104 / 109
新しい恋。
番外編 リリアンナの後悔②
しおりを挟む
怖い、恐い、こわいの。
目を瞑ればわたしを恨んで事故で死んだ人たちが恨みを言ってくる。
わたしの心は蝕んでいった。
「リリアンナ……お前を処刑出来ないのは仕方がない。王族を処刑することはできないのが我が国の法律だ。その代わりお前は永久に北の塔で過ごすことになる」
陛下であるお兄様が冷たい目を向けてそう言った。
北の塔……一番古くて冬になるとあまりの寒さに凍死してしまうこともあると聞いたことがある。
逆に夏は暑すぎて脱水を起こし生きることが辛く死にたくなると聞いた。
ーーでもそこに行けばこの罪悪感から少しは解放されるのかしら?
わたしは自殺防止の為、口に猿ぐつわをされたまま過ごすことになる。
首吊りも出来ないように紐を引っ掛けるような場所はない。
あるのは眠るためのマットと毛布だけ。
窓すらない部屋。
食事をする時だけ猿ぐつわを外される。
監視される中、食欲のないわたしは少しのスープを飲んで後は返却する。
「王女様にはこんな飯じゃ気に入らないんだろうな」
看守の一人が呆れたように吐き捨てた。
ーー違う。自分のしたことへの罪悪感から全く食事が喉を通らないだけ……
なのに猿ぐつわの所為で話すことすらできない。
わたしは生かされるだけの、モノでしかない。
そんなある日、突然目の前にカイお兄様が現れた。
「リリアンナ、猿ぐつわを外そう」
そう言って優しい温かい手がわたしの顔に近づいて来た。
なのにわたしはビクッとして体が震えた。
ここに来てからは看守がわたしの猿ぐつわを乱暴に嵌めたりは外したりするのが当たり前になっていた。
一言「人殺し」だの「何故まだ死なないんだ」と吐き捨てられることもあった。
「リリアンナ、少しは反省したか?」
優しく声をかけるカイお兄様。
わたしは頷いて良いのか迷った。
反省しているか?反省なんてものではない。どうせなら死んでしまいたい。たくさんの命をわたしの我儘で奪ってしまった。
そんな言葉では言い表せない。
「なあ、リリアンナ……お前の我儘から確かに始まった列車事故だ。だがなあれは、元々起こることになっていたらしい」
「……?」
わたしは驚いてカイお兄様を見た。もう数ヶ月声を出していないので声は微かにしか出ない。
食欲も無くなっていたので骨と皮になって体も動かない。
「最近調べてわかったんだが、うちの国は俺と弟が前国王を倒して新しく国を作っただろう?前国王を支持する者はまだ完全に排除仕切れていない。そいつらが列車事故を起こす予定にしていたんだ。たまたまその列車にバズールとライナが乗ることになっていた。お前はライナを呪っていただろう?それに便乗してお前が全て命令したように見せかけて事故を起こしたんだ」
「え?」
「事故を起こした犯人と術者は同じ仲間だ、そしてお前の周りにいた取り巻きの数人は前国王の支持者の中の息子達だったんだ」
「そんな…」
「お前は確かにバズールを欲しいあまりライナに酷いことをしようとした。それは許されることではない。だがな、お前が列車事故を起こそうと企てたわけではない。犯人達は別にいたんだ」
カイお兄様は辛そうな顔をしてわたしの頬をそっと触った。
「辛い思いをさせた。陛下には許可を得ている。ここから出よう」
わたしは首を横に振った。
「どうした?ここから出たいだろう?」
もう一度首を横に振る。
少しずつ必死で声を出した。
「わ……た……し…が……わ……る……い………の…………つみ……つぐ…な……い……ます」
「すまない……お前はずっと王女として生きて来た。だけどお前は乳母や侍女に育てられた。家族の誰もがお前を顧みようとしなかった。嫁に叱られた……平民になって俺は好きに生きて来た。王族としての権利を放棄してお前とも関わろうとしなかった。
悪いのはお前だけじゃない、俺も弟である陛下もお前を甘やかして怒ることもなければ、お前と向き合うこともしなかった」
ーー違う、わたしが悪い。王女だからどんなことでも叶うと思っていた。わたしは何をしても許される存在なのだと驕り高ぶっていた。
わたしは何度も何度も首を横に振る。
ーーカイお兄様……そんな顔をさせてごめんなさい。わたしのために必死で動いてくれたんですよね?
服はボロボロになって髪もボサボサ、わたしをなんとか助けたくて必死で真実を見つけてくれたんだろう。
わたしが捕まる前に「列車事故だけは指示していない」と言ったから。
その気持ちだけでわたしはもう十分嬉しい。
ああ、頭がふらふらする。
もういいのかな?
生きていなくて……
目を瞑ればわたしを恨んで事故で死んだ人たちが恨みを言ってくる。
わたしの心は蝕んでいった。
「リリアンナ……お前を処刑出来ないのは仕方がない。王族を処刑することはできないのが我が国の法律だ。その代わりお前は永久に北の塔で過ごすことになる」
陛下であるお兄様が冷たい目を向けてそう言った。
北の塔……一番古くて冬になるとあまりの寒さに凍死してしまうこともあると聞いたことがある。
逆に夏は暑すぎて脱水を起こし生きることが辛く死にたくなると聞いた。
ーーでもそこに行けばこの罪悪感から少しは解放されるのかしら?
わたしは自殺防止の為、口に猿ぐつわをされたまま過ごすことになる。
首吊りも出来ないように紐を引っ掛けるような場所はない。
あるのは眠るためのマットと毛布だけ。
窓すらない部屋。
食事をする時だけ猿ぐつわを外される。
監視される中、食欲のないわたしは少しのスープを飲んで後は返却する。
「王女様にはこんな飯じゃ気に入らないんだろうな」
看守の一人が呆れたように吐き捨てた。
ーー違う。自分のしたことへの罪悪感から全く食事が喉を通らないだけ……
なのに猿ぐつわの所為で話すことすらできない。
わたしは生かされるだけの、モノでしかない。
そんなある日、突然目の前にカイお兄様が現れた。
「リリアンナ、猿ぐつわを外そう」
そう言って優しい温かい手がわたしの顔に近づいて来た。
なのにわたしはビクッとして体が震えた。
ここに来てからは看守がわたしの猿ぐつわを乱暴に嵌めたりは外したりするのが当たり前になっていた。
一言「人殺し」だの「何故まだ死なないんだ」と吐き捨てられることもあった。
「リリアンナ、少しは反省したか?」
優しく声をかけるカイお兄様。
わたしは頷いて良いのか迷った。
反省しているか?反省なんてものではない。どうせなら死んでしまいたい。たくさんの命をわたしの我儘で奪ってしまった。
そんな言葉では言い表せない。
「なあ、リリアンナ……お前の我儘から確かに始まった列車事故だ。だがなあれは、元々起こることになっていたらしい」
「……?」
わたしは驚いてカイお兄様を見た。もう数ヶ月声を出していないので声は微かにしか出ない。
食欲も無くなっていたので骨と皮になって体も動かない。
「最近調べてわかったんだが、うちの国は俺と弟が前国王を倒して新しく国を作っただろう?前国王を支持する者はまだ完全に排除仕切れていない。そいつらが列車事故を起こす予定にしていたんだ。たまたまその列車にバズールとライナが乗ることになっていた。お前はライナを呪っていただろう?それに便乗してお前が全て命令したように見せかけて事故を起こしたんだ」
「え?」
「事故を起こした犯人と術者は同じ仲間だ、そしてお前の周りにいた取り巻きの数人は前国王の支持者の中の息子達だったんだ」
「そんな…」
「お前は確かにバズールを欲しいあまりライナに酷いことをしようとした。それは許されることではない。だがな、お前が列車事故を起こそうと企てたわけではない。犯人達は別にいたんだ」
カイお兄様は辛そうな顔をしてわたしの頬をそっと触った。
「辛い思いをさせた。陛下には許可を得ている。ここから出よう」
わたしは首を横に振った。
「どうした?ここから出たいだろう?」
もう一度首を横に振る。
少しずつ必死で声を出した。
「わ……た……し…が……わ……る……い………の…………つみ……つぐ…な……い……ます」
「すまない……お前はずっと王女として生きて来た。だけどお前は乳母や侍女に育てられた。家族の誰もがお前を顧みようとしなかった。嫁に叱られた……平民になって俺は好きに生きて来た。王族としての権利を放棄してお前とも関わろうとしなかった。
悪いのはお前だけじゃない、俺も弟である陛下もお前を甘やかして怒ることもなければ、お前と向き合うこともしなかった」
ーー違う、わたしが悪い。王女だからどんなことでも叶うと思っていた。わたしは何をしても許される存在なのだと驕り高ぶっていた。
わたしは何度も何度も首を横に振る。
ーーカイお兄様……そんな顔をさせてごめんなさい。わたしのために必死で動いてくれたんですよね?
服はボロボロになって髪もボサボサ、わたしをなんとか助けたくて必死で真実を見つけてくれたんだろう。
わたしが捕まる前に「列車事故だけは指示していない」と言ったから。
その気持ちだけでわたしはもう十分嬉しい。
ああ、頭がふらふらする。
もういいのかな?
生きていなくて……
86
お気に入りに追加
8,230
あなたにおすすめの小説
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
最後の夜
ざっく
恋愛
明日、離縁される。
もう、一年前から決まっていたこと。
最後に一人で酒盛りしていたシルヴィーは、夫が隣に部屋に戻ってきていることに気が付いた。最後なのに、顔も見せない夫に腹が立って、シルヴィーは文句を言うために、初めて夫の部屋のドアをノックした。
悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜
ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……?
※残酷な描写あり
⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。
ムーンライトノベルズ からの転載です。
壁の花令嬢の最高の結婚
晴 菜葉
恋愛
壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。
社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。
ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。
アメリアは自棄になって家出を決行する。
行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。
そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。
助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。
乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。
「俺が出来ることなら何だってする」
そこでアメリアは考える。
暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。
「では、私と契約結婚してください」
R18には※をしています。
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる