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5話 お父様編
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アイシャはとても可愛らしく素直でいい娘だと思う。
親馬鹿だと周りには言われるが多分よその子のように我儘を言わないし我慢強い子だと思う。
仕事が忙しくなかなか会えない中、頑張って夜遅くまで起きて僕に会おうと待っていてくれる。ただ、あまりにも遅いのでアイシャは待ちくたびれて寝てしまうのだが。
財務大臣としての仕事と公爵としての仕事に追われ毎日眠る暇もない。
そんな中アイシャの寝顔を見ることだけが今は唯一の楽しみ。
愛する妻が突然の病で亡くなった。
あまりにも突然すぎて心が追いつかなくて心が壊れそうになった。そんな僕の手にアイシャはそっと小さな手を重ねてきた。
「お父様、泣かないで」
小さな体が僕を必死で抱きしめる。
僕よりも小さな5歳の娘が泣くのを我慢して大の大人の僕を抱きしめた。
小さな温もりが僕の心を温めてくれた。
この小さな女の子を守るのが僕のこれからの生きる目的だ。そう決めて頑張ってきた。
でもその頑張りは、頑張れば頑張るほどアイシャとの距離を開くことになってしまった。
周りからの評価は仕事をさらに忙しくさせる。まともに休みも取れない。
本当は今日だってアイシャのためになんとか休みをとったはずなのに。王城に急遽呼ばれてまだ仕事をしないといけない羽目になった。
アイシャを屋敷に帰そうとした。
「急用ができてしまった。急いで王城へと行かないといけなくなった。アイシャはトーマスたちと屋敷へ帰っていなさい」
「お父様、今日は今日だけは一緒にいたいの。長くかかるの?ついていっては駄目?」
「たぶんそこまで時間はかからないと思う。少し待たせることになるけどアイシャが待てるなら一緒に行こう」
「うん!」
アイシャが初めて我儘を言った。その声は必死だった。どれだけ今日を楽しみにしていたのかあの笑顔を見ればわかる。
あんな顔を見ればアイシャを屋敷に帰れと言えず王城へと連れてきてしまった。
しかし仕事中に娘を連れて回るわけにもいかず、花の大好きなアイシャのために庭園で待つように言った。
大臣である自分にとってあそこの庭園を歩くことは当たり前で特に気にしたことがなかった。
しかしあそこは王家のための庭園で、勝手に入れば騎士達に捕まってしまう。
入った時は自分が一緒だったとはいえ、今はトーマスと二人だけ。知らない者が見れば不敬に当たってしまう。
急いでアイシャの元へと戻った。
ーーしまった。
散歩中の殿下がアイシャを見つけてしまった。
「ソルボン公爵の娘?」
殿下の不機嫌な声が聞こえた。
「はい、今日は久しぶりにお父様とゆっくり過ごしておりましたが急に仕事が入り、王城へと参りました。
わたしは……どうしてもお父様と離れたくなくて我儘を言ってついて参りました。すぐに帰ります。わたしのようなものが王家の大切な庭園に入りましたこと深くお詫び申し上げます。
咎はわたしにあります。どうかそばにいる執事に罰を与えることだけはおやめください。父も何も悪くはありません。
わたしにだけ罰をお与えいただければと。どうかお願いいたします」
アイシャは殿下に何度も頭を下げているのをみて娘のところへ急いで走った。
何も知らないアイシャが、冷たい目と声の殿下に必死でトーマスと僕を守ろうと頭を下げている。
そんなことしなくていいんだ。悪いのは何も考えずに花が好きだからと庭園に置いていった自分なんだ。
6歳の誕生日を迎えたばかりの娘が、必死で謝罪する姿に胸が痛い。
「殿下、申し訳ございません。娘に何も咎はありません。ここで待たせたのはわたしの失態です。罰はわたしが受けますので娘をお許しください」
アイシャを抱きしめた。
小さな体は真っ青な顔をして震えていた。
9歳の殿下はまだ子供だが流石に王族。子供なのにしっかりと威圧感があり周りの空気を冷たくしている。
アイシャは僕を見るとホッとしたのか体から力が抜けた。
「お父様……ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
そして気を失ってしまった。
親馬鹿だと周りには言われるが多分よその子のように我儘を言わないし我慢強い子だと思う。
仕事が忙しくなかなか会えない中、頑張って夜遅くまで起きて僕に会おうと待っていてくれる。ただ、あまりにも遅いのでアイシャは待ちくたびれて寝てしまうのだが。
財務大臣としての仕事と公爵としての仕事に追われ毎日眠る暇もない。
そんな中アイシャの寝顔を見ることだけが今は唯一の楽しみ。
愛する妻が突然の病で亡くなった。
あまりにも突然すぎて心が追いつかなくて心が壊れそうになった。そんな僕の手にアイシャはそっと小さな手を重ねてきた。
「お父様、泣かないで」
小さな体が僕を必死で抱きしめる。
僕よりも小さな5歳の娘が泣くのを我慢して大の大人の僕を抱きしめた。
小さな温もりが僕の心を温めてくれた。
この小さな女の子を守るのが僕のこれからの生きる目的だ。そう決めて頑張ってきた。
でもその頑張りは、頑張れば頑張るほどアイシャとの距離を開くことになってしまった。
周りからの評価は仕事をさらに忙しくさせる。まともに休みも取れない。
本当は今日だってアイシャのためになんとか休みをとったはずなのに。王城に急遽呼ばれてまだ仕事をしないといけない羽目になった。
アイシャを屋敷に帰そうとした。
「急用ができてしまった。急いで王城へと行かないといけなくなった。アイシャはトーマスたちと屋敷へ帰っていなさい」
「お父様、今日は今日だけは一緒にいたいの。長くかかるの?ついていっては駄目?」
「たぶんそこまで時間はかからないと思う。少し待たせることになるけどアイシャが待てるなら一緒に行こう」
「うん!」
アイシャが初めて我儘を言った。その声は必死だった。どれだけ今日を楽しみにしていたのかあの笑顔を見ればわかる。
あんな顔を見ればアイシャを屋敷に帰れと言えず王城へと連れてきてしまった。
しかし仕事中に娘を連れて回るわけにもいかず、花の大好きなアイシャのために庭園で待つように言った。
大臣である自分にとってあそこの庭園を歩くことは当たり前で特に気にしたことがなかった。
しかしあそこは王家のための庭園で、勝手に入れば騎士達に捕まってしまう。
入った時は自分が一緒だったとはいえ、今はトーマスと二人だけ。知らない者が見れば不敬に当たってしまう。
急いでアイシャの元へと戻った。
ーーしまった。
散歩中の殿下がアイシャを見つけてしまった。
「ソルボン公爵の娘?」
殿下の不機嫌な声が聞こえた。
「はい、今日は久しぶりにお父様とゆっくり過ごしておりましたが急に仕事が入り、王城へと参りました。
わたしは……どうしてもお父様と離れたくなくて我儘を言ってついて参りました。すぐに帰ります。わたしのようなものが王家の大切な庭園に入りましたこと深くお詫び申し上げます。
咎はわたしにあります。どうかそばにいる執事に罰を与えることだけはおやめください。父も何も悪くはありません。
わたしにだけ罰をお与えいただければと。どうかお願いいたします」
アイシャは殿下に何度も頭を下げているのをみて娘のところへ急いで走った。
何も知らないアイシャが、冷たい目と声の殿下に必死でトーマスと僕を守ろうと頭を下げている。
そんなことしなくていいんだ。悪いのは何も考えずに花が好きだからと庭園に置いていった自分なんだ。
6歳の誕生日を迎えたばかりの娘が、必死で謝罪する姿に胸が痛い。
「殿下、申し訳ございません。娘に何も咎はありません。ここで待たせたのはわたしの失態です。罰はわたしが受けますので娘をお許しください」
アイシャを抱きしめた。
小さな体は真っ青な顔をして震えていた。
9歳の殿下はまだ子供だが流石に王族。子供なのにしっかりと威圧感があり周りの空気を冷たくしている。
アイシャは僕を見るとホッとしたのか体から力が抜けた。
「お父様……ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
そして気を失ってしまった。
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