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第14話 断罪 (後編)
しおりを挟むヘルムートが裁判官と傍聴席に見えるように映像を流す。
「こちらがシルヴィア嬢が負わされたケガの映像です。こちらの映像を記録する時、私ヘルムートと、コーネリウス・エンゲルベルド伯爵子息、法廷書記官のエルムジ・ゲーアノーツがケガの状態を確認しています。そして暴行された当日の夜、王宮医師のフランツ・アグラス医師にもケガを確認してもらっています。」
フランツ医師が証人として出廷した。
「フランツ・アグラスです。王宮で20年間医師をやっていますが、侯爵令嬢が暴行されるなど前代未聞です。それに過去に王族が降嫁したこともある、歴史あるローエンシュタイン家の令嬢を、よりによって王宮内で、格下の貴族令嬢が暴行するなど正気の沙汰とは思えません。」
そこまで言うとフランツ医師は令嬢達を睨み付ける。
「私が診た時シルヴィア嬢は、叩かれたのか、頬は赤く腫れ。足首は熱を持ち腫れあがり、手の甲にはヒールで踏みつけられたアザがありました。そして、極度の低体温状態で意識も朦朧としていた。処置が、発見が遅れていたらシルヴィア嬢は亡くなっていたかもしれないのです。意地悪では済まされません。」
フランツ医師の証言を聞き、裁判官がシルヴィアに事実確認をする。
「フランツ医師の証言通りです。暴行後、私を部屋に残し彼女達は鍵をかけて立ち去りました。真っ暗で何もない部屋に閉じ込められ...私は命の危機を感じ、恐怖に震えました。私は...彼女達と面識さえないのに、何故こんな目に遭わなければならないのか...とてもつらく悲しかったです。」
私が証言をすると「嘘よ!!全部でまかせよ!!」とイザベルが騒いだ。
あまりの醜態に裁判長が「黙りなさい!!」とイザベルに一喝した。
「 イザベル嬢。君はまだ事の重大さに気付いていないようだね?君は、ベルナー伯爵家よりも格上の、ローエンシュタイン侯爵家の令嬢であるシルヴィア嬢が嘘を述べていると言うのかね?もし暴行した事が証明されれば名誉毀損、それにシルヴィア嬢の家は王族が降嫁された家系だ。彼女にも王族の尊い青い血が流れている。我が国の法律では不敬罪にも問われるぞ?それに、見つかるのが遅ければ彼女は命を落とす所だったんだぞ!?君がやった事は殺人未遂だ!!わかっているのかね?」
裁判官が厳しく問い質すが、それでもイザベルは罪を認めようとしない。
「そんなの、私がやったって証拠がないじゃない!!だいたい証拠もないのに、罪を押し付けられて冤罪もいいところだわ。名誉毀損はそっちの方じゃない!」
イザベルは、さらに開き直り騒ぎたてる。
そんなイザベルの醜い姿を、傍聴席に座る貴族達は、汚物を見るような目で見ている。
「 証拠ならあります。」
ヘルムートが、先ほどシルヴィアが胸につけていたブローチを取り出した。
「このブローチは、映像を録画できる魔道具です。彼女が暴行を受ける前に、彼女の身を案じて、私がプレゼントしたものです。」と映像石の映像を流した。
「貴女が最近ヘルムート様に付きまとっているって噂の女ね?」
3人の令嬢達がシルヴィアを見下し、睨み付けている映像が鮮明に映し出された。
「 貴女ごときが相手にされると思っているのかしら?」
イザベル嬢が、シルヴィアの手をヒールのある靴で踏みつける映像が流れると、貴婦人達が悲鳴をあげ、顔を扇で隠した。
あまりの生々しいやり取りに、貴族男性でさえ顔をしかめた。
シルヴィアが痛みに堪えきれず顔を歪ませると、エリーズ嬢がシルヴィアの頬を思い切り叩いた。
「 貴女目障りなのよ!ヘルムート様は、迷惑だと思っていらっしゃるわ。それにヘルムート様には、心に決めた方がいらっしゃるのよ?貴女ごときが近付いていいお方じゃないの。」
エリーズ嬢に続きナタリー嬢が怒鳴り散らす姿が流れた。
「こちらのイザベル様は、幼い頃からヘルムート様と懇意にされているの。ヘルムート様は、イザベル様の事を愛していらっしゃるのよ?これに懲りたらヘルムート様に近づくのはやめることね。次はこれくらいじゃ済まないわよ?」
そう言い放ち、部屋の扉を締め、鍵をかけて令嬢達が去って行く所までバッチリ鮮明に映し出されていた。
もう言い逃れできなくなったイザベルは、項垂れるようにその場に座りこんだ。
「私の家の領地が、イザベル嬢の家の領地に近いことだけで、勝手に我が家に押し掛けようとしたり、懇意にしてるなどと吹聴され。私に近付く令嬢を手当たり次第暴行したり、悪質な嫌がらせを繰り返した。我が公爵家にも多大なる迷惑をかけ続けて来ました。何度も公式に抗議しておりますので、抗議状の原本も残っております。被害者の女性達は、皆我が家のガーデンパーティーに招待された令嬢ばかりです。こちらの招待客の資料も証拠として提出致します。」
ヘルムートが今まで集めた証拠を全て提出すると会場内はシーンと静まり返った。
「 私からも証言したい事があるのだがかまわないかね?」
シーンと静まり返った部屋に、威厳のある凛々しい声があがる。
皆が振り替えるとそこにいたのは ──
アーデルハイト王国、国王のフリーヘルム・アーデルハイトだった。
「 イザベル嬢の被害に遭ったのはシルヴィア嬢を含め、21人となっているが...おかしいね...?数が合わない。もう1人いただろう?イリーナ・ヴェルヘルムという名の女性がいたはずだよ?....妻の遠縁の伯爵家に、行儀見習いで出していた我が娘、エリザベート・アーデルハイトがね。」
そういうと国王は、イザベルを睨みつけた。
「 エリザベートは、隣国の王子との婚姻が決まっていた。今まで全く外の世界を知らずに、箱入りに育ってしまった娘だ...。嫁ぎ先で、何もできないお飾りの姫では困るからね。ある程度の事が自分で出来るようにならねば心配だった。だから...社会勉強のつもりで数週間の間だけ、妻の遠縁の伯爵家に身分を偽り 、行儀見習いとして学ばせていたんだ。それにちゃんと社交の場に出ていれば、みんな娘の顔くらい知っているはずだからね...油断したよ。」
そこまで言うと、国王は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「 完全に失敗だった。あれ以来、娘は王宮の部屋から出て来なくなってしまった。そんな娘がね...毎日泣きながら言うんだよ。イザベル・ベルナーに酷い嫌がらせをされたってね。今日、この日がやって来る事を...ずっとずっと待ちわびていたよ。イザベル嬢?」
国王は、美しく、背筋の凍るような冷たい笑みを浮かべた。
イザベルはあまりの恐怖から泡を吹いて倒れた。
国王陛下が出廷し発言した為、すぐにイザベルの裁判は結審した。
裁判結果、イザベルは有罪。
王族に暴行したことが発覚したが処刑は免れた。
しかし、隣国の厳しい事で有名な修道院に入れられ、生涯出る事が許されない...。実質幽閉と、国外追放状態である。
そして、ベルナー伯爵家は爵位剥奪。
元伯爵夫妻は市井に身を落とす事になった。
他二人の令嬢は、罪を素直に認め反省した事と、親がイザベルの家に、弱味を握られ脅された事もあり、領地の没収だけで済んだ。
ベルナー伯爵家の屋敷や、屋敷に飾ってあった美術品、宝飾品や高級家具などは全て売却され、被害者に慰謝料として支払われた。
イザベルが隣国へ向かう馬車に乗せられる。
するとヘルムートは、馬車に近付きイザベルの口の中に誰にも見られないように、一粒の薬を投げ込んだ。
そして口を押さえつけ飲み込ませた。
「な...なにを飲ませたのよ!」
イザベルが驚き声を上げるとヘルムートはニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべた。
「 この薬はあるお方から預かったものだ。殺人バクテリアって知ってるかい?」
ヘルムートは黒い笑みを浮かべる。
「 陛下が処刑なんて生ぬるい事で許す筈がないだろう?死ぬよりも苦しい思いをしてもらわないとね。それに、君を生かしておけば万が一脱走でもされればシルヴィアが危ない目に遭うかもしれないからね。君には確実に死んでもらわないと。この殺人バクテリアは内臓を毎日少しずつ少しずつ溶かし腐敗させていくらしくてね...それはそれは痛く苦しい思いをするらしいよ?君にピッタリな罰だと思わないか?」
ヘルムートは、イザベルを睨み付けた。
「私は...最愛のシルヴィアを傷つけたお前を許さない。シルヴィアにした仕打ちを後悔しながら...苦しみながら死ね。」
ヘルムートの鬼のような怒りのオーラと鋭い視線を受け、イザベルは失神した。
数ヶ月後、イザベルが修道院で謎の病にかかり亡くなったと新聞の端に小さく小さく載っていた。
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