上 下
26 / 50

オリソン国⑦

しおりを挟む
 ギルのアドバイスを受けてなんとか謝罪したリヴィは、ミルヒーナの言葉に固まって動けなかった。

 小さく肩を震わせ俯いたままでいるとメルーが「とにかくこっちに座りなさい」と椅子を勧め座らせてチーズケーキと紅茶を二人に出した。

 ギルはそれを見てリヴィのショックを受けていることなど忘れて「早く食べよう!」と嬉しそうに食べ出した。

 ミルヒーナはチラリとリヴィを見たが何も言わずに紅茶を飲んでいた。

 ーーちょっときつかったかしら?

 謝ってくれたのに拒否してしまって内心少しだけ後悔していた。
 だけどずっと意地悪ばかりされて冷たい態度しかされていなかったのに、「ごめんなさい」だけで簡単に許せるものではなかった。

 ーーずっと傷ついてきたんだもの。
 特にリヴィの態度も傷ついたけど、リヴィの取り巻き達がリヴィとの仲の良さをアピールしてきてミルヒーナを馬鹿にするのは辛かった。

 自分でも嫌われているのはわかっていたのにさらに、
『あなたはこんなに嫌われているのよ!』
『わたしはこんなに好かれているの!』
 なんてことをパーティーやお茶会、街で会っても言われ続ければ嫌にもなる。

 さらにリヴィと取り巻き一緒に言われた日は心がポッキリと折れて何度布団に丸まって泣いたことか。

 それなのに簡単に許せるわけがない。

 ーーうん、わたしは悪くないわ。



 目の前に置かれたチーズケーキを横のギルは美味しそうに食べていた。

(俺は……謝れば許してもらえるなんて……馬鹿なこと考えなければよかった)

 この場にいるのも居た堪れないのに顔を上げれば斜め前にミルヒーナが座っている。

 だけどこれ以上どう言えばいいのかわからず俯くしかなかった。

 考えてみたら人生において人に謝ったことなど一度もなかった。常に人より上位に立っていて、負けたこともないしミルヒーナの前以外では品行方正で真面目に生きてきた。

(なんで一番大好きなミルにだけ……素直になれないんだ……くそっ、どうやれば仲直りできるのかすらわからない……ギルさんなんかの言うこと聞かなければよかった)

「リヴィ、あなたが今までしてきた事聞いているわ。口出したくはないけど……ミルがあなたを認めるか許すかはあなたのこれからの行動だと思うの。口で謝って済むものではないわ」

 メルーは二人のことを口出すつもりはなかった。だけど二人がこれから結婚するのにこのままでは上手くいくどころかさらに捻れてしまい、互いが辛い日々を送るのが目に見えている。

 愛し合って暮らせなくても、お互い少しだけでも尊重し合って暮らせればと余計なお節介をやくことにした。

 メルーの言葉にリヴィが顔を上げた。

「……俺の……行動?」

「そうよ。あなたのこれからの行動よ。ねっ?ミル?」

「………………信じられません」

 頑なに否定するミルヒーナの姿を見てリヴィは何も言えない。

 今までだったら「なんで無視するんだ!魔法も使えないくせに」とか「ミルのくせに!」とか馬鹿にして上から目線で話していた。

「ミル、ダメよ。あなたはもうすぐ16歳の成人になるの。リヴィもそうよ。二人とも結婚するのよ?たとえ……二人の中に愛がなくても、上手くやるのが大人なの」
 メルーは最後の言葉を強調した。

 ミルヒーナは「大人?」「上手くやる?」……口の中でぶつぶつと言って考え込んでいた。

 ーー目を逸らしていても2ヶ月後にはリヴィと結婚するのよね……表面上は上手くやらないとお母様が心配するわよね。ガトラだってわたしが悲しそうにしてたら心配してしまうわ。

(俺……ミルのこと好きなのに……仲良く暮らしたいのに……ミルに完全に嫌われてる……)

 二人の反応を見てメルーはため息をついた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

あなたと別れて、この子を生みました

キムラましゅろう
恋愛
約二年前、ジュリアは恋人だったクリスと別れた後、たった一人で息子のリューイを生んで育てていた。 クリスとは二度と会わないように生まれ育った王都を捨て地方でドリア屋を営んでいたジュリアだが、偶然にも最愛の息子リューイの父親であるクリスと再会してしまう。 自分にそっくりのリューイを見て、自分の息子ではないかというクリスにジュリアは言い放つ。 この子は私一人で生んだ私一人の子だと。 ジュリアとクリスの過去に何があったのか。 子は鎹となり得るのか。 完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。 ⚠️ご注意⚠️ 作者は元サヤハピエン主義です。 え?コイツと元サヤ……?と思われた方は回れ右をよろしくお願い申し上げます。 誤字脱字、最初に謝っておきます。 申し訳ございませぬ< (_"_) >ペコリ 小説家になろうさんにも時差投稿します。

私を裏切っていた夫から逃げた、ただそれだけ

キムラましゅろう
恋愛
住み慣れた街とも、夫とも遠く離れた土地でクララは時折思い出す。 知らず裏切られていた夫ウォレスと過ごした日々の事を。 愛しあっていたと思っていたのは自分だけだったのか。 彼はどうして妻である自分を裏切り、他の女性と暮らしていたのか。 「……考えても仕方ないわね」 だって、自分は逃げてきたのだから。 自分を裏切った夫の言葉を聞きたくなくて、どうしようも無い現実から逃げたのだから。 医療魔術師として各地を点々とするクララはとある噂を耳にする。 夫ウォレスが血眼になって自分を探しているという事を。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 ●ご注意 作者はモトサヤハピエン作家です。どんなヒーローが相手でもいつも無理やりモトサヤに持っていきます。 アンチモトサヤの方はそっ閉じをおすすめ致します。 所々に誤字脱字がトラップのように点在すると思われます。 そこのところをご了承のうえ、お読みくださいませ。 小説家になろうさんにも時差投稿いたします。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので 結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中

処理中です...