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行きたくない!

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 婚約して初めてのパーティーにリヴィと参加するようにとマックに言われ、朝から全身のお手入れでもう疲れ切っていたミルヒーナは……

「今日のパーティーは腹痛で無理だと断れないかしら?」

 メイドのリラは幼い頃からミルヒーナ付きで心許せるメイド。少しくらいなら我儘を言っても聞き入れてくれる。

「お嬢様……本日のパーティーはリヴィ様と婚約をして初めてのお披露目の日になります。仲睦まじい姿を周りに見せることが重要となる日です」

 ーー仲良くないのに?政略結婚になるのよ?別にいいじゃない。

 事業が動き出して大金が動いている。そんな状況の中、簡単には婚約解消をしたいともう言えなくなってしまった。

 この事業が失敗すればかなりの損失が出て伯爵家の面子を保つことができなくなる。

 それだけではなく財政難になれば領民達にも重い税金を負担してもらうことになるかもしれない。

 リヴィのことは本当に、本当に、とっても嫌だし、夫婦としてやっていく自信なんてない。
 でも事業計画書を見せてもらい、実際使った大金の額を知って仕舞えば、簡単に解消はできないのだと思ってしまった。

 互いの領地の農作物や工芸品などを外国にも売り出そうと始めた今回の事業。さらに我が家の鉱山から最近見つかった魔法石。

 良質で加工しやすく、これを一大産業にしたいと、大きな工房も建てた。リヴィの領地から職人達に指導してもらい、魔道具を作ったり魔法石の加工なども始めた。

 リヴィのことは嫌だけど、リヴィの両親は大好きだ。それに事業計画を見て自分も参加したい気持ちがうずうずと湧いてきた。

「お父様、わたくし、リヴィの領地へ行ってみたいわ。工房の見学をしてみたいの。新しい提案もできるかもしれないわ。おじさん達の発想より若い女の子の発想の方が売れる物を考え出せるかもしれないと思わない?」

 今は学校へ通いながら、放課後は図書館にも通って、魔道具について調べ物をしている。
 街歩きをしては今流行りの物や女の子達のアクセサリーや小物を見て回っている。

 おかげでいつも寝不足。それにリヴィとパーティーに出れば彼の取り巻きにまた嫌がらせをされるかもしれない。

 ーー行きたくない。面倒くさい。


「お父様はまだいらっしゃるかしら?」

「はい、今日は昼から帰ってきて執務室でお仕事をすると仰っておりました」

「わかったわ、行ってお話ししてくるわ」

 行きたくない……そう思うと気が重くなってくる。

「お父様、お話があります」

「うん?なんだい?」

「わたくし、今日のパーティーはお休みいたします。リヴィならわたくしがいなくてもいくらでもパートナーはいます。わたくしは行きたくなさ過ぎて、お腹が痛いし、やっぱり無理です」

「うーん、行かなくていいよと言ってあげたいんだけど、今夜のパーティーは高位貴族の集まりなんだ。二人の婚約を周囲に知らせておくことも大事なんだ」

「でも………お父様はいいのですか?わたくしがこの屋敷から離れてしまうのですよ?わたくしはお父様とお母様とガトラとずっとこの屋敷で仲良く暮らすのが夢だったのに……わたくし、頑張って事業の手助けいたしますわ、だから……」

 簡単に婚約解消出来ないのなら、事業を軌道に乗せて仕舞えばいいのよ!共同経営だからと言って別に結婚なんてする必要はないはずよ。大体貴族のしがらみか知らないけど、互いの利益のために結婚させるなんて今どきじゃないわ!

「ミル、15歳の君に何ができると言うんだ?わたしはね、ミルに幸せになってもらいたい。確かにリヴィは少し発言に問題があるのは聞いている。ミルが嫌な思いをしているのも聞いたよ。でもあんなに仲が良かったんだ。もう少し歩み寄ってみて、本当に無理なら婚約解消も視野に入れるよ」

「……わかりましたわ、パーティーに行きます」
 ミルヒーナは諦めてパーティーの支度をすることにした。




 実はマックはミルヒーナから『婚約は嫌だ』とあまりにも訴えられて二人の関係を調べてみた。
 思った以上にリヴィは完全に拗らせていた。

「リヴィ、君はミルを大切にする、守るとわたしに何度も言ってきた。わたしは君のことも幼い頃から知っているし息子のように可愛い。
 それに君は魔法も優秀でこの先将来も有望だ。ミルは魔法が使えない。だから君とのことは考えていなかった。君は同じ魔法が得意な人と婚約するだろうと思っていたからね」
 マックはリヴィが青ざめたのを見てため息が出た。

「あの子にはあの子を大切にして守ってくれる人が必要なんだ……魔法が使えないミルはずっと辛い思いをしてきた……その原因の一人が君だったとは」

 リヴィは俯き唇をかみしめてしばらく黙ったままだった。

「……………すみません……傷つけたいわけではないんです。好きなんです……なのに……素直になれなくて……他のどうでもいい女の子の前では笑顔で優しく話せるのに……ミルの前では、何を話そう、どうしようと考え過ぎて……口を開けば意地悪を言ってしまうんです……嫌われたくない、傷つけたくないのに」

「はあー、リヴィ、ミルは完全に君のことを嫌がっているよ」

「わかってます」

「……わたしが無理やり婚約させられるのは頑張っても一年かな……共同事業が軌道に乗れば、政略結婚なんて言い訳は出来なくなるからね」

「一年………ミルを諦めたくない。一緒に笑ったり仲良く話したり、元に戻りたい。頑張るのでもう少しだけ……チャンスをください、お願いします」

「まずはミルに謝ることだと思うよ。ミルは君に会うことすら嫌がっている。今度パーティーに出席するようにミルに言っておくから、そこで君の態度がどう変わるか見させてもらうよ」


「……はい」



 マックはミルヒーナが執務室を暗い顔をして出ていくのを見てまた大きな溜息をついた。

「婚約してからミルは明らかに笑顔がなくなった……はあー、一年待たずに婚約解消をこちらから言うしかないか……リヴィにならミルを任せられると思ったんだが……ミルが良質な魔力持ちだと誰かが知って仕舞えば悪用されるかもしれない。あの子を一生守り続けてくれる強い力が必要なんだ……リヴィがミルを愛してくれるならと思ったが……何か他の方法を考えるしかないか……領地にずっとミルを閉じ込めて一生を送るなんて可哀想だし」

 ミルヒーナが将来領地の別荘の離れで暮らしたいと計画しているとは知らないマック。
 ミルヒーナが魔法を使えることも知らない。しかし、ミルヒーナの膨大な魔力、それもとても良質で魔力の少ない魔法使いからは喉が出るほど欲する力。
 もし知られればミルヒーナは危険に遭うかもしれない。だからこそ魔法学校を辞めさせて領地で過ごさせた。

 流石に14歳になり社交界デビューさせなければいけなくなり王都に戻したが、本人も魔法学校より王立学園への転入を希望したので、マックとしてはホッとしていた。

 あとはミルヒーナの結婚だった。だからこそ、何度となくお見合いをさせてミルヒーナを大切にしてくれる人を探していたのだ。
 紙面ではわからない。ミルヒーナと会わせて決めようと思った。だがなかなかいい人がいなかった。

 そんな時リヴィが名乗りをあげた。彼なら、そう思った。まさかミルとこんなに仲が悪いと思わず勝手に婚約を決めて先走ってしまったマックは、後悔しながらもリヴィにチャンスを与えた。

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