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15話 宰相閣下。
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「宰相閣下、お忙しい時にお時間を取っていただきありがとうございました」
執務室に入るとお父様は書類に目を通したまま顔を上げようとしない。周りにいる補佐官達がそんな姿を見て、どう声をかけようかと困っているようだ。
わたくしはそんな人達に向かって首を横に振った。
気にしないでくださいーーと微笑み無言で伝えた。
皆様気を遣ったのかしら?執務室から出て行った。
ーーふぅ、この部屋にお父様と二人なんて……気が重くなるわ。
執務室にある客用のソファに座ると、女性がお茶を出してくれた。
「ありがとうございます」ふわりと微笑みお礼を言った。
そして彼女も執務室から出て行った。
カップを持ちゆっくりと紅茶をいただく。
「美味しい」思わず声が出た。
爽やかな渋味のある紅茶、これは一体誰が淹れたのかしら?
紅茶は鮮度がとてもたいせつ、そしてカップとポットはあらかじめ湯通しすること、茶葉の量、蒸らす時間、お湯の温度などこだわらなければいけない。一杯の美味しい紅茶を淹れるのは難しい。
婚約破棄され屋敷に閉じこもるしかない日々、読書や刺繍しかやることがなかった。そんな中、紅茶の美味しさにハマってあの屋敷の中で一番紅茶を淹れるのが上手な侍女に淹れ方を習った。
茶葉にもいろんな種類があるし、どの地方で作られたものが美味しいとか、その年の気候で美味しい茶葉が違うとか、勉強すると楽しくなってきた。体にいいハーブティーのブレンドの仕方も習った。これは薬師の方に調合の仕方を習った。
おかげで引きこもり生活も楽しい読書をしながら美味しいお茶をいただく楽しい生活をさせてもらえた。
今日この紅茶を淹れた人もかなりの腕前なのだろう。さすが王城勤務の侍女さんだなぁと一人感心してお父様の手が止まるのを待った。
カリカリ、パサッ。
こんな音だけが部屋の中で聞こえる。
懐かしい音。悲しいかなわたくしもこの王宮で執務をしている時、朝から晩までこの音をさせていた。
トントン。
ーーあっ、何か考えているのね。
ガサガサ。
ーー書類を探しているのかしら?
ギィーッ。
ーー椅子が軋んでるのね。
体を動かしてるんだわ。
お父様を見なくてもなんとなくわかる。
どれくらいの間待っていたのだろう。カップに入っていた紅茶はとうの昔に空になっていた。先ほどの殿下との会話のせいなのか疲れてしまっていたようだ。
「ブロア何の用できたんだ?」
ウトウトしていたみたい。お父様の声にハッと我に返った。
「………あっ…」
話すことは一つしかない。だけどなんて切り出していいのかためらった。
眠りこけてしまって頭の中がまだボッーとしていた。
「話がないなら帰ってくれ」
冷たい言葉。わたくしの言葉を少しくらい待ってくれてもいいのに。
ーー悔しい。いつもそう。わたくしに興味のないこの人は感情のない目でわたくしを見るのだ。
「お話はありますわ」
誰にでも微笑み話をする。
公爵令嬢たる者、自分の感情は出さず常に冷静に。
ーーそう思わないと爆発しそうになる。
ま、微笑むなんて無理だけど。だからわたくしも冷たく言い返す。
「何度かお手紙をお送りしたのですがいくら待っても返事が来ないので……仕方なくこちらへ伺ったのですわ」
ーー何があってもお母様のネックレスを返してもらう。あれはわたくしが持ってこの国を出る、そしてお母様の故郷へと持って行く。
他に愛する人がいるくせに、お母様の大切なネックレスを持ったままいるなんて許せない。
お父様が贈ったというところはすっごく嫌だけど、お母様にとって大切ならそれはわたくしにとっても意味がある。だけどこの人には意味がない。
こんな奴にわたくしとお母様の約束を壊させない。
ーーお嫁さんにはなれなかったけど、わたくしがもらうわ。
手に力が入っていて無意識に自分の胸のあざのところに手を置いていた。痛むわけでもない。痣は少しこの前より大きくなっているだけ。
だけどこの痣がわたくしの体を蝕んで動けなくなる前に早くこの国を出なければ。
「手紙?なんのことだ」
ーー家令が手紙を止めてた?それとも執事?ううん、執事はそこまでわたくしに対して酷いことはしないわ。
「いえ、そうですか……では改めてお話しさせていただきますわ。宰相閣下、わたくしの結婚のお祝いにお母様がずっと身につけていたネックレスをいただきたいと思っていますの。幼い頃お母様がわたくしが結婚する時にくださると約束をしていたのです」
ーー誤魔化すよりもズバリ話したほうが早いわよね。この人との会話なんて望んでいないもの。
「ネックレス?ああ、そう言えばジェリーヌがそんなくだらないことを言っていたな」
ーーくだらない?……貴方にとってはそんなことかもしれないわ。だけどわたくしにとっては大切な思い出なの!
ーーーーーーー
すみません。微妙にわかりにくいのですが、作者の頭の中では………
ブロアはーー
19歳の頃、殿下と婚約破棄
20歳セフィルに恋をする。
21歳セフィルと婚約
婚約して半年くらいしてから結婚式の話が始まる。その頃体調が悪くなり、余命宣告される。
22歳現在 セフィルに婚約解消を求める。
残りの余命は……半年くらい?もしくはあと一年持つかな?
という感じです。
曖昧ですみません。
執務室に入るとお父様は書類に目を通したまま顔を上げようとしない。周りにいる補佐官達がそんな姿を見て、どう声をかけようかと困っているようだ。
わたくしはそんな人達に向かって首を横に振った。
気にしないでくださいーーと微笑み無言で伝えた。
皆様気を遣ったのかしら?執務室から出て行った。
ーーふぅ、この部屋にお父様と二人なんて……気が重くなるわ。
執務室にある客用のソファに座ると、女性がお茶を出してくれた。
「ありがとうございます」ふわりと微笑みお礼を言った。
そして彼女も執務室から出て行った。
カップを持ちゆっくりと紅茶をいただく。
「美味しい」思わず声が出た。
爽やかな渋味のある紅茶、これは一体誰が淹れたのかしら?
紅茶は鮮度がとてもたいせつ、そしてカップとポットはあらかじめ湯通しすること、茶葉の量、蒸らす時間、お湯の温度などこだわらなければいけない。一杯の美味しい紅茶を淹れるのは難しい。
婚約破棄され屋敷に閉じこもるしかない日々、読書や刺繍しかやることがなかった。そんな中、紅茶の美味しさにハマってあの屋敷の中で一番紅茶を淹れるのが上手な侍女に淹れ方を習った。
茶葉にもいろんな種類があるし、どの地方で作られたものが美味しいとか、その年の気候で美味しい茶葉が違うとか、勉強すると楽しくなってきた。体にいいハーブティーのブレンドの仕方も習った。これは薬師の方に調合の仕方を習った。
おかげで引きこもり生活も楽しい読書をしながら美味しいお茶をいただく楽しい生活をさせてもらえた。
今日この紅茶を淹れた人もかなりの腕前なのだろう。さすが王城勤務の侍女さんだなぁと一人感心してお父様の手が止まるのを待った。
カリカリ、パサッ。
こんな音だけが部屋の中で聞こえる。
懐かしい音。悲しいかなわたくしもこの王宮で執務をしている時、朝から晩までこの音をさせていた。
トントン。
ーーあっ、何か考えているのね。
ガサガサ。
ーー書類を探しているのかしら?
ギィーッ。
ーー椅子が軋んでるのね。
体を動かしてるんだわ。
お父様を見なくてもなんとなくわかる。
どれくらいの間待っていたのだろう。カップに入っていた紅茶はとうの昔に空になっていた。先ほどの殿下との会話のせいなのか疲れてしまっていたようだ。
「ブロア何の用できたんだ?」
ウトウトしていたみたい。お父様の声にハッと我に返った。
「………あっ…」
話すことは一つしかない。だけどなんて切り出していいのかためらった。
眠りこけてしまって頭の中がまだボッーとしていた。
「話がないなら帰ってくれ」
冷たい言葉。わたくしの言葉を少しくらい待ってくれてもいいのに。
ーー悔しい。いつもそう。わたくしに興味のないこの人は感情のない目でわたくしを見るのだ。
「お話はありますわ」
誰にでも微笑み話をする。
公爵令嬢たる者、自分の感情は出さず常に冷静に。
ーーそう思わないと爆発しそうになる。
ま、微笑むなんて無理だけど。だからわたくしも冷たく言い返す。
「何度かお手紙をお送りしたのですがいくら待っても返事が来ないので……仕方なくこちらへ伺ったのですわ」
ーー何があってもお母様のネックレスを返してもらう。あれはわたくしが持ってこの国を出る、そしてお母様の故郷へと持って行く。
他に愛する人がいるくせに、お母様の大切なネックレスを持ったままいるなんて許せない。
お父様が贈ったというところはすっごく嫌だけど、お母様にとって大切ならそれはわたくしにとっても意味がある。だけどこの人には意味がない。
こんな奴にわたくしとお母様の約束を壊させない。
ーーお嫁さんにはなれなかったけど、わたくしがもらうわ。
手に力が入っていて無意識に自分の胸のあざのところに手を置いていた。痛むわけでもない。痣は少しこの前より大きくなっているだけ。
だけどこの痣がわたくしの体を蝕んで動けなくなる前に早くこの国を出なければ。
「手紙?なんのことだ」
ーー家令が手紙を止めてた?それとも執事?ううん、執事はそこまでわたくしに対して酷いことはしないわ。
「いえ、そうですか……では改めてお話しさせていただきますわ。宰相閣下、わたくしの結婚のお祝いにお母様がずっと身につけていたネックレスをいただきたいと思っていますの。幼い頃お母様がわたくしが結婚する時にくださると約束をしていたのです」
ーー誤魔化すよりもズバリ話したほうが早いわよね。この人との会話なんて望んでいないもの。
「ネックレス?ああ、そう言えばジェリーヌがそんなくだらないことを言っていたな」
ーーくだらない?……貴方にとってはそんなことかもしれないわ。だけどわたくしにとっては大切な思い出なの!
ーーーーーーー
すみません。微妙にわかりにくいのですが、作者の頭の中では………
ブロアはーー
19歳の頃、殿下と婚約破棄
20歳セフィルに恋をする。
21歳セフィルと婚約
婚約して半年くらいしてから結婚式の話が始まる。その頃体調が悪くなり、余命宣告される。
22歳現在 セフィルに婚約解消を求める。
残りの余命は……半年くらい?もしくはあと一年持つかな?
という感じです。
曖昧ですみません。
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