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最終話
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「シェリーナ!」
毎日毎日シェリーナの部屋に朝になると起こしに行く。
侍女達からは「おやめになってあげてください」と嗜められてはいるが、そこは無視。
以前の真面目で無愛想だった俺はあの記憶を取り戻してから消えた。
今はシェリーナの夫だ。もちろん15歳の妻に不埒なことはしない。
せめて18歳になるまでは手は出さないと約束していた。
あと2年と数ヶ月の我慢だ。
それまでにシェリーナが俺を受け入れられなかったら離縁する約束も両親にさせられた。
エドウィン殿下がいつ横からシェリーナを掻っ攫いにくるかわからない今の状況。
俺はそれを理由に今のところ離縁はしないと言ってある。
あいつの執念は簡単に消えない。俺なんか忘れてしまっていたのにあいつはシェリーナを忘れていなかった。
俺のことだって憎んで殺したいくらいのことをされたのに、何もしてこようとしない。
もし俺があの腐りかけた遺体に捨て置かれれば、俺なら許さない。
それこそ生き返ってでも呪い殺す。いやギタギタに刻んで殺してやる。
なのに不気味なくらいエドウィン殿下は何も言ってこない。
側妃にするのを諦めた?あいつが?
マリアンナ殿下は俺がもうすでに結婚していると知って、数日間、宮殿で物を投げつけヒステリックに喚き散らしていたらしい。
王女なので侍女や護衛が押さえ込んで止めることもできない。体に物を投げつけられ、当たり散らされ、疲れ切った使用人達が何人も仕事を変わりたいと嘆いたと聞いている。
最近、父上が伝手を使い王宮内のことを調べてくれたのだが、エドウィン殿下は結婚前からいろんな令嬢達に手を出していたらしい。
そこにシェリーナを娶りたいと言い出し、頭を抱えた陛下が隣国の姫を娶らせることにした。
エドウィン殿下は陛下に従って婚姻さえして仕舞えばあとは好きにするつもりだった。遊んだ令嬢達は切るつもりだったのだろう。所詮は遊びだ。
しかし、数人の令嬢が殿下の子供を孕っていることがわかった。
馬鹿は避妊すらしない。
うち内でなんとか処理しようとしたが、それでも二人の令嬢は大きくなりすぎて堕すことができなかった。
姫と入籍する前に殿下そっくりの男の子をそれぞれの令嬢が産んでしまい、第一王子、第二王子が誕生してしまった。
この恥ずかしい、そして大問題でしかない事実を隠し、入籍した。
そして二人の令嬢を側妃として娶ることになる。
もうすぐ発表されるらしい。
側妃と共に二人の王子のことも。
やらかした王子。
今の状況でシェリーナに手を出すことは難しいだろう。
隣国との問題も山積みで、向こうの国はお怒りだろうし、正妃はこれからどうするだろう。
王宮内は荒れる。
マリアンナ殿下の評判もさらに落ち、彼女もまた嫁ぎ先を探すのは難しくなる。
俺は二人の報告を受けて思わずニヤッと笑った。
「ケイン、シェリーナがあんな馬鹿馬鹿しい王族の騒動に巻き込まれなくて良かった。しかし、シェリーナはまだお前に対して恋愛感情を持てていないようだ。シェリーナが学校を卒業するまでが期限だから。
とりあえず頑張れとしか言えないな」
「俺の長年の夢が叶ったんです。シェリーナを誰よりも愛しているのは俺です」
「……シェリーナも気の毒に。愛の重たい男に惚れられて……」
俺はシェリーナを領地には帰さなかった。王都で俺と同じ学校へ通わせた。
「シェリーナ、君は俺の妻だから、別々に暮らすことはできないだろう?」
「え?でも、あ、あの、わたし……王都はどうも苦手で…それに平民になる予定があって……」
「平民?それは無理だね?俺が爵位を譲り受けたら君は公爵夫人なんだよ?」
「ひっ…ひぃ……なんなんですか?いや、無理無理」
「昔は王妃として仕事をしていた優秀な君が今更?」
「ケイン様?いつも思うのですがそれは一体誰のことですか?」
キョトンとして俺に質問するシェリーナ。
君はジュリエットの記憶を取り戻すことがないのかもしれない。
それがシェリーナにとって一番いいことなんだろうな。
ベルナンドだった時の俺はいい加減で馬鹿だった。
ジュリエットがカリクシードを愛して彼だけを見つめている姿に嫉妬して、他の女と遊んで、ジュリエットが苦しんでいることも知らずにいた。
ジュリエットが結婚してどれだけ辛い思いをしてきたのか知ってからやっと素直になれた。
くだらないプライドなんか捨ててもっと早くに俺に気持ちを向かせる努力をすれば、ジュリエットの時にあんな辛い王妃として生きなくて良かったはずなのに。
俺なら。俺なら幸せにしたのに。
エドウィン殿下は俺と同じ。ジュリエットを愛する呪いにかかり、ジュリエットに似た女を侍らし、抱いた。そして子供が生まれた。馬鹿な男だ。
俺より先に記憶が戻ってジュリエットに似た女を探し回ったのだろう。
まさかジュリエットが領地で隠れ住んでいるとも知らずに。
カリクシードの魂がジュリエットを愛し、ジュリエッを求め、そしてジュリエットを失った。
シェリーナ、俺の愛する女。
ベルナンドの時の強引な性格がケインである俺より前へと出ようとする。その度にベルナンドを押さえ込んで俺はケインとしてシェリーナを愛する。
「ケイン様、お庭を散歩しませんか?」
たくさんのドレスや宝石、絵画や美術品よりも、庭に咲く可愛らしい花を愛でるシェリーナ。
「ノア、ダメよ?花壇の中に入らないで!」
必死でノアを捕まえようとするシェリーナ。ノアは我関せずと花壇の中に入り花の上に寝転ぶ。
「ケイン様!笑ってないでノアを叱ってくださいな」
「仕方ないよ。ノアもシェリーナが王都の屋敷にいてくれて嬉しいんだよ」
「ええっ?それと今のノアの行動は関係ないと思いますけど?」
「そうかな?ノアはシェリーナと散歩するのが楽しみらしい。もちろん俺もシェリーナとのんびり過ごす時間が一番幸せだ」
「わたしも今はケイン様とお散歩するのが楽しみになってます、よ?」
「………ほんとに?」
俺は思わずノアとシェリーナを抱きしめた。
終
毎日毎日シェリーナの部屋に朝になると起こしに行く。
侍女達からは「おやめになってあげてください」と嗜められてはいるが、そこは無視。
以前の真面目で無愛想だった俺はあの記憶を取り戻してから消えた。
今はシェリーナの夫だ。もちろん15歳の妻に不埒なことはしない。
せめて18歳になるまでは手は出さないと約束していた。
あと2年と数ヶ月の我慢だ。
それまでにシェリーナが俺を受け入れられなかったら離縁する約束も両親にさせられた。
エドウィン殿下がいつ横からシェリーナを掻っ攫いにくるかわからない今の状況。
俺はそれを理由に今のところ離縁はしないと言ってある。
あいつの執念は簡単に消えない。俺なんか忘れてしまっていたのにあいつはシェリーナを忘れていなかった。
俺のことだって憎んで殺したいくらいのことをされたのに、何もしてこようとしない。
もし俺があの腐りかけた遺体に捨て置かれれば、俺なら許さない。
それこそ生き返ってでも呪い殺す。いやギタギタに刻んで殺してやる。
なのに不気味なくらいエドウィン殿下は何も言ってこない。
側妃にするのを諦めた?あいつが?
マリアンナ殿下は俺がもうすでに結婚していると知って、数日間、宮殿で物を投げつけヒステリックに喚き散らしていたらしい。
王女なので侍女や護衛が押さえ込んで止めることもできない。体に物を投げつけられ、当たり散らされ、疲れ切った使用人達が何人も仕事を変わりたいと嘆いたと聞いている。
最近、父上が伝手を使い王宮内のことを調べてくれたのだが、エドウィン殿下は結婚前からいろんな令嬢達に手を出していたらしい。
そこにシェリーナを娶りたいと言い出し、頭を抱えた陛下が隣国の姫を娶らせることにした。
エドウィン殿下は陛下に従って婚姻さえして仕舞えばあとは好きにするつもりだった。遊んだ令嬢達は切るつもりだったのだろう。所詮は遊びだ。
しかし、数人の令嬢が殿下の子供を孕っていることがわかった。
馬鹿は避妊すらしない。
うち内でなんとか処理しようとしたが、それでも二人の令嬢は大きくなりすぎて堕すことができなかった。
姫と入籍する前に殿下そっくりの男の子をそれぞれの令嬢が産んでしまい、第一王子、第二王子が誕生してしまった。
この恥ずかしい、そして大問題でしかない事実を隠し、入籍した。
そして二人の令嬢を側妃として娶ることになる。
もうすぐ発表されるらしい。
側妃と共に二人の王子のことも。
やらかした王子。
今の状況でシェリーナに手を出すことは難しいだろう。
隣国との問題も山積みで、向こうの国はお怒りだろうし、正妃はこれからどうするだろう。
王宮内は荒れる。
マリアンナ殿下の評判もさらに落ち、彼女もまた嫁ぎ先を探すのは難しくなる。
俺は二人の報告を受けて思わずニヤッと笑った。
「ケイン、シェリーナがあんな馬鹿馬鹿しい王族の騒動に巻き込まれなくて良かった。しかし、シェリーナはまだお前に対して恋愛感情を持てていないようだ。シェリーナが学校を卒業するまでが期限だから。
とりあえず頑張れとしか言えないな」
「俺の長年の夢が叶ったんです。シェリーナを誰よりも愛しているのは俺です」
「……シェリーナも気の毒に。愛の重たい男に惚れられて……」
俺はシェリーナを領地には帰さなかった。王都で俺と同じ学校へ通わせた。
「シェリーナ、君は俺の妻だから、別々に暮らすことはできないだろう?」
「え?でも、あ、あの、わたし……王都はどうも苦手で…それに平民になる予定があって……」
「平民?それは無理だね?俺が爵位を譲り受けたら君は公爵夫人なんだよ?」
「ひっ…ひぃ……なんなんですか?いや、無理無理」
「昔は王妃として仕事をしていた優秀な君が今更?」
「ケイン様?いつも思うのですがそれは一体誰のことですか?」
キョトンとして俺に質問するシェリーナ。
君はジュリエットの記憶を取り戻すことがないのかもしれない。
それがシェリーナにとって一番いいことなんだろうな。
ベルナンドだった時の俺はいい加減で馬鹿だった。
ジュリエットがカリクシードを愛して彼だけを見つめている姿に嫉妬して、他の女と遊んで、ジュリエットが苦しんでいることも知らずにいた。
ジュリエットが結婚してどれだけ辛い思いをしてきたのか知ってからやっと素直になれた。
くだらないプライドなんか捨ててもっと早くに俺に気持ちを向かせる努力をすれば、ジュリエットの時にあんな辛い王妃として生きなくて良かったはずなのに。
俺なら。俺なら幸せにしたのに。
エドウィン殿下は俺と同じ。ジュリエットを愛する呪いにかかり、ジュリエットに似た女を侍らし、抱いた。そして子供が生まれた。馬鹿な男だ。
俺より先に記憶が戻ってジュリエットに似た女を探し回ったのだろう。
まさかジュリエットが領地で隠れ住んでいるとも知らずに。
カリクシードの魂がジュリエットを愛し、ジュリエッを求め、そしてジュリエットを失った。
シェリーナ、俺の愛する女。
ベルナンドの時の強引な性格がケインである俺より前へと出ようとする。その度にベルナンドを押さえ込んで俺はケインとしてシェリーナを愛する。
「ケイン様、お庭を散歩しませんか?」
たくさんのドレスや宝石、絵画や美術品よりも、庭に咲く可愛らしい花を愛でるシェリーナ。
「ノア、ダメよ?花壇の中に入らないで!」
必死でノアを捕まえようとするシェリーナ。ノアは我関せずと花壇の中に入り花の上に寝転ぶ。
「ケイン様!笑ってないでノアを叱ってくださいな」
「仕方ないよ。ノアもシェリーナが王都の屋敷にいてくれて嬉しいんだよ」
「ええっ?それと今のノアの行動は関係ないと思いますけど?」
「そうかな?ノアはシェリーナと散歩するのが楽しみらしい。もちろん俺もシェリーナとのんびり過ごす時間が一番幸せだ」
「わたしも今はケイン様とお散歩するのが楽しみになってます、よ?」
「………ほんとに?」
俺は思わずノアとシェリーナを抱きしめた。
終
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