【完結】さよならのかわりに

たろ

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もう一つの世界では……④

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「何故わたしが外出禁止なんだ!わたしは要人としてバルン国に来ているんだ!
 おい!お前達!誰か返事をしろ!」

 部屋の中からどんなに怒鳴っても誰も返事をしない。

 部屋には、メイドも護衛騎士もいない。
 完全に一人っきりでこれは監禁されているのと同じだ。

 気に入らない。

 ブロアがまさかバルン国へ来ているとは思わなかった。
 好き勝手にしているのを親として叱っただけなのに、何が暴力を振るっただ!

 ふざけるな!国に戻ったらバルン国へ対して苦言を呈するつもりだ。
 この国の奴らは、全くわたしの話を聞かない。わたしが色々問題提起してやっているのにちっとも聞こうとしない。

 部屋の中にいてもすることはない。元々趣味もなくひたすら仕事ばかりしてきた人生だ。

 部屋の外に出られないのなら書類仕事でもしようと椅子に座った。

 しかしいつもなら山積みに置かれた書類がほんのわずかしかない。他国に来ても書類仕事は山盛りあるのが当たり前。

 置かれた書類なんてすぐに終わってしまった。

 することもなく手持ち無沙汰で何をしていいのかわからない。
 本当はブロアのところへ行き引きずってでもアリーゼ国へ連れ帰り、セフィルと結婚させるつもりなのに、邪魔ばかりしおって!

 一人何もすることなく部屋にいると考えるのはジェリーヌのことばかり。

 病に罹る前は、柔らかい笑顔の妻だった。

 コンコン。

 扉をノックする音が聞こえた。

「何のようだ?」
 鍵は外から掛けられている。中からは開かないようになっているので俺は無視して扉に目も向けない。

「失礼致します。あの……手紙が届いております」
「わかった、机の上にでも置いといてくれ」

 手紙が誰から来たのか興味もなく、かと言ってすることもなく、わたしは、はめ殺しになっている窓からボッーと外を見ていた。

 ーーくそっ、この部屋からは外に出ることもできない。

 庭先に咲き誇る花花が見える。

 我が家にも庭園はあった。

 生きていた頃はジェリーヌがこよなく庭を愛していた。子供達が遊んでいる姿を優しく見守るジェリーヌ。

 ジェリーヌのことを考えると思い出すのはわたしの裏切り行為。
 一番手を出してはいけない女に手を出してしまった。誘われるままにあの女を抱いた。

 ジェリーヌを愛していたからこそ彼女を抱くことができなかった。
 まるで壊れてしまいそうな人形のようだった。全てのものから守ってやらなければいけない。そう思っていたはずなのにアレはただの浮気でしかなかった。そう、守るどころか彼女の心を壊していたのはわたしだったのだろう。

 窓からただ外を見ていた。


 どれくらい時間が経ったのだろう。こんなにゆっくりしたのは何年ぶりだろう。
 執務に追われた日々。
 わたしは……仕事がなければ何をしていいのかすらわからない。


 そして、ふと手紙のことを思い出して差出人の名を見た。

 ブロアからの手紙だった。いや、この字は……ブロアではない……サイロ?誰だ?
 差出人はブロアなのだが……
 手紙は内容を確認されてわたしに渡されているはず。

 だから怪しいものではないだろう。

 その手紙はわたしへ宛てたジェリーヌからの手紙だった。
 わたしを愛していたことが記された内容だった。
 亡くなる前に書いていたのだろう。
 そして最後に……

『貴方の愛する人と幸せになってほしい』
 相手の名前は書かれていなかった。

 ジェリーヌはやはりわたしがサマンサと浮気をしていたことを知っていた。
 ジェリーヌのすぐそばにいた女と浮気をしていたことに気がついてもなおわたしを責めなかったのか……

 頭の中に浮かぶジェリーヌの笑顔……あれは幸せな笑顔だったのだろうか?もしかしたら、いや、もしかしなくても作り笑いだったのだろう。
 もうすぐ死ぬとわかっていて、わたしのことを責めることなく一人で全てを抱えて亡くなったのか……

 この手紙はどこからか見つけて……わたしへ送ったのだろう。こんなことする奴はサイロしかいない。

 あいつは常にブロアのためだけにしか動かない。宰相だとか公爵だとか、わたしの地位を恐れなかった。
 流石にクビになることだけは怖がっていたが、もしブロアが死にそうになれば自らの命すら投げ捨てていただろう。

 この手紙のメッセージは何だ?サイロは何故今頃になってこの手紙を送ってきたんだ?

 ジェリーヌは不治の病に罹り亡くなった。その頃の手紙………………まさか……?

 そんな……いくら遺伝とはいえ、最近は発病するものは少ないはずだ。それに、主治医は何の報告もしてこなかったはずだ……

 わたしはブロアの姿を思い出そうとした……なのに……覚えていなかった……

 何も見ていなかった。ただ、ただ、自分に逆らうブロアに腹を立てていた。
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