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救護
しおりを挟む私を庇い大ケガをしたエリックを私は抱きしめていた。
冷静になるのよ···このままではエリックが命を落としてしまう。
何か···何かエリックを助ける方法はない?
その時、レティキュールに入った小瓶を思い出した。
上級回復薬と状態回復薬。
もしもの事を考えて、エリックが用意してくれた物だ。
まさか本当に使う時が来るなんて···。
でもエリックの用意周到な性格のおかげで、彼を助ける事ができる。
万が一、剣に毒が塗られている場合もある。
そして破傷風も怖いので、剣を引き抜いたらすぐに状態回復薬を塗布し、すぐに上級回復薬を塗布しなければならない。
そして突き刺さった剣を抜けば、大量に出血する事が考えられるので時間との勝負。
エリックの傷まわりの衣服を邪魔にならないように少し捲る。
医術に詳しくない私には急所を反れているのか判断できないのであくまでも応急処置···。
上級回復薬はどれくらい傷を治すことが出来るのだろう?もしもの事が頭を過る···。
(ダメよ···。今は余計なことは考えたらダメ。エリックを救う事に集中しなさい。エレノア・ランバート。)
お願い···。どうか傷が急所から外れていますように。
エリックが助かりますように···。
エリックの腹部に突き刺さった剣を一気に引き抜き、状態回復薬を塗布する。
そしてすぐ様上級回復薬を傷に塗布した。
シュゥゥ···という音と共に、エリックの腹部の傷が少しずつ塞がっていく。
上級回復薬···初めて使ったけど、すごい効き目だわ。
エリックは···大丈夫よね···?
エリックの胸に耳を当てる。
トクン···トクン···と規則正しい音が聞こえる。
エリックの口元に耳を近付けると···。
すぅ···すぅ···と呼吸音が聞こえ、胸が上下に動いて呼吸をしている事も確認できた。
心音も呼吸も問題はなさそうだ。
ただ、大量に血を失っており唇が若干青い。
早めに医師に診てもらう必要がある。
「ルデオン様!!お願いします。エリックをすぐに医務室へ運びたいので力を貸して下さい。」
涙が溢れ落ちないように耐える。
私の表情を見たルデオン様は、私の肩をポンポンと叩く。
「そんな顔をしなくても大丈夫だ。エリックは絶対にエレノア嬢を一人残して死んだりしない。傷の手当て···女性には辛いだろうによく頑張った。俺が担ぐから、一緒に医務室へ行こう。」
私を安心させるように優しく微笑むルデオン様。
王妃様とオースティン様、そしてエヴァン侯爵はこの場の指揮を取る為に残るので、エリックの事は私とルデオン様に託された。
母親である王妃様が一番付き添いたいはず。
だが、今この場で指揮を取れるのは王妃様だけだ。
私は王妃様達に頭を下げ、ルデオン様がエリックを担ぐと急いで医務室へ向かう。
医務室に着くと医師に指示を仰ぎ、エリックをベッドに寝かせる。
医師に先ほどの状況を事細かに話し、状態回復薬と上級回復薬を使用した事を説明した。
「エレノア嬢。状態回復薬を使用したのは正解だよ。破傷風の事もよく知っていたね。剣に毒が付着していた可能性もあったし、傷を塞ぐ前に使用する必要があった。手順と処置が正しかったおかげで傷の方は大丈夫だ。急所からも反れている。出血も処置が早かったおかげでちゃんと処置すれば問題はない。命を落とす事はないよ。だから君も少しここで休んでいきなさい。君も酷い顔色をしている。」
ルデオン様も心配そうに私を見ていた。
私は医務室を見回す。
周りにはケガをした兵士がたくさんいる。
先程の防衛戦で戦った兵士だろう。
「本当に具合が悪くなれば休みます。軽傷の方達だけでも手当てするのを手伝う事は出来ないでしょうか?酷いケガをされている方もたくさんいます。プロテクト魔法をもう少し長く維持していられたら···こんなにケガ人を出さなくて済んだかもしれないのに···。ごめんなさい。」
私はケガをした兵士達に頭を下げた。
「エレノア嬢。君のおかげで死者も出ず、ケガもこんなもので済んだんだ。謝るのは私達の方だよ。君にたくさん無理をさせてすまなかった。そして私達を守ってくれてありがとう。たくさん魔力を使って体も心も疲れているだろう?私達に気を使う事なんてない。君に何かあれば、私達がエリック様にお叱りを受ける事になる。今はゆっくり休んで、また素敵な貴女の笑顔を私達に見せてほしい。」
エトラウス公爵家の次男、ジョバンニ様が兵士を代表して私に声をかけてくれた。
ジョバンニ様が私に向かって礼をすると、周りの兵士の方達もジョバンニ様の後に同じように礼の姿勢を取る。
「皆エレノア嬢が守ってくれた事を知っています。今はゆっくり休んで下さい。」
ルデオン様も頭を下げた。
私は断れなくなり、渋々医務室のベッドに横になる。
兵士の方達は、エリックと私を残して部屋を出た。
ルデオン様がベッドのカーテンを閉めて、その後を追いかけて出ていく。
私は隣のベッドで眠るエリックを見た。
点滴を受けながら眠るエリックの顔色や唇の色は、先ほどよりも良くなっている気がする。
良かった···。エリックが無事で本当に良かった。
エリックの穏やかな寝顔を見て、安堵の息をつく。
私を庇って、エリックの腹部に剣が突き刺さった時···心臓が凍り付きそうになった。
目を開けないエリックを見て、心臓が止まるかと思った。
彼は優しすぎる···。この国の王子なのに、命は大事にしてほしい。私なんて捨て置いてくれて良かったのに···。
「でも、私を守ってくれてありがとう···。貴方の姿を見た時。本当に嬉しかった。でも、もうあんな無茶はしないでね。命がいくらあっても足りないわ。貴方が助かって···本当に良かった。私ね···エリックにたくさん話したい事があるの。だから目が覚めたらたくさん話をしましょう?だからエリックもゆっくり休んで早く元気になってね。」
寝っているから伝わっていない事は、十分承知している。それでも今、エリックに伝えたかったのだ。
エリックの無事を確認したら、どっと疲れが出たのか体が怠くなり···私は意識を手放した。
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