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前編
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「わたくしの婚約者のそばにいるのはわたくしだけのはずよ?何故貴方が隣にいるのかしら?」
淡い栗色のふわふわした長い髪、瞳が大きく唇がぷくっとして可愛らしい女の子。名前はマーガレット。
わたくしの婚約者であるジェシー・パーキンソンの横で怯えながらわたくしを見ている。
「パトリーナ、いい加減にしろ。彼女は僕の幼馴染だ。何も問題はない」
「あら?婚約者のわたくしを差し置いてエスコートをしているのに何も問題がないと仰りたいの?」
「……そ、それは……マーガレットがエスコートしてくれる相手がいないと悩んでいたから……」
「ではわたくしはどうでもいいと思っていらっしゃるのね?」
「君には…たくさんパートナーになりたいと言う人達がいるだろう?」
「ええ、そうね。おかげで今夜はハリスと楽しいひと時を過ごせそうだわ」
ジェシーが少し眉根を寄せる。
「そうだよね、君はそう言う人だ」
ジェシーは少し傷ついた顔をしていた。
「もう行くよ、マーガレット行こう」
マーガレットはそっとわたくしに振り返り、クスッと笑うとすぐにジェシーを見て「怖かったわ」と言いながら体を彼にすり寄せていた。
「パトリーナ、向こうへ行こう」
ハリスはわたくしの手を掴んでベランダへと連れ出してくれた。
「そんな傷ついた顔をしているならいい加減にやめて素直になればいいのに」
ハリスはわたくしが二人のために悪役になっていることを知っている。だから協力してくれている。
でも………わたくしの余命があと数ヶ月しかないことは知らない。
いくらお金がある我が家でも不治の病はお金では治せなかった。
わたくしの病名は癌だった。
しかも進行の早い肺癌だった。
事実を知るのはわたくし本人と両親のみ。
弟や妹にも伝えていない。
それならば婚約解消をすればいいだけなのだが、わたくしの公爵家がジェシーの侯爵家の鉱山の開発に投資をしていてすぐに関係を終わらせるのは難しかった。
妹はまだ8歳なので18歳のジェシーと婚約させるわけにはいかない。せめて鉱山の開発の目処が立つ4ヶ月後までは婚約解消は我が家としてもしたくない。
でもその間愛する二人をこれ以上引き離すのは……わたくし自身が耐えられない。
いやもう見たくなかった。
二人は仲の良い幼馴染だった。
同じ学園に通いいつも仲睦まじい姿を中等部の時からわたくし自身も見てきていた。二人はいずれ婚約するだろうと思われていたのに……わたくしのお父様と彼のお父様が合同事業として鉱山の開発をすることになりわたくしと彼の婚約が結ばれた。
わたくしはずっと彼を好きだった。
彼は覚えていないと思うけど、幼い頃、共に遊んだことがある。
人見知りで誰とでも仲良くすることができなくて彼の屋敷に遊びに連れて行ってもらった時もわたくしは一人部屋の端っこで絵本を読んでいた。
そんなわたくしに笑顔で話しかけてきたジェシー。
「一緒に遊ぼうよ」
そこにはマーガレットやジェシーの弟もいてわたくしの手を握り庭へと連れ出してくれた。
みんなで庭を探検したり走り回って遊んだ。あんなに笑い合って遊んだのは初めてだった。
いつも絵本ばかり読んでいたわたくしには新鮮で、ジェシーにお礼を言おうと思ったのに……
彼はマーガレットの髪をそっと撫でて優しく見つめ合って笑っていた。
わたくしはそれを見て胸がズキっとした。ほんの数時間遊んだだけなのにわたくしはジェシーに恋をしてしまっていた。
わたくしは三人にお別れの挨拶をして屋敷に帰った。楽しくて仕方がないはずだったのに…屋敷に帰る頃にはただ虚しいだけだった。
それから何度かお父様はわたくしを屋敷へと連れて行った。
いつもマーガレットがいてジェシーと楽しそうに過ごしていた。
「パトリーナも遊ぼう」とまた手を握ってくれたけど2度目は断った。
「ごめんなさい、わたくし絵本を読んでいるのが好きなの。どうぞ三人で遊んでください」
「……僕たちと遊ぶのが嫌?」
ジェシーは少し寂しそうに聞いた。
「ジェシー、嫌がっているのだから放っておきましょうよ。それよりも今日は一緒に屋敷の温室へ連れて行ってくれる約束でしょう?早くいきましょうよ」
マーガレットはジェシーの手を握りしめて引っ張って行ってしまった。
そっと後ろ姿を見送っているとマーガレットは振り返ってわたしを見てクスッと馬鹿にしたように微笑んですぐにジェシーの耳元で何か話しかけ楽しそうにしていた。
彼女は昔から変わらない。ジェシーの隣は自分のもの。わたしが近づくことを許さない。
そしてジェシーもそれを当たり前だと受け止めている。
邪魔者はわたくし。二人の世界に無理やりわたくしが入ってきているのだ。
それからはお父様にもう行きたくないと断った。
なのにそれから10年後の16歳の時に婚約することになるなんて……
だから邪魔者のわたくしは早く去ってしまわなければならない。でもわたくし達の婚約は政略的なもの。
簡単には婚約解消など出来るわけがなかった。マーガレットは人が見えないところでわたくしへの嫌がらせをしたがそのことには誰も気づかない。
わたくしの大事にしていた本は何故かゴミ箱に捨てられていた。
わたくしのカバンはナイフで何箇所も切られていた。
なのに彼女は悲しげに涙を潤ませて
「どうしてパトリーナ様はそんな酷いことを言うの?」
「わたし何もしていないのに…」
「わたしが我慢をすればいいのだから……ジェシー、気にしないでね」
わたくしが何もしていなくても事あるごとに悲劇のヒロインを勝手に演じてわたくしを悪者にした。
わたくしがマーガレットの近くにいるだけで、勝手に転んだり勝手に服を濡らしたり、勝手に涙を流し始める。その度に周りに同情されるように
「わたしのことがお嫌いなんですね、パトリーナ様は……」と涙を堪えている。
何にもしていないのに、どうして涙が出るのかよくわからない。いや、そんな器用に泣けるのってある意味とてもすごい才能だと思う。
「パトリーナはどうしてマーガレットに意地悪ばかりするんだ?マーガレットはいつも君に優しくしてきただろう?」
マーガレットが彼の前でわたくしに何をされても耐えている姿を見せるたびに、彼はわたくしに苦言を言ってくる。
「わたくしが何をしたと言うのかしら?」
その度にわたくしは言い返した。
何もしていないのだから責められる謂れはない。
婚約してから2年もの間そんなやりとりが続いた。
そろそろわたくしも婚約解消をしてこの淡い初恋からさよならしたいと思い始めていた。
そんな時わたくしの体に異変が起きた。
初めは風邪だと思っていた。
熱が下がらず咳が続いた。痰も出て息苦しい。
どんな良い薬を飲んでも一向に症状が治まらない、
最近は胸の痛みや動悸でさらに悪化していった。
そして国内でも優秀と名高い医師に診察してもらいわたしは肺の病気を患っていると言われた。
治ることはない。持って半年の命と告げられた。
本当は夜会に出席する体力なんてなかった。でもあと残り三ヶ月の命。ならば最後に彼のかっこいい姿を目に焼き付けておきたかった。
最近はわたくしの我儘で学園はお休みしていると言うことにしている。
長期の休みも公爵令嬢のわたくしなら学園も受け入れてくれると勝手に生徒達は思っているようだった。
友人の一人がわたくしに会いにきて
「パトリーナ様は学園へ行きたくないと言えば自宅学習で卒業出来るのだから羨ましいわ」と言って嫌味を言いにきた。
わたくしの友人なんてこんなものよね。わたくしの公爵令嬢という地位だけしか興味がない。わたくしが学園へ行かなければ彼女達にはなんのメリットもない。わたくしと一緒にいるからこそ彼女達も周りから一目置かれるのだ。だからわたくしが学園に来なければわたくしなんて必要ないのだ。
だからこそわたくしに会いに屋敷に来て「早く学園へ来ないのか」と催促しに来ているだけなのだ。
わたくしが心配できてくれる人なんていない。
それはジェシーも同じ。
一応婚約者として顔を出しに来てはくれているらしい。でもわたくしは彼との面会は全て断っている。
わたくしのこの痩せこけて青い顔をした顔なんて見せられない。
今夜の夜会では化粧で誤魔化した顔。少しでも痩せ細った体型をカバーできるようにボリュームのあるドレスを着込んだ。厚化粧とこのドレスのおかげでわたくしはさらに悪役令嬢としてみんなの前に立つことができた。
と言っても
「わたくしの婚約者のそばにいるのはわたくしだけのはずよ?何故貴方が隣にいるのかしら?」
この言葉くらいしか言ってないのでさほど悪役らしくはないのだけど、周りはしっかりわたくしを冷たい目で見ているので十分これだけで悪役として成り立っているようだ。
これも全てマーガレットがわたくしを悪役令嬢に仕立て上げてくれたおかげかしら?
ジェシーはマーガレットを庇いながら私を睨む。
これもいつものことよね。
淡い栗色のふわふわした長い髪、瞳が大きく唇がぷくっとして可愛らしい女の子。名前はマーガレット。
わたくしの婚約者であるジェシー・パーキンソンの横で怯えながらわたくしを見ている。
「パトリーナ、いい加減にしろ。彼女は僕の幼馴染だ。何も問題はない」
「あら?婚約者のわたくしを差し置いてエスコートをしているのに何も問題がないと仰りたいの?」
「……そ、それは……マーガレットがエスコートしてくれる相手がいないと悩んでいたから……」
「ではわたくしはどうでもいいと思っていらっしゃるのね?」
「君には…たくさんパートナーになりたいと言う人達がいるだろう?」
「ええ、そうね。おかげで今夜はハリスと楽しいひと時を過ごせそうだわ」
ジェシーが少し眉根を寄せる。
「そうだよね、君はそう言う人だ」
ジェシーは少し傷ついた顔をしていた。
「もう行くよ、マーガレット行こう」
マーガレットはそっとわたくしに振り返り、クスッと笑うとすぐにジェシーを見て「怖かったわ」と言いながら体を彼にすり寄せていた。
「パトリーナ、向こうへ行こう」
ハリスはわたくしの手を掴んでベランダへと連れ出してくれた。
「そんな傷ついた顔をしているならいい加減にやめて素直になればいいのに」
ハリスはわたくしが二人のために悪役になっていることを知っている。だから協力してくれている。
でも………わたくしの余命があと数ヶ月しかないことは知らない。
いくらお金がある我が家でも不治の病はお金では治せなかった。
わたくしの病名は癌だった。
しかも進行の早い肺癌だった。
事実を知るのはわたくし本人と両親のみ。
弟や妹にも伝えていない。
それならば婚約解消をすればいいだけなのだが、わたくしの公爵家がジェシーの侯爵家の鉱山の開発に投資をしていてすぐに関係を終わらせるのは難しかった。
妹はまだ8歳なので18歳のジェシーと婚約させるわけにはいかない。せめて鉱山の開発の目処が立つ4ヶ月後までは婚約解消は我が家としてもしたくない。
でもその間愛する二人をこれ以上引き離すのは……わたくし自身が耐えられない。
いやもう見たくなかった。
二人は仲の良い幼馴染だった。
同じ学園に通いいつも仲睦まじい姿を中等部の時からわたくし自身も見てきていた。二人はいずれ婚約するだろうと思われていたのに……わたくしのお父様と彼のお父様が合同事業として鉱山の開発をすることになりわたくしと彼の婚約が結ばれた。
わたくしはずっと彼を好きだった。
彼は覚えていないと思うけど、幼い頃、共に遊んだことがある。
人見知りで誰とでも仲良くすることができなくて彼の屋敷に遊びに連れて行ってもらった時もわたくしは一人部屋の端っこで絵本を読んでいた。
そんなわたくしに笑顔で話しかけてきたジェシー。
「一緒に遊ぼうよ」
そこにはマーガレットやジェシーの弟もいてわたくしの手を握り庭へと連れ出してくれた。
みんなで庭を探検したり走り回って遊んだ。あんなに笑い合って遊んだのは初めてだった。
いつも絵本ばかり読んでいたわたくしには新鮮で、ジェシーにお礼を言おうと思ったのに……
彼はマーガレットの髪をそっと撫でて優しく見つめ合って笑っていた。
わたくしはそれを見て胸がズキっとした。ほんの数時間遊んだだけなのにわたくしはジェシーに恋をしてしまっていた。
わたくしは三人にお別れの挨拶をして屋敷に帰った。楽しくて仕方がないはずだったのに…屋敷に帰る頃にはただ虚しいだけだった。
それから何度かお父様はわたくしを屋敷へと連れて行った。
いつもマーガレットがいてジェシーと楽しそうに過ごしていた。
「パトリーナも遊ぼう」とまた手を握ってくれたけど2度目は断った。
「ごめんなさい、わたくし絵本を読んでいるのが好きなの。どうぞ三人で遊んでください」
「……僕たちと遊ぶのが嫌?」
ジェシーは少し寂しそうに聞いた。
「ジェシー、嫌がっているのだから放っておきましょうよ。それよりも今日は一緒に屋敷の温室へ連れて行ってくれる約束でしょう?早くいきましょうよ」
マーガレットはジェシーの手を握りしめて引っ張って行ってしまった。
そっと後ろ姿を見送っているとマーガレットは振り返ってわたしを見てクスッと馬鹿にしたように微笑んですぐにジェシーの耳元で何か話しかけ楽しそうにしていた。
彼女は昔から変わらない。ジェシーの隣は自分のもの。わたしが近づくことを許さない。
そしてジェシーもそれを当たり前だと受け止めている。
邪魔者はわたくし。二人の世界に無理やりわたくしが入ってきているのだ。
それからはお父様にもう行きたくないと断った。
なのにそれから10年後の16歳の時に婚約することになるなんて……
だから邪魔者のわたくしは早く去ってしまわなければならない。でもわたくし達の婚約は政略的なもの。
簡単には婚約解消など出来るわけがなかった。マーガレットは人が見えないところでわたくしへの嫌がらせをしたがそのことには誰も気づかない。
わたくしの大事にしていた本は何故かゴミ箱に捨てられていた。
わたくしのカバンはナイフで何箇所も切られていた。
なのに彼女は悲しげに涙を潤ませて
「どうしてパトリーナ様はそんな酷いことを言うの?」
「わたし何もしていないのに…」
「わたしが我慢をすればいいのだから……ジェシー、気にしないでね」
わたくしが何もしていなくても事あるごとに悲劇のヒロインを勝手に演じてわたくしを悪者にした。
わたくしがマーガレットの近くにいるだけで、勝手に転んだり勝手に服を濡らしたり、勝手に涙を流し始める。その度に周りに同情されるように
「わたしのことがお嫌いなんですね、パトリーナ様は……」と涙を堪えている。
何にもしていないのに、どうして涙が出るのかよくわからない。いや、そんな器用に泣けるのってある意味とてもすごい才能だと思う。
「パトリーナはどうしてマーガレットに意地悪ばかりするんだ?マーガレットはいつも君に優しくしてきただろう?」
マーガレットが彼の前でわたくしに何をされても耐えている姿を見せるたびに、彼はわたくしに苦言を言ってくる。
「わたくしが何をしたと言うのかしら?」
その度にわたくしは言い返した。
何もしていないのだから責められる謂れはない。
婚約してから2年もの間そんなやりとりが続いた。
そろそろわたくしも婚約解消をしてこの淡い初恋からさよならしたいと思い始めていた。
そんな時わたくしの体に異変が起きた。
初めは風邪だと思っていた。
熱が下がらず咳が続いた。痰も出て息苦しい。
どんな良い薬を飲んでも一向に症状が治まらない、
最近は胸の痛みや動悸でさらに悪化していった。
そして国内でも優秀と名高い医師に診察してもらいわたしは肺の病気を患っていると言われた。
治ることはない。持って半年の命と告げられた。
本当は夜会に出席する体力なんてなかった。でもあと残り三ヶ月の命。ならば最後に彼のかっこいい姿を目に焼き付けておきたかった。
最近はわたくしの我儘で学園はお休みしていると言うことにしている。
長期の休みも公爵令嬢のわたくしなら学園も受け入れてくれると勝手に生徒達は思っているようだった。
友人の一人がわたくしに会いにきて
「パトリーナ様は学園へ行きたくないと言えば自宅学習で卒業出来るのだから羨ましいわ」と言って嫌味を言いにきた。
わたくしの友人なんてこんなものよね。わたくしの公爵令嬢という地位だけしか興味がない。わたくしが学園へ行かなければ彼女達にはなんのメリットもない。わたくしと一緒にいるからこそ彼女達も周りから一目置かれるのだ。だからわたくしが学園に来なければわたくしなんて必要ないのだ。
だからこそわたくしに会いに屋敷に来て「早く学園へ来ないのか」と催促しに来ているだけなのだ。
わたくしが心配できてくれる人なんていない。
それはジェシーも同じ。
一応婚約者として顔を出しに来てはくれているらしい。でもわたくしは彼との面会は全て断っている。
わたくしのこの痩せこけて青い顔をした顔なんて見せられない。
今夜の夜会では化粧で誤魔化した顔。少しでも痩せ細った体型をカバーできるようにボリュームのあるドレスを着込んだ。厚化粧とこのドレスのおかげでわたくしはさらに悪役令嬢としてみんなの前に立つことができた。
と言っても
「わたくしの婚約者のそばにいるのはわたくしだけのはずよ?何故貴方が隣にいるのかしら?」
この言葉くらいしか言ってないのでさほど悪役らしくはないのだけど、周りはしっかりわたくしを冷たい目で見ているので十分これだけで悪役として成り立っているようだ。
これも全てマーガレットがわたくしを悪役令嬢に仕立て上げてくれたおかげかしら?
ジェシーはマーガレットを庇いながら私を睨む。
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