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ヌーッティは背中で語りたい!

3.ヌーッティ、背中で語る

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 アキは視線を感じていた。
 それはただじっと見られている感覚ではなく、アキの一挙手一投足を観察して、分析されているかのような熱い視線であった。この背後に張り付く熱い視線を、アキは帰宅してからずっと感じてる。
 デスクの上を整理しているアキの手が止まった。
 アキは振り返ってベッドの上を見る。
 そこには楽しそうにカードゲームをしているヌーッティたち4人がいた。4人は真剣な面持ちでそれぞれが手にしているカードを見つめている。
 アキはじっと4人を見据えた。彼らの挙動を窺った。しばらく凝視していたが特段怪しい動きがなかったので、アキはデスクのほうへ向き直す。
 同時に、再びアキの背中に視線が刺さった。
 アキはすぐに振り返った。
 ヌーッティと目が合った。
「ヌーッティか…」
 アキは妙なポーズで硬直しているヌーッティの名を呼んだ。
 ヌーッティは手に持つカードで顔を半分隠し、立ち上がろうと腰を上げた瞬間を切り取ったかのような姿で静止していた。
「何か用?」
 アキに問われ、ヌーッティの視線が泳ぐ。
「また何かやらかしたの? それとも、おやつ食べ過ぎたとか?」
 どれもヌーッティに当てはまることではあったが、ヌーッティが口笛を吹き始めたので、アキは別の何かであると推量した。
 2人のやり取りを見ていたトゥーリとリュリュとアレクシは頷きあって、カードをベッドの上に伏せて置いた。
「あのね、アキ。アキに教えてもらいたいことがあるの」
 トゥーリがアキに依頼を乞う。
「アキじゃないとできないことですの」
 リュリュがトゥーリのアキへの依頼の後押しをした。
「本当はぼくのほうが様になるんだけど、ヌーッティがぼくを信用してくれなくてね」
 アレクシは肩をすくめた。
「で、何を教えるの?」
「背中で語っているところを見せてあげて欲しいんだ!」
 トゥーリとリュリュとアレクシの声が重なった。アキは不可解な表情を浮かべた。
「よくわからないんだけど?」
 ごく自然な反応がアキから返ってきた。
 そこでトゥーリはこれまでの経緯を話し始めた。一通り話を聞いたアキはヌーッティが何をしたいのか理解した。ヌーッティはきりっとした目で、トゥーリから事情を聞いていたアキを見つめていた。ヌーッティにとって、アキが最後の頼みの綱である。
「つまり、背中で語るっていうシチュエーションを体験したいってことか。それなら簡単だよ。今すぐにできるよ」
 その言葉にヌーッティは歓喜の叫び声を上げた。他方、トゥーリとリュリュとアレクシは腑に落ちなかった。それが簡単にできるものではないと思っているからである。
「ヌーッティが背中で語れるようになるの? 今すぐに?」
 トゥーリは思っていた疑問を躊躇なくアキに投げかけた。
「できるよ。見てて。ヌーッティ、ちょっといい?」
 アキは答えてから、喜びのあまりベッドの上で踊っているヌーッティを呼んだ。
「なんだヌー? さっそく教えて欲しいヌー!」
 嬉しさいっぱいのヌーッティをアキは見つめると、部屋の奥のクローゼット手前を指差した。ヌーッティたちの視線がアキの指差す方へ向く。1人掛けのソファが部屋の隅に置かれ、その前に円形のラグが敷いてあった。
「あそこにある食い散らかしと絵本の出しっ放し、およびタブレットとブランケットの無造作な放置をしたのはヌーッティだよな?」
「そうだよ。昨日の夜、ヌーッティはブランケットに包まって動画を観ながらお菓子食べてたよ」
 トゥーリが何を今更と言った風に答えた。
「ヌーはいい子だから寝る前はちゃんとタブレットを閉じて、絵本を読んで寝たヌー」
 ヌーッティが自信満々に答えた。
「うん、知ってるから。だから、今からあれを一人で片付けて。片付け終わるまでおやつはなしな」
「なんでそうなるヌー⁈ ヌーは背中で語りたいってお願いしてるヌー! お片付けじゃないヌー!」
 アキの宣告にヌーッティは異議を唱えた。
「制限時間は三時間。よーい、スタート!」
 ヌーッティを無視してアキは片付け開始を告げる。
 うろたえていたヌーッティではあったが、おやつの権利を目先にちらつかせられては否が応でも片付けざるを得なかった。
 アキ、トゥーリ、リュリュとアレクシは静かに、黙々と片付けているヌーッティの背中を見ていた。その背中はヌーッティのおやつに対する執念のようなものを語っていた。
「ほら、背中で語ってるじゃん」
 アキがトゥーリを横目で見た。
「うん、ほんとに語ってる」
 トゥーリは驚きの顔でアキを見た。
「たしかに語っていますわね。おやつに対する執着というか何と言いますか……」
「食い意地が張っているってことさ」
 リュリュの言葉をアレクシが言い換えた。
 ヌーッティはくるっと顔を後ろにいるアキたちへ向けると、
「もう、ヌーッティは背中で語らないヌー!」
 声高に宣言した。
 こうして、ヌーッティの背中で語りたいブームは終わった。
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