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第一章 ロードライトの令嬢

06 推しの妹になりまして

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 わたしがふと考え込んでいる間にも、兄とシリウス様の会話は続いていた。

「でも黒曜コクヨウ、お前の話じゃ妹さん、すっごく儚い深窓の令嬢って感じだったけど、思ってたよりよく笑うし明るいな」

「そうだな……最近は特に、元気なようだ。兄としてはホッとする限りではある」

 そう言って、兄はわたしの頭をポンと撫でた。思わずぱぁっと顔を明るくしてしまう。

 ……しかし、兄の言う通りだ。

 リッカわたしは、六花の記憶を思い出すまでは、今よりずっとずっと暗くて、あまり笑わない女の子だった。
 それこそ、メイドさん達がちょっと差し控えるほどに。

 あと数年しか生きられないと、何より自分が知っていた。

 虚弱な身体は全然思うように動かないし、ちゃんと起きていられる時間も短い。

 ――わたしだって、外を自由に歩きたい
 ――いいなぁ、みんなは、未来があって

 そんな嫉妬ばかりする、ひねた子供だった。

 兄がわたしを励まして言う『頑張れ』なんて言葉すら重荷で、見舞いに来てくれる兄に対しても、たびたび背を向けていた。

 ――もう、わたしはいっぱいがんばってるのに

 まだ、がんばらなくちゃいけないの?
 いつまでがんばらなくちゃいけないの?

 絶え間なく続く苦痛のせいで、身体より先に、幼い心が折れてしまったのだ。

 ……もちろん今だって、置かれた状況は何一つ変わってはいないのだけど。

 それでも、人生経験は六花わたしの方がリッカあの子の倍は積んでいる。
 ちょっとは前向きだし、もう少し足掻く努力だってしてみたい。

 兄と一緒に、まだまだこの世界を生きていたいのだから。

 シリウス様は、そんなわたしを見て明るく笑った。

「うんうん。リッカはやっぱり笑顔の方が可愛いな!」

「今の言葉を訂正しろ。リッカはいつ何時でも可愛いんだ」

「お兄様チェック厳し過ぎない!?」

 苦笑いをして、シリウス様は肩を竦める。

「さっすが、噂通りのシスコンっぷりを発揮してるだけはあるよ……まぁこんな可愛い妹だと、その気持ちも分かるっちゃ分かるけどね……」

 シリウス様のそんな言葉に、わたしは軽く首を傾げた。

「噂って、お兄様のですか?」

「そうそ。こいつってば、何話してても二言目には『妹が』って言うからさ。今日だって黒曜コクヨウ殿下が溺愛してると噂の妹を、一目見ておきたかったようなもんでね」

「そ、そうなんですか……」

 この兄は一体、何をそんなにわたしのことについて喋ることがあるのだろう……。

 兄は恥ずかしそうに咳払いをした。

「リッカ。分かっているとは思うが、シリウスの言葉は半分以上が嘘とでまかせで出来ているから信用するなよ」

「俺は嘘をつきませんー! リッカ、お前の兄は嘘つきだなぁ。黒曜が一日に何度『妹』って言うか、俺気になって数えたことだってあんだから。その数ときたら、なんと驚き……」

「お前っ、それはリッカには絶対言うなっ!」

 兄は立ち上がると、シリウス様を力ずくで黙らせにかかる。
 シリウス様は身軽にぴょんと跳ね上がることで兄の手を避けた。

 そのまま二人は、応接間いっぱいを使って追いかけっこを始めてしまう。
 わたしは兄の年相応な姿を見ることができて楽しいものの、隣でメイドさんが止めるべきかどうかハラハラしながら見守ってるから、早く止めてあげた方がいいと思う。

 しかし、なんだろう。さっきから妙に頭に引っかかる。

 シリウス様に、黒曜殿下。
 この響きを、わたしは、一体どこで――?


『――黒曜。いや、オブシディアン。
 俺の、唯一無二の親友よ。
 俺は、お前を赦さない。
 赦さないから――今、ここで、お前を殺してやる』


『――あぁ、シリウス。
 僕を赦すな。決して赦すな。
 一切の情けも容赦もいらない。
 我が友ならば――今こそ、ここに殺し合おう』


 聞いたことがある。
 わたしは、どこかでこの台詞を聞いたことがある。


『――ごめんな、リッカ。やっと、お前の元に行ける』


 真っ赤な血が白雪を穢す。
 地面に倒れ伏したあの人は、それでも尚、寒気がするほど美しかった。


 お兄様。シリウス様。
 わたしは二人を


『ゼロイズム・ナイン』のラスボス、オブシディアン・ロードライトと、彼を倒した主人公、シリウス・ローウェル。
 オブシディアンの死と引き換えに、世界は平和を取り戻す。

 早世したという、オブシディアン・ロードライトの妹。
 妹の死をきっかけに彼は闇に堕ち、世界を恨み憎む道を歩み始めた。

 ……って……。
 ――つまりは、の死をきっかけに!?

「……――……っ」

 一つ思い出すごとに、連鎖的に他のことも続々と思い出してゆく。
 頭の中が、溢れた記憶でいっぱいになってしまう。
 気が付けばわたしは、頭を押さえて蹲っていた。

「……リッカ!?」

「リッカ、おい、大丈夫か!? リッカ!」

 兄とシリウス様の声が、どこか遠いところで響いている。
 顔を上げることも出来ず、わたしはそのまま意識を手放した。
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