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ヌーッティ、日本へ行く!<番外編> 精霊たちの企み

3.パーティー前夜

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 リュリュとアレクシは素早い速さでヘルシンキ中心街を抜け、北上した。
 乾いた夏の風を切り、小さな湖をいくつも迂回して、どんどん北へ向かう。やがて大きな森が見えると、ふたりはその中へ入った。
 走るのをやめ、歩きながらゆっくりと辺りを見回した。すると、小さな野生のブルーベリーが実っているのを発見した。リュリュはひとつ摘んで口に運んだ。野生のブルーベリーはとても小さくて酸味が強く、リュリュの顔をきゅっとさせた。
 食べ終えたリュリュはブルーベリーをどんどん摘んだ。そして、持ってきたカーテンの端布で作った袋に入れ始めた。
「で、僕は何を探したらいい?」
 森を見渡しながらアレクシが尋ねた。
「アンズタケを探してください。スープにしたいのです」
 アンズタケのスープはフィンランドでポピュラーな食べ物のひとつである。スーパーに行くと、レンジで温めるだけで完成するアンズタケのスープが売られている。クリーミーで、さっぱりとしたアンズタケのスープは老若男女問わず人気である。
 アレクシは木の下へ歩みを進めつつ、
「オーケー。アンズタケだね。お! あった!」
 よく見ると、木の根にアンズタケがいっぱい生えているのを見つけた。
 アレクシはリュリュとつかず離れず距離を一定に保って、アンズタケ狩りをした。
 数時間後、アンズタケを入れた袋は八つもできた。見れば、リュリュもブルーベリーの入った袋が五つできあがっていた。
 集めた十三個の袋を一箇所にまとめ、アレクシは風の妖精へ詩を捧げる。
「おいで、風の妖精。ようこそ、僕のもとへ。さあ、運んでおくれ、僕の宝を!」
 十三個の袋を掬い上げるかのように、ふわりと風が巻き起こる。
 アレクシは体を浮かせ、宙に漂うと、
「こっち、こっち! おいで、僕の風の妖精たち!」
 風をまとった十三個の袋が宙に浮かび、引率するアレクシの後ろについて飛んでいく。
 リュリュは素早く木に登り、枝々を飛び渡りながら、帰路についた。
 アキの部屋に戻ったリュリュとアレクシは作業分担を決めた。リュリュはアンズタケのスープ作りを、アレクシはブルーベリーソースを作ることになった。
 家の住人が寝静まった深夜二時。リュリュとアレクシはキッチンで作業を進めた。
 作業開始から数分後、三つの料理ができあがった。ひとつはアンズタケのクリームスープ、もうひとつはアンズタケのソテー。そして、最後に、ブルーベリーのソース。これは、パーティー当日に、お米のプディング・リーシプーロを作り、それにかけるためのソースである。
 キッチンの後片付けはアレクシの作業となった。リュリュは先に部屋へ戻り、パーティーのための装飾をすることに。
 ステンレス製のボウルを洗い終えると、アレクシの片付けも終わりとなった。
「さて、部屋へ戻るか」
 手を拭き終えたアレクシは体をふわりと宙へ浮かせると、ふわふわと階段を飛んでいく。
 そして、かちゃりとドアノブを押して、部屋へ入った。
 アレクシは目を疑った。次いで、体が硬直し、へなへなと床へ落ちた。
 窓には「おかえり、トゥーリ様!」の文字が蛍光ピンク色で書かれた垂れ幕がかかっており、しかし、そもそも、その垂れ幕の正体はベッドカバーではなかっただろうか? とアレクシは記憶を呼び起こした。
 目だけ動かすことができた。アレクシはベッドを見た。ベッドカバーはなく、カーテンを切り裂いて作った、バラを象ったクロスが広々と敷かれていた。
 ゆっくりと目を動かして周囲を見回した。部屋は黒と水色とビビッドピンク、そして、蛍光グリーン色を基調とした装飾が施されていた。ところどころに、骸骨モチーフがあるのは、リュリュがヘビメタ好きであるからだろうと推察できた。だがしかし、どうしたら、このような部屋になったのか、アレクシはまったくわからず、唖然としていた。
 すると、部屋の中央で食器を並べているリュリュと目があった。
「あら、おかえりなさい。どうかしら? このデコレーション」
 返答に窮するアレクシであったが、この後の展開は予知できた。まず、アキに叱られる。ヌーッティにも怒られる。そこまではいい。問題は次であった。
 ――キャメルクラッチ……かな。
 こうして、リュリュとアレクシのパーティーの準備が終わり、ヌーッティたちがヘルシンキへ戻ってくる日が訪れるのであった。それは、アレクシにとって厄災の日の始まりでもあるのは言うまでもない。
 生き残れ、アレクシ!
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