150 / 159
ヌーッティ、日本へ行く!<番外編> 精霊たちの企み
3.パーティー前夜
しおりを挟む
リュリュとアレクシは素早い速さでヘルシンキ中心街を抜け、北上した。
乾いた夏の風を切り、小さな湖をいくつも迂回して、どんどん北へ向かう。やがて大きな森が見えると、ふたりはその中へ入った。
走るのをやめ、歩きながらゆっくりと辺りを見回した。すると、小さな野生のブルーベリーが実っているのを発見した。リュリュはひとつ摘んで口に運んだ。野生のブルーベリーはとても小さくて酸味が強く、リュリュの顔をきゅっとさせた。
食べ終えたリュリュはブルーベリーをどんどん摘んだ。そして、持ってきたカーテンの端布で作った袋に入れ始めた。
「で、僕は何を探したらいい?」
森を見渡しながらアレクシが尋ねた。
「アンズタケを探してください。スープにしたいのです」
アンズタケのスープはフィンランドでポピュラーな食べ物のひとつである。スーパーに行くと、レンジで温めるだけで完成するアンズタケのスープが売られている。クリーミーで、さっぱりとしたアンズタケのスープは老若男女問わず人気である。
アレクシは木の下へ歩みを進めつつ、
「オーケー。アンズタケだね。お! あった!」
よく見ると、木の根にアンズタケがいっぱい生えているのを見つけた。
アレクシはリュリュとつかず離れず距離を一定に保って、アンズタケ狩りをした。
数時間後、アンズタケを入れた袋は八つもできた。見れば、リュリュもブルーベリーの入った袋が五つできあがっていた。
集めた十三個の袋を一箇所にまとめ、アレクシは風の妖精へ詩を捧げる。
「おいで、風の妖精。ようこそ、僕のもとへ。さあ、運んでおくれ、僕の宝を!」
十三個の袋を掬い上げるかのように、ふわりと風が巻き起こる。
アレクシは体を浮かせ、宙に漂うと、
「こっち、こっち! おいで、僕の風の妖精たち!」
風をまとった十三個の袋が宙に浮かび、引率するアレクシの後ろについて飛んでいく。
リュリュは素早く木に登り、枝々を飛び渡りながら、帰路についた。
アキの部屋に戻ったリュリュとアレクシは作業分担を決めた。リュリュはアンズタケのスープ作りを、アレクシはブルーベリーソースを作ることになった。
家の住人が寝静まった深夜二時。リュリュとアレクシはキッチンで作業を進めた。
作業開始から数分後、三つの料理ができあがった。ひとつはアンズタケのクリームスープ、もうひとつはアンズタケのソテー。そして、最後に、ブルーベリーのソース。これは、パーティー当日に、お米のプディング・リーシプーロを作り、それにかけるためのソースである。
キッチンの後片付けはアレクシの作業となった。リュリュは先に部屋へ戻り、パーティーのための装飾をすることに。
ステンレス製のボウルを洗い終えると、アレクシの片付けも終わりとなった。
「さて、部屋へ戻るか」
手を拭き終えたアレクシは体をふわりと宙へ浮かせると、ふわふわと階段を飛んでいく。
そして、かちゃりとドアノブを押して、部屋へ入った。
アレクシは目を疑った。次いで、体が硬直し、へなへなと床へ落ちた。
窓には「おかえり、トゥーリ様!」の文字が蛍光ピンク色で書かれた垂れ幕がかかっており、しかし、そもそも、その垂れ幕の正体はベッドカバーではなかっただろうか? とアレクシは記憶を呼び起こした。
目だけ動かすことができた。アレクシはベッドを見た。ベッドカバーはなく、カーテンを切り裂いて作った、バラを象ったクロスが広々と敷かれていた。
ゆっくりと目を動かして周囲を見回した。部屋は黒と水色とビビッドピンク、そして、蛍光グリーン色を基調とした装飾が施されていた。ところどころに、骸骨モチーフがあるのは、リュリュがヘビメタ好きであるからだろうと推察できた。だがしかし、どうしたら、このような部屋になったのか、アレクシはまったくわからず、唖然としていた。
すると、部屋の中央で食器を並べているリュリュと目があった。
「あら、おかえりなさい。どうかしら? このデコレーション」
返答に窮するアレクシであったが、この後の展開は予知できた。まず、アキに叱られる。ヌーッティにも怒られる。そこまではいい。問題は次であった。
――キャメルクラッチ……かな。
こうして、リュリュとアレクシのパーティーの準備が終わり、ヌーッティたちがヘルシンキへ戻ってくる日が訪れるのであった。それは、アレクシにとって厄災の日の始まりでもあるのは言うまでもない。
生き残れ、アレクシ!
乾いた夏の風を切り、小さな湖をいくつも迂回して、どんどん北へ向かう。やがて大きな森が見えると、ふたりはその中へ入った。
走るのをやめ、歩きながらゆっくりと辺りを見回した。すると、小さな野生のブルーベリーが実っているのを発見した。リュリュはひとつ摘んで口に運んだ。野生のブルーベリーはとても小さくて酸味が強く、リュリュの顔をきゅっとさせた。
食べ終えたリュリュはブルーベリーをどんどん摘んだ。そして、持ってきたカーテンの端布で作った袋に入れ始めた。
「で、僕は何を探したらいい?」
森を見渡しながらアレクシが尋ねた。
「アンズタケを探してください。スープにしたいのです」
アンズタケのスープはフィンランドでポピュラーな食べ物のひとつである。スーパーに行くと、レンジで温めるだけで完成するアンズタケのスープが売られている。クリーミーで、さっぱりとしたアンズタケのスープは老若男女問わず人気である。
アレクシは木の下へ歩みを進めつつ、
「オーケー。アンズタケだね。お! あった!」
よく見ると、木の根にアンズタケがいっぱい生えているのを見つけた。
アレクシはリュリュとつかず離れず距離を一定に保って、アンズタケ狩りをした。
数時間後、アンズタケを入れた袋は八つもできた。見れば、リュリュもブルーベリーの入った袋が五つできあがっていた。
集めた十三個の袋を一箇所にまとめ、アレクシは風の妖精へ詩を捧げる。
「おいで、風の妖精。ようこそ、僕のもとへ。さあ、運んでおくれ、僕の宝を!」
十三個の袋を掬い上げるかのように、ふわりと風が巻き起こる。
アレクシは体を浮かせ、宙に漂うと、
「こっち、こっち! おいで、僕の風の妖精たち!」
風をまとった十三個の袋が宙に浮かび、引率するアレクシの後ろについて飛んでいく。
リュリュは素早く木に登り、枝々を飛び渡りながら、帰路についた。
アキの部屋に戻ったリュリュとアレクシは作業分担を決めた。リュリュはアンズタケのスープ作りを、アレクシはブルーベリーソースを作ることになった。
家の住人が寝静まった深夜二時。リュリュとアレクシはキッチンで作業を進めた。
作業開始から数分後、三つの料理ができあがった。ひとつはアンズタケのクリームスープ、もうひとつはアンズタケのソテー。そして、最後に、ブルーベリーのソース。これは、パーティー当日に、お米のプディング・リーシプーロを作り、それにかけるためのソースである。
キッチンの後片付けはアレクシの作業となった。リュリュは先に部屋へ戻り、パーティーのための装飾をすることに。
ステンレス製のボウルを洗い終えると、アレクシの片付けも終わりとなった。
「さて、部屋へ戻るか」
手を拭き終えたアレクシは体をふわりと宙へ浮かせると、ふわふわと階段を飛んでいく。
そして、かちゃりとドアノブを押して、部屋へ入った。
アレクシは目を疑った。次いで、体が硬直し、へなへなと床へ落ちた。
窓には「おかえり、トゥーリ様!」の文字が蛍光ピンク色で書かれた垂れ幕がかかっており、しかし、そもそも、その垂れ幕の正体はベッドカバーではなかっただろうか? とアレクシは記憶を呼び起こした。
目だけ動かすことができた。アレクシはベッドを見た。ベッドカバーはなく、カーテンを切り裂いて作った、バラを象ったクロスが広々と敷かれていた。
ゆっくりと目を動かして周囲を見回した。部屋は黒と水色とビビッドピンク、そして、蛍光グリーン色を基調とした装飾が施されていた。ところどころに、骸骨モチーフがあるのは、リュリュがヘビメタ好きであるからだろうと推察できた。だがしかし、どうしたら、このような部屋になったのか、アレクシはまったくわからず、唖然としていた。
すると、部屋の中央で食器を並べているリュリュと目があった。
「あら、おかえりなさい。どうかしら? このデコレーション」
返答に窮するアレクシであったが、この後の展開は予知できた。まず、アキに叱られる。ヌーッティにも怒られる。そこまではいい。問題は次であった。
――キャメルクラッチ……かな。
こうして、リュリュとアレクシのパーティーの準備が終わり、ヌーッティたちがヘルシンキへ戻ってくる日が訪れるのであった。それは、アレクシにとって厄災の日の始まりでもあるのは言うまでもない。
生き残れ、アレクシ!
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる