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オリソン国⑤

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「ギルはリヴィのことを一応心配してるみたいだな」

「当たり前だよ、リヴィって見かけはいいところの坊ちゃんでそれなりに見目は良いみたいだけど、なんかイアン様に似てる空気感があるんだ」

「俺とリヴィが?高貴なところか?」
 イアンが鼻で笑った。

「イアン様は元は王子様だったから確かに高貴なお方だけど、リヴィはそこまでの爵位ではないじゃん」

(ギルにはなんとなく言われたくない………)
 リヴィは黙ったまま聞いていた。

「うーん、多分素直じゃないところとかヘタレなところかな。あっ、イーサン様も変わらないか。あはははは」

「……………ウルサイ……」
 小さな声で呟くイアン。

 それを横目で見ながらリヴィは顔を顰めた。
(俺がヘタレ?ヘタレって何?)

 意味がわからず黙っているリヴィにギルがにこりと笑った。

「あっ!ヘタレって何かわからない?それはイアン様やイーサン様のように好きなのに素直な態度が取れず拗らせて好きな人に何も言えない男のことなんだ、まっ、簡単に言えば臆病で情けない性格のことかな」

「ぶはっ」
 イアンは飲んでいたお茶を吹き出した。

「お前、それはないだろう?俺はオリエに好きだと言った……ただ振られただけで」


 リヴィはカイにイアンとオリエの結婚までのエピソードを簡単に聞いてはいた。
 二人は結婚していたこと、一度離縁していること。王太子をおりてアルク国で暮らし再びオリエと出会い諦めきれずオリエに告白して振られた。それでもまだずっと好きだったらしいと。そして、やっと二人が結ばれた話だ。

 イーサンとカトリーヌの話を聞いた時もかなりイーサンが歪んでいたと思ったが、どちらも男がヘタレなのだとギルの言葉を聞いて納得した。

 そしてそれは自分もなのか?ギルの言葉に不意に自分がミルヒーナにしてきた態度のことを考えた。

 思い出せばミルヒーナを傷つけることしかやっていない。好きすぎて素直になれずミルヒーナの気を引きたくて酷い態度と言葉しか言ってない。

 あれって……嫌われることはあっても好かれることはない……自覚すればするほどギルの言葉が胸に刺さる。

「で、リヴィはこんなところに隠れてミルを見守ってるけど、それってある意味気持ち悪い男だと思わないの?」

「………気持ち悪い……?ミルが心配で見守るのが……?」

「相手にちゃんと言葉と態度で示さないと気持ちは伝わらないと思う」

「あーーー、リヴィ、ギルはアンに毎日振られ続けながらも告白しまくった男だからな。ただ、その告白が最初は本人には全く伝わらない言い方だったけど。
『話聞いてくれてありがとう、だから好きなんだ』とか『アンの好きなもの買ってきたよ、俺も好きなんだ』だったよね?アンに毎日好きな子の相談もしていたんだろう?本人のことを!全く伝わらなかったと聞いてるぞ」

「だってアンは他の男を好きだと思ってたから……だけどそれでも俺は最後まで諦めなかった。その後は毎日『好きだ』『結婚しよう』って告白し続けたぜ、俺は諦めなかった。アンはこのままでは実家の借金のせいで嫁ぐことになってたから、俺がなんとかしないといけないと思ったんだ」

「卒業式の時にこいつ公開告白をしたんだ」

「えっ?そうなんですか?」
 リヴィが目を丸くしていると、ギルが胸を張って言った。

「俺の中で諦めるなんて言葉はない。みんななんで素直に好きだと言わないの?ダメでも押しまくればいつか俺みたいに両思いにだってなれるかもしれないのに」

「…………俺、心臓に毛が生えていない……」

 リヴィが遠い目をしてボソッと呟いた。

 この国に来て貴族でありながら自由に生き生きと生活する人たちに出会い、羨ましいと何度も感じた。

 ウェルシヤ国が悪い国だとは思っていない。ただ魔法が使えることもあり独自の発展をしてきたため、考え方が少し偏ってしまっている。

 魔力の強い者、魔法が優秀な者、魔道具の開発が優れた者、魔法石の採れる鉱山を持つ者が優位に暮らすことができる。

 特に高位貴族は優秀な魔法使いが多く、どうしても貴族中心の考え方になってしまう。
 最近は王立学園で学ぶ生徒達は、外交に力を入れるためにと魔法以外の優秀な者を教育して育てているがそれも、頭脳明晰な者だけで、普通の平民に対してはあまり目を向けられていない。

 オリソン国は一度国が衰退して新しい王がこの国を発展させた。平民、貴族関係なくたくさんの優秀な者達を雇用して国の経済は上向けで勢いのある国になった。他国を抑え発言力も強まっている。

(ミルを守りたい。今度こそ態度を改めて昔のように素直になりたい)

 そう思ってオリソン国に来たのに、来てみれば守る必要などないくらい強いカイがミルヒーナを守ってくれていた。

 そして周りにはイアンやイーサンという他国の元王太子やオリエやカトリーヌなどこの国の貴族夫人として名高い者達がミルヒーナのそばにいて守ってくていた。

 それもリヴィが忘れていたあのミルヒーナの楽しそうな笑顔がこの国で見られるのだ。自分には決して向けてもらえない笑顔が。

(俺って……必要ない……のかな……)

 だからと言ってすごすごと国に帰ることも出来ず、ギルの家で頼まれた仕事をこなしていた。

 その姿に対してギルがリヴィにお説教を始めたのだった。

「俺は……ギルさんとは違うんで……」

「政略結婚まであと2ヶ月だったよね?このままじゃお互い幸せな結婚生活できないと思うよ」

「………わかってます……でも本人の前でどうしても素直な態度になれなくて……せめて今までの態度を謝りたいのに……まともに会話すらできないんです」

「だから、会いに行きなよ、今から行く?行こう!ついて行ってやるよ」

「………行くなら一人で行きます……」

「えっ?なんで?ついて行ってやるよ!こんな楽しそうなことあんまりないから。リヴィのそのこましゃくれた態度がミルの前でどうなるのか見るのも楽しみだし、何かあったら助けてやらないといけないじゃん」

「お前、それ面白がってるだけだろう?」
 流石にイアンは呆れて「やめなさい」と諭した。

「違うよ!俺一人っ子だったからリヴィのこと弟みたいに可愛いんだ。だからこいつの捻くれた初恋を叶えて結婚させてやりたいんだ」

「うん、やめておけ。お前が二人の間に入ったらさらに問題が大きくなりそうな気しかしない」

「ギル!話は聞いていたわよ!」
 突然三人の背後から声が聞こえた。

「うわっ、オリエ様……どうしてここにいるんですか?」
 ギルが一瞬にしてシュンと大人しくなった。

「リヴィ、ごめんなさい。イアンもしっかりギルを叱ってちょうだい。この子すぐに調子に乗るんだから!」

「俺?俺はギルのように恥ずかしいことはできないけど、リヴィはそれくらいの勢いがあってもいいかもなと思ってたんだ」

(やっぱりイアン様もギルさんの行動恥ずかしいと思ってたんだ……俺は絶対できない。人前で告白なんて……だけど、一度ちゃんとミルと話をしたい。言い合いにならないで話をしたい………)

 リヴィはこの勢いでミルヒーナに会いに行くことにした。このまま見守っていたって気持ちは伝わらない。

 まずは謝罪から……(よしっ!素直に謝ろう)







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