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天使が舞い降りた日1 (エルスティンside)
しおりを挟む私、エルスティン・ヒューゲルの今までは、父なしには語れない。
小さな頃、体も小さく緑色の髪に金色の瞳という変わった風貌から、まわりの体の大きな子供達から目をつけられよく苛められた。
苛められるたびに、父に悔しいと泣きついた。
父は、家にいる時は、穏やかで優しく怒った姿は見た事がないくらい···優男なイメージしかなかった。
そんな父が、ある日私にこう言った。
「強くなりたいか?強くなる覚悟があるか?」と。
私は強くなりたかった。
誰よりも強くなり、苛めた奴らを見返したかった。
私は、父の言葉に強く頷いた。
すると父は、ある場所に連れて来てくれた。
父の職場である、ディートリンデ王国軍第一騎士団詰所だ。
体もガッシリとした騎士がたくさんいた。
みんな強そうな人達ばかりで、少し緊張していると、父が、私を皆に紹介してくれた。
「 息子のエルスティンだ。私の息子ではあるが、どうか特別扱いをせず、立派な騎士になれるように厳しく鍛えてやってほしい。」
周りにいた騎士達の視線が私に集まる。
「団長···本当に厳しく鍛えていいんですかい?」と近くにいた老齢の騎士が父に聞いた。
「エルスティン本人が強くなりたいと望んだんだ。立派な騎士になれるようにしごいてやってくれ。」
老齢の騎士にそう言った父の顔は、普段の優しい父の顔ではなかった。騎士団長としての父の姿を初めて見た。
「エルスティン。今日から騎士団の一員になるんだ。騎士団の訓練は厳しいが、泣き言を言わずに耐え、強くなれ。お前を誰も特別扱いはしない。お前の力だけで強くなるんだ。」
父はそう言うと、老齢の騎士に私を任せ、自分の仕事に戻った。
騎士団の訓練は厳しかった。
毎朝早く起き、自ら鍛練をし、下っ端の私は毎日体力をつける為の体作り、剣の素振り、空いた時間は下っ端としての雑用もあったし···1日が終わる頃にはクタクタになり、ご飯を食べればすぐに寝落ちするほどだった。
厳しいが、周りの騎士達は優しく、時に厳しく私を鍛えてくれた。誰も特別扱いをせずに一見習い騎士として扱ってくれるのが嬉しかった。
辛い事もたくさんあるが、私はやりがいを感じていた。そして家とは違う、騎士団長である父の姿を見て、父に憧れを抱いた。
父は休みの日になると、剣の鍛練にも付き合ってくれた。騎士団長である父は、厳しく苛烈ではあるが···私は騎士団長である父の方が好きだった。
最初はただ強くなり、見返したいと思っていただけだったが、本当の強さとは···自らに厳しく、民には優しく、弱い者には手を差し伸べる。それが本当の強さだ。
いつしか、心も体も鍛えられて気持ちに変化が出る頃には、苛めていた者を見返したい···なんて小さな事にとらわれていた自分がバカらしくなった。
確かに苛められたのは悔しかった。
だけど、そいつらと同じ事をして見返すのでは所詮同類なのだ。相手にするのもバカらしく、その時間があるなら、強くなる為の時間に使いたい。
そう気持ちが変化する頃には、体もだいぶ逞しくなり、誰も自分を苛めなくなった。それにそんな小さな事も考えなくなっていた。
父に追い付きたい。父を越える強い騎士になりたいと···ますます剣の道にのめり込んでいた。
ある日、同じ年頃の騎士見習いが集められた。
そしてトーナメント制で試合をする事になった。
皆、私より先に騎士団に入った者ばかりであったが···負けたくなかった。
父を越える強い騎士になるには、彼等に負けるようでは話にならない。必死にトーナメントを勝ち抜いた。
そして気づけば、トーナメントで優勝していたのだ。
まさか、苛められっこだった私が優勝···。
そんな私の姿を見て、父はとても誇らしげに笑った。
騎士団に入団してから、初めて見る父の笑顔に目頭が熱くなった···。
騎士になって良かった。
まだまだこれからだけど···これからも鍛練を続け···いつか父のように···父を越える強い騎士になりたい。
トーナメントに優勝した私は、この国の第一王子であるマリウス殿下の護衛騎士という誉ある任務が与えられた。
マリウス殿下は、とても賢く優秀で···次期国王は間違いなくマリウス殿下がなるだろうと言われている。
そんな方の護衛騎士に···。
正直、突然の昇格に戸惑った···。
そして、王子の護衛騎士となった私の初任務は、王家主宰のパーティーでの殿下の警護。
まさかこのパーティーで、運命的な出会いをする事になるとは···その時の私はまだ知らなかった。
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