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37話

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「ここは……」

 目を開けると知らない部屋にいた。

 わたしは眠っていたようだ。少しだけ頭を動かして周りを見た。

 病院?

 白い壁と白い天井。
 簡素な家具が置かれた、物が少ない部屋。

 少し独特の消毒の匂いがする。

 そういえばわたし子供に背中を刺されたんだった。

 さっきまで夢を見ていた。

 とても辛い夢、とても悲しい夢。

 完全には思い出せない。

 あんなに辛くて泣きそうになったのに。

 でも、ミラーネ様がわたしを嫌った理由だけは何故か覚えている。


 前世で彼女の婚約者をわたしは平気で奪った。そのことでミラーネ様はとても辛い思いをした。

 わたしは人の不幸にすら気づかず、平気で人の幸せを踏み躙ったまま笑って幸せに一生を過ごした。

 だから次に生まれ変わった時、出会ったミラーネ様の前世、ミランダ様にシルヴァを奪われわたしは死んだのだ。

 そして今回は、多分わたしがシルヴィオ殿下を愛さなかったから、魔法で無理やり好きにさせてまた奪われてわたしが苦しむ姿を見たかったのだろう。

 起きあがろうと体を動かしたけど激しい痛みで一人では体を動かせない。

 そばにあった呼び鈴を鳴らす。

 しばらくして看護師さんらしき人とお医者様であろう人が急いで部屋に入ってきた。

「起きられたんですね?よかったですね」

 看護師さんはとても喜んでくれた。

 お医者様もわたしの顔を見て「よく頑張って耐えましたね」となぜか褒めてくれた。

 お医者様曰くわたしの命はもう駄目かもしれない状態だったらしい。

 背中の傷からの出血がひどくなかなか血が止まらなくて意識が戻るのも難しいと判断されていた。

 わたしのためにお父様が血を分けてくださったそうだ。この治療法は一か八かでうまくいったけど、失敗すれば二人とも命を落としていただろうとお医者様が話してくれた。

 なのになぜそんな治療を?

 それはソラリア帝国から来られているノエル様に同行していたお医者様の提案だったらしい。

 このままではわたしの命は助からない。ならば賭けに出るしかない。

 その提案にお父様が頷いた。
 あの真面目で貴族としての体裁だけを大切にするお父さまが。
 わたしの命を助けてくれた?
 侯爵家のために生きているお父様が?

 その話を聞いた時は驚いた。

 お父様はお見舞いに来てくれてもそのことは話さない。

 いつも通り「助かってよかったな」とだけ言って終わった。

 お父様もミラーネ様に操られていて今はその魔法が解けて元に戻っている。

 お優しいお父様、だけど貴族としての考え方に固執して融通がきかない。



 そういえば、ミラーネ様は捕まった。


 お父様は、わたしとシルヴィオ殿下の婚約解消も受け入れていたはずなのに、ミラーネ様の神託が嘘だとわかった途端、もう一度わたしと殿下を婚約させようと動いている。

 わたしはベッドの中で、こんな話をお見舞いに来てくれるユリウス殿下や友人のシェリーから聞いた。

 わたしが刺されて意識がない間にいろんなことが起きていた。

 そしてわたしも夢のなかでいろんなことを知った。
 ただ、夢の中なので、完全には覚えていないのだけど。



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