3 / 55
謝ろうと思ったのに。
しおりを挟む
「セレン?」
お父様が心配して扉の外から声をかけてきた。
「セレン様?」
返事をしないでいるとずっと私に付いてくれているメイドのミルが声をかけてきた。
わたしは部屋から出ることが出来なかった。
「お父様もミルもお願いだから今日は一人にしてちょうだい」
声は涙声になっていた。
スティーブ様のあの冷たい目、酷い言葉。
エディ様にケーキ作りのお手伝いをさせたのはわたしが悪かった。確かに公爵令息様にさせるべきではなかった。
でも、でも、あんな言い方ってある?
悔しい、なんでスティーブ様にケーキを作ってあげようなんて馬鹿なことを考えたのだろう。
ーー婚約解消したい……
わたしは廊下に居たお父様にもう一度頼んでみた。
「やっぱりスティーブ様との婚約は絶対嫌です。お願いですから解消を申し出てください」
「だから……セレン。それは難しいと言っているだろう」
「あんな酷いこと言われても我慢しないといけないの?」
「何があったんだい?」
わたしは婚約解消の話をしてくれるならと、ずっと我慢してきたこと全てお父様に伝えた。
「わ、わたしの可愛いセレンに……」
ーーあ、これは泣き落としだわ。
「わたしスティーブ様にお会いするのが怖いの」
お父様に涙うるうるで見てからハンカチに顔を埋めた。
「うっ…ううっ………」
「お嬢様……」ミルがわたしの肩にそっと手を置いて優しく頭を撫でながら
「もう少し上手に泣かないと旦那様にバレていますよ」とこっそり言われた。
「えっ?」
ハンカチから顔を離すと、「ハア、演技をしたくなるくらい嫌なんだな。わかった一度公爵と話してみるよ」
「ほんとぉ?やったぁ!」
もうこれでスティーブ様のお顔を見なくて済むわ。
毎回会うたび会うたび、冷たい目で見られて冷たい言葉を言われて。
「わたし、今日は公爵家へは行かなくていいかしら?」
「とりあえずわたしが顔を出してこよう」
お父様が暗い顔をして帰ってきた。
「な、なんで?」
「仕方がない。向こうは婚約を解消しないと言うんだ」
「父上、それならしばらくセレンは精神的に参っているので公爵家に通うのだけでもやめさせてあげてください」
「お兄様……大好き!」
わたしは大好きなお兄様に抱きついた。
「わかった……もう一度話し合いをする。だが公爵夫人になるための勉強はここで続けることになると思う、わかっているのか?」
「………はい」
ーーとりあえずしばらくはスティーブ様の顔を見なくて済む。
後一年したらスティーブ様は学院に通い出す。
わたしは一年後の入学を回避するために王都学院ではなく我が領土の貴族学校へ通うつもりだ。
そうすれば13歳になるまでの3年間は会わないで済む。
お父様にどんな風に話そうか悩みながらも、なんとかお兄様を味方につけてスティーブ様との学院生活はしばらくの間だけでも回避するつもりだ。
そして、公爵家へ行かなくなった代わりに、公爵夫人が月に二回、我が伯爵家に顔を出して勉強を教えてくれることになった。
「セレン、ごめんなさいね。スティーブにはしっかりと怒ったのだけど、あの子はなかなか頑固で、素直になれないの。だけど反省はしているみたいなの」
「あの……わたしは伯爵家の娘です。わたしなんかよりスティーブ様にはもっと相応しい婚約者がいると思うのですが?」
わたしは何故『わたし』なんだろうと不思議で仕方がなかった。
思い切って聞いてみた。
「主人はね、とても可愛がっていた10歳年下の従妹がいたの。その従妹が病気で亡くなったの……セレン、貴女はあまりにも似ていたの……ごめんなさいね、主人は貴女をレテーシアに重ねているの。
だからどうしても貴女を自分の娘にと求めてしまっているの。それに……スティーブも貴女といる時は不思議なくらい話すの」
「あれは……話しているのではなく怒ったり嫌味を言ったりしているだけだと思うんだけど………」
夫人に聞こえないように小さく呟いた。
だけど聞こえていたみたいで
「ふふ、セレンからしたらそう感じてしまうわよね?だけどあの子はあまり感情を表に出さないの。
そんなスティーブが貴女といる時だけは怒ったりするのよ?
わたしは貴女に悪いと思いながらもスティーブの表情が変わることがとても嬉しいの」
少し寂しそうにしている夫人にこれ以上何も聞けなかった。
わたしはよくわからないけど、公爵家の人たちに選ばれて婚約者になったのだと感じた。
………………うん?逃げられないってことかしら?
◇ ◇ ◇
スティーブ様と会わなくなって半年。
もうすぐ彼は王立学院に入学する。
一度くらいそろそろ顔を出してみたらどうかとお父様に言われた。
ちょうどもうすぐ彼の誕生日なので、プレゼントを持って公爵家へ行くことになった。
選んだのは筆ペンとペンケース。
ーーま、無難な物にした。
一人で行きたくないと駄々をこねてお兄様について来てもらった。
お父様が心配して扉の外から声をかけてきた。
「セレン様?」
返事をしないでいるとずっと私に付いてくれているメイドのミルが声をかけてきた。
わたしは部屋から出ることが出来なかった。
「お父様もミルもお願いだから今日は一人にしてちょうだい」
声は涙声になっていた。
スティーブ様のあの冷たい目、酷い言葉。
エディ様にケーキ作りのお手伝いをさせたのはわたしが悪かった。確かに公爵令息様にさせるべきではなかった。
でも、でも、あんな言い方ってある?
悔しい、なんでスティーブ様にケーキを作ってあげようなんて馬鹿なことを考えたのだろう。
ーー婚約解消したい……
わたしは廊下に居たお父様にもう一度頼んでみた。
「やっぱりスティーブ様との婚約は絶対嫌です。お願いですから解消を申し出てください」
「だから……セレン。それは難しいと言っているだろう」
「あんな酷いこと言われても我慢しないといけないの?」
「何があったんだい?」
わたしは婚約解消の話をしてくれるならと、ずっと我慢してきたこと全てお父様に伝えた。
「わ、わたしの可愛いセレンに……」
ーーあ、これは泣き落としだわ。
「わたしスティーブ様にお会いするのが怖いの」
お父様に涙うるうるで見てからハンカチに顔を埋めた。
「うっ…ううっ………」
「お嬢様……」ミルがわたしの肩にそっと手を置いて優しく頭を撫でながら
「もう少し上手に泣かないと旦那様にバレていますよ」とこっそり言われた。
「えっ?」
ハンカチから顔を離すと、「ハア、演技をしたくなるくらい嫌なんだな。わかった一度公爵と話してみるよ」
「ほんとぉ?やったぁ!」
もうこれでスティーブ様のお顔を見なくて済むわ。
毎回会うたび会うたび、冷たい目で見られて冷たい言葉を言われて。
「わたし、今日は公爵家へは行かなくていいかしら?」
「とりあえずわたしが顔を出してこよう」
お父様が暗い顔をして帰ってきた。
「な、なんで?」
「仕方がない。向こうは婚約を解消しないと言うんだ」
「父上、それならしばらくセレンは精神的に参っているので公爵家に通うのだけでもやめさせてあげてください」
「お兄様……大好き!」
わたしは大好きなお兄様に抱きついた。
「わかった……もう一度話し合いをする。だが公爵夫人になるための勉強はここで続けることになると思う、わかっているのか?」
「………はい」
ーーとりあえずしばらくはスティーブ様の顔を見なくて済む。
後一年したらスティーブ様は学院に通い出す。
わたしは一年後の入学を回避するために王都学院ではなく我が領土の貴族学校へ通うつもりだ。
そうすれば13歳になるまでの3年間は会わないで済む。
お父様にどんな風に話そうか悩みながらも、なんとかお兄様を味方につけてスティーブ様との学院生活はしばらくの間だけでも回避するつもりだ。
そして、公爵家へ行かなくなった代わりに、公爵夫人が月に二回、我が伯爵家に顔を出して勉強を教えてくれることになった。
「セレン、ごめんなさいね。スティーブにはしっかりと怒ったのだけど、あの子はなかなか頑固で、素直になれないの。だけど反省はしているみたいなの」
「あの……わたしは伯爵家の娘です。わたしなんかよりスティーブ様にはもっと相応しい婚約者がいると思うのですが?」
わたしは何故『わたし』なんだろうと不思議で仕方がなかった。
思い切って聞いてみた。
「主人はね、とても可愛がっていた10歳年下の従妹がいたの。その従妹が病気で亡くなったの……セレン、貴女はあまりにも似ていたの……ごめんなさいね、主人は貴女をレテーシアに重ねているの。
だからどうしても貴女を自分の娘にと求めてしまっているの。それに……スティーブも貴女といる時は不思議なくらい話すの」
「あれは……話しているのではなく怒ったり嫌味を言ったりしているだけだと思うんだけど………」
夫人に聞こえないように小さく呟いた。
だけど聞こえていたみたいで
「ふふ、セレンからしたらそう感じてしまうわよね?だけどあの子はあまり感情を表に出さないの。
そんなスティーブが貴女といる時だけは怒ったりするのよ?
わたしは貴女に悪いと思いながらもスティーブの表情が変わることがとても嬉しいの」
少し寂しそうにしている夫人にこれ以上何も聞けなかった。
わたしはよくわからないけど、公爵家の人たちに選ばれて婚約者になったのだと感じた。
………………うん?逃げられないってことかしら?
◇ ◇ ◇
スティーブ様と会わなくなって半年。
もうすぐ彼は王立学院に入学する。
一度くらいそろそろ顔を出してみたらどうかとお父様に言われた。
ちょうどもうすぐ彼の誕生日なので、プレゼントを持って公爵家へ行くことになった。
選んだのは筆ペンとペンケース。
ーーま、無難な物にした。
一人で行きたくないと駄々をこねてお兄様について来てもらった。
67
お気に入りに追加
1,775
あなたにおすすめの小説
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
あなたと別れて、この子を生みました
キムラましゅろう
恋愛
約二年前、ジュリアは恋人だったクリスと別れた後、たった一人で息子のリューイを生んで育てていた。
クリスとは二度と会わないように生まれ育った王都を捨て地方でドリア屋を営んでいたジュリアだが、偶然にも最愛の息子リューイの父親であるクリスと再会してしまう。
自分にそっくりのリューイを見て、自分の息子ではないかというクリスにジュリアは言い放つ。
この子は私一人で生んだ私一人の子だと。
ジュリアとクリスの過去に何があったのか。
子は鎹となり得るのか。
完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。
⚠️ご注意⚠️
作者は元サヤハピエン主義です。
え?コイツと元サヤ……?と思われた方は回れ右をよろしくお願い申し上げます。
誤字脱字、最初に謝っておきます。
申し訳ございませぬ< (_"_) >ペコリ
小説家になろうさんにも時差投稿します。
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
元王妃は時間をさかのぼったため、今度は愛してもらえる様に、(殿下は論外)頑張るらしい。
あはははは
恋愛
本日わたくし、ユリア アーベントロートは、処刑されるそうです。
願わくは、来世は愛されて生きてみたいですね。
王妃になるために生まれ、王妃になるための血を吐くような教育にも耐えた、ユリアの真意はなんであっただろう。
わあああぁ 人々の歓声が上がる。そして王は言った。
「皆の者、悪女 ユリア アーベントロートは、処刑された!」
誰も知らない。知っていても誰も理解しない。しようとしない。彼女、ユリアの最後の言葉を。
「わたくしはただ、愛されたかっただけなのです。愛されたいと、思うことは、罪なのですか?愛されているのを見て、うらやましいと思うことは、いけないのですか?」
彼女が求めていたのは、権力でも地位でもなかった。彼女が本当に欲しかったのは、愛だった。
二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。
当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる