闇喰

綺羅 なみま

文字の大きさ
上 下
13 / 41

秘境村で亡くなった少年

しおりを挟む
俺の反対も虚しく、こんな深夜に外に出ることになってしまった。
村はもう真っ暗だ。スマートフォンの小さな明かりを頼りに川の近くまでやってきた。
誰も付けてきてはいないようだ。
トンネルの入り口を探す。

「なんでこんな所に来ちゃったかな」
動くたびにカサカサと草の擦れ合う音がする。小さな音に一々驚いてしまう。暗闇で感覚が敏感になっている。
「実は高畑も呼ばれた・・・・のかも」
柴田さんは顔を下から照らして言った。
「それ面白い冗談のつもり?」
不気味なことを言わないでくれ。

入り口に到着し、静かに岩の戸を開ける。中は相変わらず真っ暗だった。
頭を屈めながら向こう側に進む。前にここを通った時には幽霊事件に巻き込まれるとは思っても見なかった。
戸を開ける。
後ろで柴田さんが小さく悲鳴を上げた。何が視えているんだ。

「何が視えているか、知りたい?」
「絶対言わないで」
俺の目にはわずかに月明かりに照らされただけの原っぱが見えている。たまに風に揺れる、それだけだ。それが事実なのだ。それで良いんだ。

「あれ?おかしいな」
俺に続きトンネルから抜け出た柴田さんがきょろきょろと周りを見渡す。
「な、なに」
聞きたい気持ち半分。聞きたくない気持ち半分。
「寄って、来られないのか?」
「寄って来られない?」

イマイチ理解が追い付いていない俺を置き去りに、柴田さんはふーん、まさか、本当に?、と独り言とも会話ともつかない様子で言葉を漏らし少しぶらぶらを川辺を歩く。

「ねえ高畑」
嫌な予感がした。
「そこ、ちょっとぐるって歩いてみて」
柴田さんは何もない所を指差す。理由は聞きたくなかった。俺は黙って言われた通りにする。

ぐるりと歩いた俺の方を見て柴田さんは「やっぱり!」と手を叩いて喜んだ。一体どうしたんだ。

「凄いぞ。霊達が高畑を避けてる!弱い霊は高畑が触れた瞬間に消えていく」
「待ってよ、いつ触ったの」
少し泣きそうになる。
「そっか。だから高畑には視えないんだ。霊感が弱いんじゃなくて、高畑を守っている力が強すぎてみんな寄って来られないんだ」
そんな俺を無視してひたすら納得している様子の柴田さんであったが、それより俺はいつユーレイに触ったんだ。

「はー便利、じゃなくて心強いな」
「言い直しても遅いぞ」
「っわ、来た」
柴田さんがこちらに駆け寄り俺の背後に回る。
「こ、この間はどうも」
柴田さんが川を渡った時に出会った女性の霊なのか?
「騙したわけじゃ、いや、ですからあちら側には連れて行けないんですよ」
やめろやめろやめろ!

「俺を挟んで会話するのやめろ」
ここにいるのかよ。勘弁してくれ。
「寄って来ないんじゃなかったのか」
「ん?視えてないんだろ?」
「近くにはいるんだろ」
柴田さんが静かにしててくれればそこに誰かいることには気付かなかったんだけどね。
「彼女も高畑が嫌そうだが、私は引き寄せる体質だからな。プラマイゼロだ」
なにがプラマイゼロだ。
「離れてくれ」
心からそう願った。

「あ、あの子だ」
柴田さんが俺の手を引きつつ歩く。
「山で出会った少年か」
「ああ、この辺にいてくれ」

柴田さんは立ち止まると「久しぶり」とまるで旧友に話し掛けるように言葉を掛けた。そこにしゃがみ、目線を合わせたのだろうか。
「私のこと、覚えてる?そう、あの時はありがとうね」
少年と話しているのだろう。ふとこちらを振り向いた。
「大丈夫だ、普通に話せるみたい。何から聞く?」
普通に話せるのか。俺からしてみれば話せるのは普通ではないぞ。
「この村の子なのか聞いてみよう」
柴田さんが頷き、その後も時々俺に質問内容を尋ねながら質問をしていった。

しばらく会話すると、礼を言い頭を下げる。俺も柴田さんにならい頭を下げた。
と、彼女は笑って「まあまあ良い奴だよ」と言った。
疑問符を浮かべる俺を見てまた笑う。
「こわい人だと思ったけど、そうでもなさそうだね。だってさ」
視えない少年に、「君もね」と心の中で返した。

「色々と聞けた。凄い量いるから早く帰ろう」
「それはいい考えだ」
たくさんいらっしゃるらしい。それを聞いて、俺は急いでトンネルに入った。

家に戻ると早々に話を切り出した。

「少年はなんだって?」
「まず、彼はこの村で亡くなった。けどこの村の出身ではなく、私を呼び出した訳でもない」
「どうしてこの村に?」
「やはり生前、水害でこの近隣の村々で壊滅的な被害があったようだ。その時に彼の家と父親は流されてしまったらしく、生き残ったご家族とこの村にやって来たんだそうだ」
「それは大変だったな。前にあった時には少年の記憶はなかったんじゃなかったか」
「それが、村長を見て思い出したらしい」
村長?なぜだ。
「前にもこの件について話したろ、時代が違うはずだ」
「人違いだったそうだ。なんでも少年が最期に見た相手に似ていて、それに驚いて生前の事を思い出したと言っていた」
「なるほど、それで村の近くまで戻って来たんだな」
しかし結界のせいで中に入ることができないと。

「似ていたということは、もしかすると少年が最期に見た相手の子孫に当たるのが村長なのかもしれないな」
「そうだな。それともう一つ」
「重要なやつ?」
「それなりに。この村に封じられている人間についてだが、それは言えないんだそうだ」
「言えない?封印されてるヤツが口止めしているということか?」
「そこまでは分からないが、とにかく彼らは言えないらしい」
彼らということは少年だけでなく、あそこに集まる彼ら全員が言うことは出来ないのだろう。
「周りにいた奴等はあいつのせいでとも許してほしいとも言っていた」
「どういう意味だ。みんなそいつに殺されたのか?」
「少年曰く、罪があるのはあそこに溜まっている霊の方だ。「この人達は罪があるからここを離れられない、僕も一緒」だと」

ますます意味不明だ。
罪があるのは川に集まった奴等の方だが、封印された奴のせいで離れることが出来ない。
結局どちらが悪いんだ。

「私達は自分で知らなきゃいけないんだ。この村に起こったことを」
それが封印された奴の願いなのだろうか。
「それから、ビッグニュースだ」
柴田さんはとびきり嫌な顔をする。

「村長の家に、私達が200年前の事を知る為の何かがあるらしい」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

――賽櫻神社へようこそ――

霜條
ホラー
賽櫻神社≪サイオウジンジャ≫へようこそ――。 参道へ入る前の場所に蝋燭があるので、そちらをどうかご持参下さい。 火はご用意がありますので、どうかご心配なく。 足元が悪いので、くれぐれも転ばぬようお気をつけて。 参拝するのは夜、暗い時間であればあるほどご利益があります。 あなた様が望む方はどのような人でしょうか。 どうか良縁に巡り合いますように。 『夜の神社に参拝すると運命の人と出会える』 そんな噂がネットのあちこちで広がった。 駆け出し配信者のタモツの提案で、イツキとケイジはその賽櫻神社へと車を出して行ってみる。 暗いだけでボロボロの神社にご利益なんてあるのだろうか。 半信半疑でいたが、その神社を後にすればケイジはある女性が何度も夢に現れることになる。 あの人は一体誰なのだろうか――。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

冥恋アプリ

真霜ナオ
ホラー
大学一年生の樹(いつき)は、親友の幸司(こうじ)に誘われて「May恋(めいこい)」というマッチングアプリに登録させられた。 どうしても恋人を作りたい幸司の頼みで、友人紹介のポイントをゲットするためだった。 しかし、世間ではアプリ利用者の不審死が相次いでいる、というニュースが報道されている。 そんな中で、幸司と連絡が取れなくなってしまった樹は、彼の安否を確かめに自宅を訪れた。 そこで目にしたのは、明らかに異常な姿で亡くなっている幸司の姿だった。 アプリが関係していると踏んだ樹は、親友の死の真相を突き止めるために、事件についてを探り始める。 そんな中で、幼馴染みで想い人の柚梨(ゆずり)までもを、恐怖の渦中へと巻き込んでしまうこととなるのだった。 「第5回ホラー・ミステリー小説大賞」特別賞を受賞しました! 他サイト様にも投稿しています。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

ヘヴンリー・ヘル ~姦ノ島~

マジカルひかる
ホラー
「この島は、何かがおかしい」  夏休みに、長崎県のとある島を訪れた大学生たちを襲う、最狂のエロティック・ホラー。  海辺の丘にたつ洋館の中で、ひとり、またひとりと、彼らは想像を絶する恐怖の餌食となってゆく。  彼らを襲う「何か」の正体とは――?   恐怖の先に彼らが辿り着く「新世界」とは――?

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

そのスマホには何でも爆破できるアプリが入っていたので、僕は世界を破壊する。

中七七三
ホラー
昨日、僕は魔法使いになった。 強風が吹く日。僕は黒づくめの女と出会い、魔法のスマホを渡された。 なんでも爆破できるアプリの入ったスマホだ。どこでもなんでも爆破できる。 爆発規模は核兵器級から爆竹まで。 世界を清浄にするため、僕はアプリをつかって徹底的な破壊を行う。 何もかも爆発させ、消し去ることを望んでいる。

処理中です...