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第5話 コーネリウスの後悔

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「 シルヴィア?シルヴィア!?」


目の前では、愛する女性の名を呼び、心配そうに倒れた彼女を抱き起こす親友。

シルヴィアと呼ばれた女性は俺の顔を見て突然倒れた。

ああ...たぶん俺はとんでもないことを仕出かしてしまった。

彼女はたぶん...あの日、あの時の話を聞いていたのだ...と直感で理解した。

もしかしたら...俺の一言のせいで、本当は両思いのはずの彼女と親友の仲を拗らせているかもしれない。


俺は以前、夜会で出会ったシルヴィア嬢に一目惚れした。

彼女の美しさは社交界でも有名だった。

それに、ただ美しいだけじゃない。

賢く才能に溢れ、上品で優雅な彼女はまさに...高嶺の花だった。

「氷の女神」という二つ名も、我が国の守護女神イルムヒルデの伝説から...彼女をイルムヒルデに例えて呼ばれるようになった。

イルムヒルデはこの国が建国された時、他国がこの国を簡単に攻めて来られないように、氷の大河と、氷山を隣国との間に作ったとされている。

この氷山と氷の大河がなければ...軍事大国に挟まれた我がアーデルハイト国は、簡単に滅ぼされていただろう。

その伝説に例えて、最高の淑女に対して「氷の女神」と呼ぶのだが...

俺のように意味を間違えている奴も少なからずいるのだ...。

俺はこの間...親友にその意味を一時間程語られたばかりだが。



そして俺は、愚かにも...彼女と親しくなりたくて強引に迫ってしまった...結果はお察しの通り惨敗だった。
彼女に怯えられて逃げられてしまった。

あの時も、そんな失恋の悔しさからあんな悪態をついてしまった。

失恋してしまったけど諦めきれず悔しさからあんな最低な発言をしてしまったのだ。

フラれるに決まっている...女々しいにも程がある。

でも俺も...あれが初恋だったから悔しかったんだ...。
だからと言って彼女を貶めるような事を言っていい訳ではない...。

だからきっと天罰が当たったんだろう...。

俺はさらに後悔する事になる。


あの初恋を拗らせた堅物に、初めて彼女が出来たらしい。
過去に、初恋の女の子を自分の一言で酷く傷付けてしまったらしい親友は、ずっと後悔し、幼い頃の初恋を酷く拗らせている。

その親友が、突然彼女が出来たと報告してきたのだ。

毎日昼飯時には姿を消してしまうし、訓練が終われば早々に帰り支度をしてどこかへ行く。

最近は、飲みに誘っても...休みの日はいつも予定があるようで...なかなか予定が合わない。


たぶん相当“彼女”に入れ込んでいるようだ。


相手が気になり会わせろと言うが...親友は、絶対に彼女に会わせようとしないのだ。

それほどまでに、親友が大切にする彼女が気になってしかたがなかった。

あの初恋を拗らせた堅物を夢中にさせる女性..。
一体どんな女性なのだろうか?


彼女と一緒に昼食を食べる時間を狙って突撃した。

親友は、二人の時間をよっぽど邪魔されたくないのか激しく抵抗したが、親友に会わせられないような不純な関係なのか?と問えば、あっさり会わせて貰えることになった。

やり方は汚かったかもしれないけど..相手をあれほどまでに会わせようとしないのが心配だったのだ。

まあ...あれだけ初恋を拗らせた男だから、純愛なのは間違いないだろうけど。

そして初顔合わせの時、俺は自分の今までの言動を激しく後悔したのだ。


まさか親友が...本当にシルヴィア嬢に告白していたとは思わなかったからだ。

親友は、初恋の事があるから...人を騙したり、傷付けたりするような事は絶対にしない。

賭けなんかで告白するような男じゃないのだ...。

だけど俺の顔を見て、俺の声を聞いた彼女の反応を見て直感でわかった...。

彼女は...あの時の俺達の会話を確実に聞いている。


なぜわかったのか?


それは親友が告白した後に相談された事に関係している。

彼女は交際を許してくれたのに...なぜか心に壁を感じると...。

どれだけ好きだと伝えても...どれだけ甘い言葉を囁いても泣きそうな顔をするのだと。

彼女が愛しくてしかたがないのに...まるで信用してもらえていないような気がする...と親友は言った。

たぶんそれは親友のせいじゃない。

俺のせいだ...。

俺があの時、あんな最低な発言をしなければ...きっと親友と彼女はなんの憂いもなく幸せになっていたはずだ。

俺があんな最低な発言をしたせいで...彼女はきっと、親友が賭けで告白をしてきたと思い込んでいる。

彼女を悲しませ、苦しませている原因を作ってしまったのは俺のせいだ...。

俺のせいで...あの二人の関係を歪めてしまったのだ。

ならば何故...彼女は親友の告白を受け入れたのだろう...?

あの発言を聞いた後なら...偽りの告白だと思った筈だ。

でも親友を見つめる瞳や、優しく微笑む姿は...あれは恋する者の顔だ...。

何故、彼女はつらいのがわかっていて、親友の告白を受け入れたのだろう...。

調べる必要がありそうだ。

そして、この誤解は...拗らせる原因を作ってしまった俺が必ず解かなければ...。

そうしなければ...親友の本当の気持ちは、彼女に伝わらない。

親友は本気で彼女を愛しているのだから。

歪めてしまった俺が必ず誤解を解かなければ...。




















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