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もう一人のサブヒーロー
しおりを挟むお父様から外出許可をもぎ取ったのは良かったのだが····。
「ちょっと!どうしてもっと大きい馬車にしなかったのよ!?この小さい馬車じゃ四人も乗ればぎゅうぎゅうじゃない!」
「だからお前は後ろの別の馬車に乗れって言ったろ?」
「それじゃあエルと一緒に乗れないじゃない!ねぇエル?男共はこっちの馬車に残して、私達は後ろの広い馬車に移動しましょう?」
私がイザークと神殿に行く支度をしていると、二人がタイミング良くお見舞いにやってきた。
それから、話の流れで二人もついて来る事になってしまったのだ。
「イザーク様、騒がしくてごめんなさい。いつもは二人共こんな我が儘言わないのだけど···。」
エルルーシアは両隣の二人を睨む。
「二人共?遊びに行くんじゃないのよ?それに狭いのは、二人掛けの席に三人座ってるから狭いの。どちらかが、イザーク様の隣に座れば十分広いわよ?」
二人は睨み合ったまま譲ろうとしない。
「それじゃあ仕方ないわね?私がイザーク様の隣に座るわ」
スッと席を立ち、エルルーシアがイザークの隣に座ると二人は悔しそうにイザークを見る。
「お二人がエルルーシア嬢の事をとても大事に思っているのが伝わってきて、微笑ましい光景だと思います。だから気にしなくて大丈夫ですよ」
イザークは、嫌な顔一つせず穏やかな表情でエルルーシア達の様子を見ていた。
「二人がいなかったら今の私はきっといません。二人が必死に支えてくれたから、私はまた前を向いて進めるんです。本当に良き友に恵まれたと思います」
ふふっと嬉しそうに微笑むエルルーシア。
(たぶん···お二人が貴女に向けているのは、友愛の感情ではないと思いますが···。貴女が笑顔でいられるのならば、私は二人も守りましょう。貴女の笑顔の為に。)
一時間ほど馬車を走らせると、王都の正門に着いた。
御者が通行の手続きを済ませると、兵士は積み荷の確認だけして、車内は調べられる事なく通行許可が出た。
正門を潜ると、正面に大きな白い王城がそびえ立つのが見える。
王都は、王城が王都のどこからでも見えるように造られている。
想像していた以上に綺麗に整備され、景観が素晴らしい。
正門を潜り右に進んで行くと、大きな神殿が見えてきた。
ドミニコフ領にも神殿はあるが、規模が違う。
歴史を感じさせる荘厳な佇まいに思わず圧倒されてしまった。
グランディアス神殿は、創造神グランディアスが地上に舞い降りた地として有名な観光地でもある。
平日であるのに、たくさんの観光客で賑わっていた。
貴族専用の通路から神殿に入ると、薄い水色の長い髪を束ねた美しい神官が出迎えてくれた。
他の神官と比べて見ても、明らかに豪華な金糸の刺繍の入った祭服を身に纏った神官は、とても中性的な美しい顔立ちをしている。
この人は····セバスティアン・クリストフ。
この若さで大神官になったサブヒーローだ。
彼は王国滅亡編に出てくるサブヒーローで、男主人公とヒロインが魔王復活を阻止する為に闘う時に色々助力してくれるインテリ眼鏡キャラ。
小説ではセバスティアンのルートの話もあるけど、王国滅亡編と絡んでくるからとにかく切ない。
セバスティアンルートでは男主人公が激しい闘いの中命を落としてしまう。
男主人公が亡くなり、失意のヒロインを献身的にセバスティアンが支え、やがて恋に落ちる。
献身的なセバスティアンはとても好みだったけど、彼のルートはとにかく人がたくさん亡くなるからダメだ。
断固阻止しないと···。
でも、彼が出てくるって事は···まさか、もうすでに王国滅亡編のルートに入ってるって事···?
もう、めちゃくちゃだ···。
イザークの事もあるし、アリアナがなかなか恋に落ちる気配もない。
それに、小説にはなかった事件···。
もう、ルートらしいルートがあるのかわからない。
もし、これが王国滅亡編ルートなら···たくさんの死人が出てしまう。
本来なら予測できる事も出来ない。
これじゃあ小説の内容を知っていても意味がない。
たくさんの人が亡くなるようなルートなら、全力で避けたいのに···どうしてこうも上手くいかないのだろう。
私が異分子だから···?
私のせいなのだろうか···。
もし、私という存在がいるせいでこの世界がおかしくなっているんだとしたら···私は、この世界にいていいのだろうか····?
今回の事件の犯人は、もしかしたら世界の強制力が影響しているのではないのだろうか···?
そうなると、私というバグはこの世界にとって邪魔な存在···。
あってはならない存在なのでは···?
そんな考えが頭を過り考え込んでいると、ふと誰かが髪に触れている感覚に意識が現実に戻った。
「レイブン···?」
レイブンが心配そうにこちらを見ていた。
「エル大丈夫···?顔色が悪いし、話しかけても反応がなくて心配だったんだ」
いけない、考え込みすぎて意識が飛んでた。
「ちょっと考え事していたの。心配かけてごめんなさい」
不安そうにこちらを見るレイブンに、ニコリと微笑むと、体調が良くないなら早めに言うんだよ?となんとか納得してくれた。
レイブンは鋭いから気をつけないと···。
情報が不確かだからハッキリと危険が迫ってるかもなんて言えないし、心配はかけたくない。
とにかく、状況が分かるまでは誰にも言えない。
ふと誰かの視線を感じて目線を上げると、セバスティアンがこちらをじっと見ていた。
「君、すごく面白い魂の色をしているね。まるでこの世界の人じゃないみたい」
思わずギクリとしてしまう。
もしかして、中身が本物のエルルーシアでない事がバレてる?
油断した····そうだ、彼は特別な目を持っているんだった。
魔眼とまではいかないけど、彼は魂の色を見る事ができる。
魂の色は人それぞれで、いい人は明るい魂の色、悪い人は魂が闇に染まって黒ずんでいるって作中で彼が言っていた。
実際自分の魂の色なんてわからない。
そのせいで、私が転生者だってバレたらどうしよう···。
「虹色なんて見たことがない···すごく綺麗だ」
この人距離感近くない?
ススッと近付いて来たと思ったら、両手で私の頬に触れて瞳を覗き込んでくる。
この何もかもを見透かすような瞳が怖い。
ビクリと恐怖で体を硬直させると、誰かにグイッと肩を掴まれて後ろに引かれる。
「勝手にエルに触れないでくれる?」
レイブンがエルルーシアをグイッと引っ張り背に隠した。
「セブ···お前悪い癖だぞ。エルルーシア嬢、こちらが紹介したかった大神官のセバスティアンです」
イザークに紹介されて、ニコリと笑い胸に手をあて礼を取るセバスティアン。
「ご紹介に預かりましたセバスティアン・クリストフです。どうか私の事はセブと気軽に呼んで下さい」
気付いたら、また距離を詰められていた。
気配がなくてビックリしてしまう。
そんなセバスティアンを警戒するレイブン。
「相当気に入られたみたいですね。ちょっと変わり者だけど、悪い奴ではないので嫌わないでやって下さい」
小説だとインテリ眼鏡だったのに···。
「セバスティアン様···」
「セブで」
「さすがに初対面で呼び捨ては····」
「セブで」
呼び方のこだわりが強い。
「セブ···私の魂の色が他の人とは違うって、そんなに不思議なものなの?」
セブと呼んだら満足そうに答えてくれた。
「普通の人間は、魂の色は単色なんです。善良な人間は単色。犯罪を犯したり、心が闇に染まると魂の色が濁って見えたり黒く見えたりします。だから貴女のような虹色は初めて見ました」
セバスティアンはそう言うと、楽しそうにエルルーシアを見つめる。
「前任の大神官様は、異世界から来た聖女様の魂も虹色だったと言っていました。だから、君もこの世界の人間じゃないのかな?って思ったんです」
楽しそうにエルルーシアを観察するセバスティアンに、全てを見透かされているような気がしてゾクッとしてしまう。
セバスティアンは、私が本物のエルルーシアではない事を分かって言っている?
セバスティアンには本当の事を話すべきだろうか····?
でも会ったばかりのセバスティアンを信用するにはリスクもある。
どう反応したら良いのか私は戸惑ってしまった。
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