【完結】さよならのかわりに

たろ

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1話  婚約解消

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「わたくし、もう貴方のこと飽きたみたいなの」

 セフィルが驚いた顔をした。

 ーーどうして?何故貴方が傷ついた顔をしているの?傷ついているのはわたくしなのに……

 わたくしの愛する彼はいつもわたくしではない人を見続けている。

 そう、それは……彼の幼馴染のリリアンナ様。

 リリアンナ様は伯爵令嬢。

 美しいブロンドの髪に青い瞳。とても美しい顔立ちで、見る者をつい振り向かせてしまう。

 そんなリリアンナ様の横にはいつも彼がいた。

 彼の名はセフィル・ブレイシャス。

 伯爵令息でプラチナブロンドの少しクセのある髪、翠色の瞳はとても綺麗で見つめられると吸い込まれてしまいそう。

 20歳ながらに騎士団の第一騎士団副団長の地位についている眉目秀麗で剣の腕も優秀な人。
 そしてわたくし、ブロア・シャトワ公爵令嬢の婚約者に一年前になった人。

 わたくしは22歳のいわゆる行き遅れの令嬢。

 一度は婚約していた身であるのだけど、訳あって婚約は解消された。その後、お父様は何度となく新しい婚約者を当てがおうとしたが、わたくしはそれを拒否してきた。

 だってどうせ誰にも愛されないのなら、いっそ一人で生きていた方がいいと思ったから。

 だけど20歳の時にセフィルに恋をしてしまった。

 突然の恋。一目惚れだった。



 そのあと、たまたまセフィルとの婚約の話が持ち上がった。彼が有能な騎士だったから我が公爵家の騎士団に欲しいとお父様が言い出したのだ。どうせなら婿として。

 「仕方がないからお受けするわ」とその気もないのに仕方なく受け入れたかのようにお父様には言ったけど本当は嬉しかった。

 だけどわたくしとセフィルには常に距離がある。
 会話も互いの気持ちも。いつも遠慮がちだった。

 どんなに気を遣い話しかけてもセフィルは曖昧に笑い返事をするだけだった。

 だけど………

「セフィル、騎士団のお仕事いつも大変ですわね?」

「僕にとって騎士団の仕事は幼い頃からの憧れでした。今も誇りを持って仕事をしております」

 騎士団の話を振ると嬉しそうに答えてくれることを知った。それが嬉しくてわたくしは騎士団のことを色々と調べて……そしてリリアンナ様のことを知った。

 わたくしのせいでセフィルは大切な幼馴染であるリリアンナ様との婚約を諦めたらしいと。それにもうすぐ王立騎士団を辞めて公爵家の騎士団に入ることになる。

 彼の夢も愛もわたくしが壊してしまう。

 セフィルより2歳年下のリリアンナ様とセフィルは幼馴染でずっと仲良く過ごされてきたらしい。噂ではリリアンナ様を守るために騎士になったとか……

『僕は大切な人を守りたくて騎士を目指したんだ』

 その話を聞いた時、わたくしがセフィルを愛してしまったたことは罪だったのだと改めて知った。

 今は愛がなくても婚約者になり結婚すればいつかは彼もわたくしを愛してくれるだろう。勝手にそんな理想を持ってしまった。

 一度婚約がダメになったわたくしなのに。

 恋って周りが目えなくなってしまうもの。

 わたくしは自分のことだけしか考えていなかったの。

 だから、わたくしは貴方に告げる。

「婚約解消しましょう」と。
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