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第1章 月森ヶ丘自由学園
相手は天敵の息子でした。
しおりを挟む「…なぜ、財務大臣が此処に…」
口にしたクリフェイドは、不愉快窮まりないのか顔を歪めたまま… 嫌悪感を隠そうともしない
そこで、ハッ!と気づく。
…しまった!忘れてた。ウィンディバンクは財務大臣の家の名前だった!
「………」
無言で見据えるクリフェイドに対し、ジェイムズ・ウィンディバンク…財務大臣は何かを言おうとしたが、そんな父を押しのけたのはジェイムズの面影がある男だった。
「クリフェイド君。さすがに父に紹介されては俺の面子に関わる。こういうことは、やはり自分で名乗るのが礼儀っていうものだからな。俺の名前はターナー・ウィンディバンク。ジェイムズ・ウィンディバンクの息子だ」
俺は身体や顔つきは父であるジェイムズに似てはいないが、どこか威張った態度や野心深そうなところはジェイムズ財務大臣にそっくりだ。ターナーと名乗る男は、優雅に会釈するが、クリフェイドとしては尤も嫌いな人種だった。
あからさまに眉間を寄せ不愉快そうにするクリフェイドに、ターナーはお構いなしにクリフェイドに近づき、右手を取るなり軽く口づけを落とした。
「……………」
一瞬のことに対応できなかったクリフェイドは、衝撃のあまりフリーズする。
「「「「……………」」」」
その現場を見ていたアクシオン達は唖然とし、ジェイムズだけは青ざめた様子で、
「ターナーっ!!何をやっとるんだお前は!!他の者なら未だしも、よりによってそのガk… うぉっほん!!とにかく、妙な気など起こすな!!そして謝罪するんだ」
父のジェイムズが怒鳴っている間、意識が戻ったクリフェイドは直ぐさま昴にアルコール消毒液と白いハンカチを持って来させた。
プシュッ‥
プシュッ‥ ふきふきふき-
嫌悪感丸出しで、キスされた手を念入りに消毒し、ハンカチで拭く。
「昴、そのハンカチは燃やせ!洗濯したら、他のモノまで菌に侵される」
もはや、ターナーを菌扱い。それには、さすがのターナーも堪えるかと思えば‥
「ふっ…困ったな。ますます欲しくなった。俺はお前を手に入れる。その為にも今日はシュバルク家に縁談を申し込みに来たのだから」
そのターナーの言葉にいち早く反応したのは、アクシオンとジェイムズだった。
「待て待て待て!!俺は認めんぞっ!!クリフェイドを誰が他人にやるものか!」
「ターナーっ!!ふざけるのも大概にするんだ!!なぜ、よりによってこの子供なんだ!?お前が是非、話しをしたいと言うからわざわざシュバルク殿にご紹介させて頂いたのに‥
男に縁談だなんて…しかも、こんな青二才を」
ジェイムズは諸、私情が入っていた。
「私は嫌だぞ!!この子供が私の義息子になるなど…っ 身内になるなんて冗談じゃないっ!!」
「僕もごめんです。ジェイムズ・ウィンディバンク財務大臣と顔を見合わせるだけで嫌悪感のあまり吐きたくなるというのに…
なぜ、僕がその息子に嫁がなければならないんですか?そういった同性愛に関して偏見はありませんが、自身のこととなると話しは別です。そして、ウィンディバンク家の者だという時点で対象外。申し訳ないですが、他を当たって下さい。とんだ迷惑です」
だが、そんなクリフェイドの言葉にターナーは口角を上げる
「そんなことを言っていられるのも今のうちだ。すぐに俺と婚約させてみせるさ、両家に手回しをしてな?」
にやっと口端を吊り上げるターナーの意味深な言葉にクリフェイドは実に不愉快げに眉間を寄せるも、あえて何も言わなかった。それは周りに気にしてのことだ。自分の発言で大事になることを避けたかったクリフェイドは、一先ず一人なった方が鮮明だと判断すると、すぐに行動を起こした。
「…それはそうと、お祖母様。僕のことをあれこれとおっしゃる前にシュバルク家よりも格下であるはずのウィンディバンク家の口の聞き方に疑問を抱いてはいかがです?」
「~~ッッ!!」
祖母はクリフェイドの言葉に顔を真っ赤にし、ジェイムズは青ざめた様子で、謝罪する
「も、申し訳ありませんっ!!!ほ、ほらお前も謝るんだ!!」
ジェイムズは慌てて息子に頭を掴み下げさせた。
「…格下の者に、あのように言われるなどシュバルク家も堕ちたものですね」
「クリフェイドっ!!お前は自分が何を言っているか分かっているのか!? いくらお前でも、言って良いことと悪いことの判別はつくだろう?!」
アクシオンは怒りを表にし、クリフェイドを叱責するが、クリフェイドはそんなことにお構いなしに言う
「だって、本当のことでしょう?」
「クリフェイドっ!!今すぐに謝るんだ!」
ざわざわ‥
がやがや――…
「おい、なんか雰囲気がヤバくねぇか?つーか、止めなくて良いのかよ?」
怪しげな雲行きにレオは周りの人間と同じように彼らを見つめて言った‥。
「いえ、あれは見たところ‥‥‥室長が喧嘩を吹っ掛けたみたいですから止めなくていいです。それに、その相手というのがウィンディバンク伯爵‥財務大臣ではなく、何やら身内の方のようですし」
しばらく様子見ですね、とマコーネルはレオに答えた。
「クリフェイド!!時には謝ることも必要だぞ!?今がその時だ。お祖父様とお祖母様に謝るんだ。でないと……」
「クスッ、でないと……何です?勘当でもしますか?僕はそれでも構いませんよ。これでも一人で稼げていますし‥
僕としても困ること等、一切ありませんしね」
クリフェイドは唖然とする皆の前で平然と言ってのけた。
「!? クリフェイドっ!!!」
息子からの、まさかの言葉にアクシオンは驚愕。そんな父にクリフェイドは背を向けた
「…少し頭を冷やして来ますね」
後ろに手をひらひらと送りクリフェイドはそこから離れて、会場の奥、裏方の方へ姿を消した‥。
「…ところで、シフォンは何処に? 先ほどまで此処にいたのですが」
いつの間にか、いなくなっていたシフォン。顔を見ないことに気づいたマコーネルはレオに尋ねる
「知らねーよ。つい、さっきまでいたじゃねぇか。トイレでも行ってんだろ」
「…そうですか」
──────……
───…
あれは…
───…室長?
トイレから帰ってきたシフォンは、会場に戻る際に目の端で裏方へ足を運ぶクリフェイドの姿を捉らえた。一端、マコーネル達の所へ戻ろうとしたがクリフェイドの向かう先が気になりシフォンはクリフェイドの後を追いかけることにした。
コツコツ、
クリフェイドは、少し暗めの廊下を歩んでいく‥
会場ではパーティーが盛り上がっているため、裏方は全くといっていいほどに人気がなく物静かだ。ただ、床が大理石で出来ている為、無駄に足音が響いていた
コツ、
クリフェイドは歩めていた足をふと、止めた。
「…そろそろ、顔を出したらどうだ?」
クリフェイドの口から出た発言に柱の影に隠れていたシフォンは冷や汗をかく
やはり、バレたのだろうか――…
シフォンは理由という言い訳をあれこれ考えつつ、思い切ってクリフェイドに勝手に尾けてきたことを詫びようとした。
───が、しかし
シフォンより一足先に動いた者がいた
「…さっきぶりだな?クリフェイド君」
「やはり、貴方でしたか。ターナー・ウィンディバンク殿」
片手にシャンメリーを注いだグラスを持ち、クリフェイドはある一点の壁を見据えた。
そこから出てきたのは‥
会場でクリフェイドに熱烈な求婚を申し込んでいた、あのターナー・ウィンディバンクだった‥。
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