした。


「……………」

一瞬のことに対応できなかったクリフェイドは、衝撃のあまりフリーズする。


「「「「……………」」」」


その現場を見ていたアクシオン達は唖然とし、ジェイムズだけは青ざめた様子で、

「ターナーっ!!何をやっとるんだお前は!!他の者なら未だしも、よりによってそのガk… うぉっほん!!とにかく、妙な気など起こすな!!そして謝罪するんだ」

父のジェイムズが怒鳴っている間、意識が戻ったクリフェイドは直ぐさま昴にアルコール消毒液と白いハンカチを持って来させた。


 プシュッ‥

    プシュッ‥ ふきふきふき-


嫌悪感丸出しで、キスされた手を念入りに消毒し、ハンカチで拭く。

「昴、そのハンカチは燃やせ!洗濯したら、他のモノまで菌に侵される」


もはや、ターナーを菌扱い。それには、さすがのターナーも堪えるかと思えば‥

「ふっ…困ったな。ますます欲しくなった。俺はお前を手に入れる。その為にも今日はシュバルク家に縁談を申し込みに来たのだから」

そのターナーの言葉にいち早く反応したのは、アクシオンとジェイムズだった。


「待て待て待て!!俺は認めんぞっ!!クリフェイドを誰が他人にやるものか!」

「ターナーっ!!ふざけるのも大概にするんだ!!なぜ、よりによってこの子供なんだ!?お前が是非、話しをしたいと言うからわざわざシュバルク殿にご紹介させて頂いたのに‥

男に縁談だなんて…しかも、こんな青二才を」


ジェイムズは諸、私情が入っていた。

「私は嫌だぞ!!この子供が私の義息子になるなど…っ 身内になるなんて冗談じゃないっ!!」

「僕もごめんです。ジェイムズ・ウィンディバンク財務大臣と顔を見合わせるだけで嫌悪感のあまり吐きたくなるというのに…

なぜ、僕がその息子に嫁がなければならないんですか?そういった同性愛に関して偏見はありませんが、自身のこととなると話しは別です。そして、ウィンディバンク家の者だという時点で対象外。申し訳ないですが、他を当たって下さい。とんだ迷惑です」


だが、そんなクリフェイドの言葉にターナーは口角を上げる


「そんなことを言っていられるのも今のうちだ。すぐに俺と婚約させてみせるさ、両家に手回しをしてな?」

にやっと口端を吊り上げるターナーの意味深な言葉にクリフェイドは実に不愉快げに眉間を寄せるも、あえて何も言わなかった。それは周りに気にしてのことだ。自分の発言で大事になることを避けたかったクリフェイドは、一先ず一人なった方が鮮明だと判断すると、すぐに行動を起こした。


「…それはそうと、お祖母様。僕のことをあれこれとおっしゃる前にシュバルク家よりも格下であるはずのウィンディバンク家の口の聞き方に疑問を抱いてはいかがです?」

「~~ッッ!!」

祖母はクリフェイドの言葉に顔を真っ赤にし、ジェイムズは青ざめた様子で、謝罪する

「も、申し訳ありませんっ!!!ほ、ほらお前も謝るんだ!!」

ジェイムズは慌てて息子に頭を掴み下げさせた。


「…格下の者に、あのように言われるなどシュバルク家も堕ちたものですね」

「クリフェイドっ!!お前は自分が何を言っているか分かっているのか!? いくらお前でも、言って良いことと悪いことの判別はつくだろう?!」


アクシオンは怒りを表にし、クリフェイドを叱責するが、クリフェイドはそんなことにお構いなしに言う

「だって、本当のことでしょう?」

「クリフェイドっ!!今すぐに謝るんだ!」


 ざわざわ‥

       がやがや――…


「おい、なんか雰囲気がヤバくねぇか?つーか、止めなくて良いのかよ?」

怪しげな雲行きにレオは周りの人間と同じように彼らを見つめて言った‥。


「いえ、あれは見たところ‥‥‥室長が喧嘩を吹っ掛けたみたいですから止めなくていいです。それに、その相手というのがウィンディバンク伯爵‥財務大臣ではなく、何やら身内の方のようですし」

しばらく様子見ですね、とマコーネルはレオに答えた。


「クリフェイド!!時には謝ることも必要だぞ!?今がその時だ。お祖父様とお祖母様に謝るんだ。でないと……」

「クスッ、でないと……何です?勘当でもしますか?僕はそれでも構いませんよ。これでも一人で稼げていますし‥

僕としても困ること等、一切ありませんしね」


クリフェイドは唖然とする皆の前で平然と言ってのけた。

「!? クリフェイドっ!!!」

息子からの、まさかの言葉にアクシオンは驚愕。そんな父にクリフェイドは背を向けた

「…少し頭を冷やして来ますね」


後ろに手をひらひらと送りクリフェイドはそこから離れて、会場の奥、裏方の方へ姿を消した‥。

「…ところで、シフォンは何処に? 先ほどまで此処にいたのですが」


いつの間にか、いなくなっていたシフォン。顔を見ないことに気づいたマコーネルはレオに尋ねる

「知らねーよ。つい、さっきまでいたじゃねぇか。トイレでも行ってんだろ」

「…そうですか」


──────……
───…


あれは…

      ───…室長?


トイレから帰ってきたシフォンは、会場に戻る際に目の端で裏方へ足を運ぶクリフェイドの姿を捉らえた。一端、マコーネル達の所へ戻ろうとしたがクリフェイドの向かう先が気になりシフォンはクリフェイドの後を追いかけることにした。

 コツコツ、

クリフェイドは、少し暗めの廊下を歩んでいく‥


会場ではパーティーが盛り上がっているため、裏方は全くといっていいほどに人気がなく物静かだ。ただ、床が大理石で出来ている為、無駄に足音が響いていた


 コツ、

クリフェイドは歩めていた足をふと、止めた。


「…そろそろ、顔を出したらどうだ?」

クリフェイドの口から出た発言に柱の影に隠れていたシフォンは冷や汗をかく

やはり、バレたのだろうか――…


シフォンは理由という言い訳をあれこれ考えつつ、思い切ってクリフェイドに勝手に尾けてきたことを詫びようとした。

 ───が、しかし


シフォンより一足先に動いた者がいた

「…さっきぶりだな?クリフェイド君」

「やはり、貴方でしたか。ターナー・ウィンディバンク殿」

片手にシャンメリーを注いだグラスを持ち、クリフェイドはある一点の壁を見据えた。

そこから出てきたのは‥

会場でクリフェイドに熱烈な求婚を申し込んでいた、あのターナー・ウィンディバンクだった‥。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

親衛隊総隊長殿は今日も大忙しっ!

BL
人は山の奥深くに存在する閉鎖的な彼の学園を――‥ 『‡Arcanalia‡-ア ル カ ナ リ ア-』と呼ぶ。 人里からも離れ、街からも遠く離れた閉鎖的全寮制の男子校。その一部のノーマルを除いたほとんどの者が教師も生徒も関係なく、同性愛者。バイなどが多い。 そんな学園だが、幼等部から大学部まであるこの学園を卒業すれば安定した未来が約束されている――。そう、この学園は大企業の御曹司や金持ちの坊ちゃんを教育する学園である。しかし、それが仇となり‥ 権力を振りかざす者もまた多い。生徒や教師から崇拝されている美形集団、生徒会。しかし、今回の主人公は――‥ 彼らの親衛隊である親衛隊総隊長、小柳 千春(コヤナギ チハル)。彼の話である。 ――…さてさて、本題はここからである。‡Arcanalia‡学園には他校にはない珍しい校則がいくつかある。その中でも重要な三大原則の一つが、 『耳鳴りすれば来た道引き返せ』

俺の愉しい学園生活

yumemidori
BL
ある学園の出来事を腐男子くん目線で覗いてみませんか?? #人間メーカー仮 使用しています

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

副会長様は平凡を望む

BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー 『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』 …は? 「え、無理です」 丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

山奥のとある全寮制の学園にて

モコ
BL
山奥にある全寮制の学園に、珍しい季節に転校してきた1人の生徒がいた。 彼によって学園内に嵐が巻き起こされる。 これは甘やかされて育った彼やそれを取り巻く人々が学園での出来事を経て成長する物語である。 王道学園の設定を少し変更して書いています。 初めて小説を書くため至らないところがあるかと思いますがよろしくお願いいたします。 他サイトでも投稿しております。

ボクに構わないで

睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。 あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。 でも、楽しかった。今までにないほどに… あいつが来るまでは… -------------------------------------------------------------------------------------- 1個目と同じく非王道学園ものです。 初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。

処理中です...