上 下
34 / 48

34話 夢の中

しおりを挟む
「アイシャ!」

 遠くから声が聞こえた。








 ここは夢の中?

 それとも………











 わたし?ううん、ここはどこ?

 わたしなのにわたしではない。

 わたしよりも年上の令嬢?

 でも目の前で………

「君との婚約は破棄させてもらう。僕の愛する人はミランダだけなんだ」

 ーーミランダ?でも目の前にいるのはミラーネ様に似ているわ。

 シルヴィオ殿下?違う。
 この人は誰?
 わたしに似た令嬢に婚約破棄を告げミランダ様?の腰を引き寄せ優しく抱きしめていた。

 二人は微笑み合い令嬢を冷たく見下ろした。

「この女を地下牢へ」



「何故?」

 令嬢は真っ青な顔をして二人を見ていた。

 令嬢は騎士達に無理やり連れて行かれた。

 令嬢の周りには不思議な光が見える。
 とても綺麗で何故か夢なのに、懐かしいと感じるわたし。今起きている夢はあまりにも酷い状態なのに。


 令嬢が連れてこられた地下牢には窓すらなかった。

 トイレと毛布が一枚置かれているだけ。

「入れ」
 令嬢は『何もしていない」と何度も訴えても誰も聞こうとしない。

 引き摺られ牢の中へと投げ入れられた。

 

 固い石の上に座り、眠くなれば石の上に横になって眠る。

 朝と夜、パンと水が運ばれてきた。

 看守すらいない独房。

 
 令嬢は食べ物を運んできてくれる女性に「お父様に会いたい」と声をかけるも返事もない。

 令嬢の顔には絶望が見えた。

 

 そしてどれくらい日が経ったのだろう。

 令嬢はぐったりとして生気がなかった。

 死が近づいているのがわかる。

 シルヴァ殿下と呼ばれる男性とミランダ様が共に地下牢へとやってきた。

 二人はとても楽しそうに令嬢の姿を見ていた。

「アーシャ、少しは反省したのか?僕の大切なミランダを襲わせようとするなんて、人として最低なことだと思わないのか?」

 ーーアーシャ。
 初めて彼女の名前を知った。

 わたしに似ている顔。わたしに似ている名前。
 そして、何故かこの場面を知っている気がする。何故?わからない、これは夢のはず。


「アーシャ様、あなたは精霊に愛された愛し子だと言われているのに、人を殺めようとするなんて。なんて恐ろしい方なの?」
 悲しみを堪えながらミランダ様はアーシャを見た。

 なのに目はアーシャを嘲笑うかのように一瞬ニヤッと嗤った。

 アーシャはずっと黙って二人から言われる言葉を聞いていた。

 ーー精霊?
 わたしはその言葉に絵本の中で読んだお話に精霊が出てきたなと思った。

 ーー夢の中だから精霊が出てきたのね。


「お前は返事すらできないのか?」
 苛立つ殿下に向けてアーシャが微笑んだ。

「なっ!なんだその気持ち悪い笑顔は?」
 殿下は不快そうにアーシャを見て舌打ちする。

 アーシャは何も答えない。

「ねぇもう行きましょう。こんな汚いところにいたくないわ」
 甘えるミランダ様を愛おしそうに見つめる殿下。

「ああ、なんだかとても臭いし、こんな小汚い女が僕の婚約者だったなんて、ほんと僕は見る目がなかったよ」

 そう吐き捨てて殿下は去ろうとした。

 そして────殿下は振り返って言った。

「この女を好きにしていいぞ」

 騎士たちはニヤッと笑った。

 ミランダ様はクスクス笑いながらアーシャを見た。

「あら?純潔を白騎士に捧げられるなんて名誉なことだわ。ねっ?アーシャ様」


 アーシャには牢の中で逃げる場所なんてない。

「や、やめて!わたしは何日もお風呂に入っていないわ!汚いからやめて!」

 

 白騎士たちはそんなアーシャの抵抗などなかったかのように次々に犯していった。

 わたしはそんなアーシャを助けようと「やめてあげてください!駄目!」と叫んだ。
 でも夢の中のアーシャは騎士達に犯されていった。わたしは両手で顔を覆い見ないようにした。そして大声で泣き叫んだ。

「やめてっ!!!」


 抵抗したため頬を叩かれ、数人に地面に押し付けられた。
 代わる代わる男たちがアーシャを犯していく。

 口にはタオルを入れられて声すら出せない。舌を切って死ぬことすらできないでいた。

 光すら入らない地下牢で男たちに弄ばれてただ横になる惨めなアーシャ。

 わたしの心も張り裂けそうになる。
 アーシャの心が、わたしの中に流れ込む。

 ーーお父様、助けて。
 言葉を発せないでいる彼女の声が何故か聞こえる。


 アーシャは数日男たちに犯されて裸の状態でボロボロになって死んでいった。

 この夢はあまりにも衝撃で、そして、何故か、自分がされたことのように感じる。

 夢の中から逃げ出したいのにわたしはこの夢から逃れられないでいる。







 ✴︎ ︎ ✴︎ ︎ ✴︎ ︎ ✴︎ ︎ ✴︎ ︎ 


「アイシャ、頼む、助かってくれ」

 祈るようにアイシャのそばにいたのは父親とシルヴィオだった。

 アイシャは背中を刺され出血がひどく意識を失ったまま目を覚さないでいた。



 アイシャが刺された時。

 シルヴィオはメイドのミズナの叫び声に急いで駆け寄りアイシャの倒れる姿を目にした。

 ミラーネはゆっくりとアイシャに近づいた。

「あら?わたし、今、聖力が使えないの。ごめんなさいね」

 と笑って言った。





◆ ◆ ◆

間違えて【愛されない王妃】の話をこちらに投稿しました。

お詫び申し上げます。すみませんでした。



しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

【完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

なか
恋愛
「君の妹を正妻にしたい。ナターリアは側室になり、僕を支えてくれ」  信じられない要求を口にした夫のヴィクターは、私の妹を抱きしめる。  私の両親も同様に、妹のために受け入れろと口を揃えた。 「お願いお姉様、私だってヴィクター様を愛したいの」 「ナターリア。姉として受け入れてあげなさい」 「そうよ、貴方はお姉ちゃんなのよ」  妹と両親が、好き勝手に私を責める。  昔からこうだった……妹を庇護する両親により、私の人生は全て妹のために捧げていた。  まるで、妹の召使のような半生だった。  ようやくヴィクターと結婚して、解放されたと思っていたのに。  彼を愛して、支え続けてきたのに…… 「ナターリア。これからは妹と一緒に幸せになろう」  夫である貴方が私を裏切っておきながら、そんな言葉を吐くのなら。  もう、いいです。 「それなら、私が出て行きます」  …… 「「「……え?」」」  予想をしていなかったのか、皆が固まっている。  でも、もう私の考えは変わらない。  撤回はしない、決意は固めた。  私はここから逃げ出して、自由を得てみせる。  だから皆さん、もう関わらないでくださいね。    ◇◇◇◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです。

処理中です...