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第1章 月森ヶ丘自由学園
完璧執事は性格に難アリ
しおりを挟む――――――………
――…
-シュバルク家-
「…は!?」
そこには機嫌悪く眉間に皺を寄せるクリフェイドの姿。
「いやいや、は!?ではなくてだな…クリフェイド。今から一週間後に大統領主催のパーティーが開かれるんだ。お前にも招待状は届いているし‥
なにより、シュバルク家は絶対参加だ。お前にもシュバルク家の末息子としてパーティーには出席してもらう」
突如、父、アクシオンに告げられた言葉にクリフェイドの顔は、ますます皺を寄せていく
「…ずいぶんと勝手すぎるのでは…? ほぼ強引に車に押し込められたかと思えば、強制帰国。屋敷に着くなり、すぐに監禁。外出できず、三日経ったかと思えば…今度は一週間後に僕の嫌いなパーティーに強制参加という告知。
………父さんなんか、嫌いです」
つん、とそっぽ向く末息子に父親は困惑を浮かべる
「クリフェイド!?これは監禁ではなくて軟「僕にしたら監禁も軟禁も同じです!」…クリフェイド、分かってくれっ!!仕方ないんだ!! 頼むから、父さんを嫌わないでくれ!!」
職場では、厳しいアクシオンも末息子のクリフェイドの前では、めっぽう弱かった。
「…クリフェイド、あまり我が儘を言うな」
そう言うのは今まで黙っていた長兄、ヒュー。
「そう言うのなら、先ずは僕を外へ出して下さい。いくら、部屋の中では自由だとは言え、部屋から出ることすら禁じられ、入口には二人の監視人。その他にも屋敷の中には監視人を配置。
立派な監禁じゃないですか!」
クリフェイドは一気にまくし立てた。
「そうは言ってもだな…、君は前に逃亡してくれたからな」
「ヒュー兄さんは父さんにつくわけですか…」
クリフェイドの言葉にヒューからは呆れの溜息が零れる。
「はぁ…。クリフェイド、お前がパーティーというものが嫌いなのはよく分かる。だからといって、父や私に当たるのは感心しないな? …それに、何れはシュバルク家の末息子として挨拶回りもしなければならない。
その練習も兼ねてだと思えばいい…。今回は何もしなくていいから、ただ、出席だけはしてもらう」
「…クリフェイド、すまないがそういうことだ。俺はまだ仕事があるから、少し出ててくる」
ガチャ‥ パタンッ
アクシオンは席を立ち上がると部屋を出て行った。それを見届けたヒューは、クリフェイドに向き直る
「それで、結局のところ……お前は何に不満を抱いているんだ?」
「前にも言ったと思いますが、僕に護衛を付けるのはやめて下さい」
「…それは聞き入れられない話だな」
当然の如くヒューは言い放つ。
「だったら……
何故、僕の近辺だけに護衛を付けるんです? シュバルク家の者に付けなければいけないのなら、父さんや兄さんにも付いていてもおかしくない。
……なのに、護衛は僕だけ。そろそろ理由を教えてくれても良いのでは…?」
睨むように兄に問い詰めるクリフェイド、
「…クリフェイド、その理由は教えられない。すまない。だが、分かってくれ。教えてやれないのは、お前のためなんだ。…分かってくれクリフェイド」
席から離れる際、ヒューはクリフェイドの額にキスを落とす
「………(ムスッ」
ヒューも出ていき、今部屋にはクリフェイド一人。
窓から見える青空を見たクリフェイドは小さく息を漏らした。
――…コンコン、
ガチャ!
「お久しぶりですね、坊ちゃん…」
「げっ…」
入ってきたのは片手に銀のシルバープレートを乗せた黒い燕尾服に黒髪の青年。さらさらとした顎下ぐらいの長さの漆黒の髪に黒い瞳。爽やかな笑顔の好青年は珍しくも純日本人‥
黒髪の青年は部屋に入って来るなり、クリフェイドの座る椅子まで足を歩める
カチャ‥カチャ……と音を立て、そこからはコポコポと音が聞こえた
「坊ちゃん、煎れたての紅茶は心身共に落ち着かせてくれますよ」
さぁ、どうぞ‥とクリフェイドの前に煎れた紅茶を出す黒髪の青年はニッコリ顔。
「す…昴、 まだ、怒ってるのか?」
顔を引き攣らすクリフェイドに昴と呼ばれた青年は笑みを浮かべるが、目が全くもって笑っていない‥。
「おや、なぜ、そう思うのでしょうか‥? ふふ… 別に怒ってはいませんよ?? 屋敷から脱走する際、私に薬を盛ったことなんて…貴方様の専属執事をやっているにも関わらずの失態、…私の不注意ですからねぇ?」
昴はニコニコと穏和な雰囲気を漂わせるが、
「…ふふっ 坊ちゃんは私を怒らせるのが好きなのでしょうか‥
私は、これでも薬師として、けっこう有名なんですよ? 自分で言うのも、あれですが腕も一流。……なのに、まさか自分の仕える子供に自分の作った薬を盛られるなんて…
プライドもあるんですよ? クスッ」
妖艶な笑みを浮かべてクリフェイドの首筋に、ツ…と指先を滑らせる
「ゃっ…?! や、やめろ!」
ドカッ!と昴に蹴りを入れクリフェイドは直ぐに距離を取る
「い…いい加減にしろ!!人の嫌がる反応見て愉しみやがって…お前、やっぱり鬼畜変態だろ!!!」
そのクリフェイドの言葉に昴は楽しげに目を細めた
「だって‥
人の嫌がる反応ってけっこう見ていて愉しいものですよ?」
クスリ、と笑い、顔を青くする自分の仕える小さな主人を見上げる昴は、全くもって反省の色が窺えない‥。寧ろ、楽しげだ。昴は勿論、そういった気はないが人の嫌がることをし、その反応を見て楽しむという…
かなりタチの悪い性格の持ち主だった。
因みにクリフェイドの性格が歪んだのも、少なからず昴が原因だったりする。
その歪んだ性格が主にアルコールを口にした時だけなのだが…。クリフェイドの酒癖が悪いのは昴のせいだと言っても過言ではない。
(こ……コイツといたら、マジで喰われるっ!!!)
クリフェイドは、自分の貞操を危惧する
そんなことを思いながら、青ざめるクリフェイドの様子に大変ご満悦な専属の執事様。
「…と、まぁ……戯れはこの辺で…」
昴はスッ…と目を細めてクリフェイドに聞く
「ご身辺に何か変わりはないですか?」
「いや、そういったことは特にないが…」
それがどうかしたのか?と目で問うクリフェイドに昴はそうですかと短く答える
「すみません。私の杞憂だったようです」
ニッコリ告げる昴にクリフェイドは些か眉を吊り上げた
「…杞憂? お前がか?笑止。嘘つくのなら、もっとマシな嘘をつけ。人一倍そういったことに敏感なお前が杞憂なんてあるわけないだろ?」
呆れた顔で溜息を零すクリフェイドに昴は、おや?と首を傾げる‥
「見ないうちに… また成長しましたね。」
「……お前に言われてもうれしくない。 で?僕の身辺がどうしたって?」
性格に難有りなこの男も執事としてはクリフェイドも認める優秀な専属執事だった。
「ふふっ… それが少々面白いことが起こりまして」
「………面白いこと?」
椅子に腰かけて優雅に紅茶を飲むクリフェイドはカチャ、と音をたてて紅茶の入ったカップを置く‥
「くすっ‥
えぇ。以前から、坊ちゃんの身辺を探る黒ずくめの男が最近になって行動が派手になってる、という話なのですが私の見解では、以前の男と今回の男は別人ですね」
「おいっ!ちょっと待て。僕は何も聞いていないが?」
どういうことだ?と、カッと目を開き、問い詰めるクリフェイドに昴は平然と言ってのける
「それはそうですよ?今、話しましたからね」
「……昴」
「そんな怖い顔なさらないで下さい。せっかくの可愛い顔が台なしですよ?」
ニッコリ笑う自分の執事にクリフェイドは、疲れた顔で溜息つく‥
「はぁ……。僕はお前には一生かかっても負ける気がする」
「それはそれは…
坊ちゃんのお誉めの言葉ほど私に嬉しいものはありませんよ?…クスッ」
クリフェイドの嫌味も通じない昴は強者だ。
「コホンッ! …で、何故、男が別人だと気付いたんだ?」
「それは判りますよ?あの男と今回の男は……纏うオーラが違いすぎますからね… 判別くらい、つきますよ。プロとド素人ですよ?僕みたいな……おっと失礼。一応、私もそちらに詳しいので、気付かない方がおかしいんです。
………くすっ、尤も旦那様や坊ちゃん方は気付いてるようですけど?」
昴は一端、言葉を切り自分も紅茶を飲む
コトッ…
「以前の男が裏で名の通った殺し屋で、 最近現れた男は…
ウィンディバンク家のジェイムズ・ウィンディバンク伯爵の馬鹿息子、ターナー・ウィンディバンク。めったにパーティーに出席しないシュバルク家の末息子。以前から気になっていたターナー・ウィンディバンクは、一度、貴方がパーティーに出席したときに居合わせたそうで……
そのときに一目惚れしたようですよ? 」
「ぶーっ!? …ケホッ…ケホケホッ」
クリフェイドは、飲んでいた紅茶を吹きだし、大いに咳込んだ…
「…ケホッ…ッ……ケホ……」
今だ噎せているクリフェイドの目には若干、涙が溜まっていた。そんな主人の反応を予想していた昴は、平然と言った
「大丈夫ですか?ま、先ほどの話を簡潔に述べますと、以前の男は誰かに雇われたプロの殺し屋で 最近屋敷の周りをウロチョロとしているターナー・ウィンディバンクは…… 坊ちゃんの追っかけ。
つまり、坊のストーカーですね」
ニコニコとしながら言う昴にクリフェイドは恨みがましく睨みつける
───が、
そんな睨みも、昴の前では…
「くすっ、
いいですね…。そんな可愛い顔をなさってると目の前のオオカミさんに食べられてしまいますよ?まぁ、冗談ですけど」
全くの無意味。
自分のことをオオカミだとか言ってのける昴にクリフェイドが顔を引き攣らせたことは言うまでもない
「……昴、お前の場合、本気でシャレにならないから」
クリフェイドは疲れた表情で溜息つく
「それで、話を戻すが…… 。僕をストーカーだって?ありえない。僕は男だぞ?」
首を傾げるクリフェイド、昴はクリフェイドのその仕草を見つめて言う
「そういうところが可愛いんですよ? それに同性愛… 日本ならまだしも、ヨーロッパ等では、そう珍しくもないでしょう? ……それに坊ちゃんが日本の学園に通われていた月森ヶ丘自由学園も、外部と完全に隔離された全寮制。
少なからず、そういった方達はいたでしょう…?」
「……少なからず、ではなかったがな」
遠い目をするクリフェイド、昴は笑わずにはいられなかった。
「ふふっ…。それよりも、もっと驚くようなことがありますよ?クスッ」
「……何だ?」
クリフェイドは早く言えと目で急かす。
───が、
「さて、これは当日のサプライズと行きましょうか。楽しみは後に取っておくものですよ? ふふっ…尤も、当日会場で貴方がブチ切れるのが想像つきますけど」
昴は立ち際にクリフェイドに片目ウィンクする
「…私は最終的には坊の味方ですので会場でキレた際、止める気はありませんが‥ 程々に」
昴はカップ類を銀のシルバープレートに片付けると、では…と足早々部屋から出て行ってしまった。
「あ!おいっ……(パタンッ!)たくっ…殺し屋の男の話はどうなったんだ!?」
中途半端に知らされては気になるというもの…。たださえストレスが溜まっているというのに、話が気になって仕方がない。…くそっ! つか、僕は殺し屋を雇われるほどのことをしたか!? …ん? ちょっと待てよ…
あ~…そういえば‥‥‥まずいっっ!!なんか、いろんなこと思い出してきた‥;
クリフェイドは眉間を寄せて唸っていた。よくよく考えてみれば心当たりがありすぎた。…困った。心当たりがありすぎて誰だか、まーったく見当もつかない。今、険悪の仲と言えば………財務大臣だし。他の大臣連中とも険悪という仲柄。だめだ……!沢山いすぎて察しがつかない。
クリフェイドは、さめざめと溜息ついた。
「…ま、そっちはいい。が、ジェイムズ・ウィンディバンクの馬鹿息子が僕に恋慕しているとか、昴は、ほざいていたが。はて? ジェイムズ・ウィンディバンクの名前に少なからず聞き覚えがある気がするのだが…誰だったか。だめだ。思い出せない…
しかも、幾度か顔を見たことがある気がするが…。 何故か思い出そうとする度に嫌悪感が滲み出てくる。
………なんか、こう…抹殺したいというか…
本当に誰だったか‥。顔さえ見ればすぐにでも思い出すんだろうがな」
パーティー当日のことを思い憂鬱になったクリフェイドは小さく息を吐いた…。
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