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さんじゅうさん
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「シエル、今回のことは訴えないからもうわたしの前に二度と現れないで」
わたしの言葉はとても冷たい言い方なのだと思う。それでも、もうさっきみたいなことはいやだ。
好きでもない人に襲われるのは気持ちが悪いし怖い。
シエルのことを気持ち悪いなんて思うなんて……
「ライナ、本当にもうダメなのか?」
ソファに座り項垂れていたシエルが顔を上げてわたしに懇願した。
ーーこの人はまだ言っているの?
わたしの体はまだ小刻みに震えていた。
シエルはそのことにすら気がつかない。
「あんな事をしておいて何を言っているの?わたしがどんなに怖かったか分かる?」
「こ、怖い?嘘……だろ?」
驚いた顔でわたしを見るシエル、彼には私がそんなふうに思うなんて信じられないようだ。
「嘘ではないわ、シエル。わたしは貴方への愛情はもうないの。何度も言っているでしょう?」
「そんな……」
わたしは彼の辛そうな顔を見て胸が痛くなりそうになりながらもぐっと飲み込んだ。
「シエル、さようなら」
わたしは婚約解消の書類を握りしめてお父様達を置いてシエルに振り向く事なく部屋を出て行った。
「ライナ、待って!話をしよう」
わたしの背中に彼の声が聞こえる。
でももうわたしは振り返ることはしない。
一度でも振り返れば、空になったはずのシエルへの想いがどこからか溢れてきてしまうかもしれない。
だから絶対に振り返らない。
部屋に帰ると、わたしはシエルに無理やり引っ張られたドレスの裾の破れを見つけ、脱ぎ捨てた。
下着姿になり、鏡を自分を写した。
髪が少し乱れている。
顔もなんだか落ち込んで疲れて見える。
ーー本当にシエルと終わってしまった。
寂しい?
ーーうん、本当は辛い。
悲しい?
ーー泣きそうなくらい胸が痛い。
泣きたい?
ーーもう泣いていいのかな?
ベッドに顔を伏せて泣いた。
涙が溢れて止まらない。
声を出して泣いた。
「うっ……うわぁ……あっ………」
子供のように泣いた。
好きだった、愛していたわ。
心は空っぽになったはずなのに、自分が決めたことなのに。
自分が選んだくせになんて狡いんだろう、今更こんなに後悔して泣くなんて……
コンコン。
扉を叩く音が聞こえた。
鍵はかけてある、誰も入ってこれない。
コンコン。
返事をしないのにしつこい!
「……誰?」
「俺………」
小さな声だけどこの声の主は分かる。
「バズール、今は一人にして!」
扉に向かって泣きながら叫んだ。
「……ライナ……さっきは助けてあげられなくてごめん……泣かないで」
ーー泣いているのがわかってるんだったら声なんて掛けないで!一人にして欲しいのに……
返事をしないわたしにバズールは………
「ライナ、シエルは帰ったよ。もうライナを苦しめる人はいない」
「………お願い、今は誰とも話したくないの」
「うん、わかってる……様子が気になって………また会いにくるよ」
バズールはそう言うと帰って行った。
「はあ……バズールは心配してくれたのに……わたしって最低だね」
でも今は会いたくなかった。優しい言葉も同情も要らない。
もう外は暗くなった。
窓の外をボッーと見ると、わたしの部屋を見上げて立っている人がいた。
ーー誰?
目を凝らして見ると、シエルがわたしの部屋を見ていた。
ーー帰ったと思ったのに……
どんな気持ちで立っているのかしら?
わたしの姿が見えているかもしれない。
慌てて窓から離れた。
すると、下から大きな声が聞こえた。
「ライナ、ごめん。もう二度と君を傷つけない、もう二度と話しかけない。だから幸せになって欲しい」
「やめなさい」
おじ様の声が聞こえてきた。
窓を開けると、おじ様に怒られて腕を掴まれ「帰るぞ」と言われているシエルがいた。
「ライナ、本当にごめん」
もう一度わたしの姿を見つけて叫んだ。
「シエル、さよなら、今までありがとう」
ーーこれで本当のさよならだね、シエル。
彼はおじ様に連れられて帰って行った。
わたしはそっと窓を閉めた。
わたしの言葉はとても冷たい言い方なのだと思う。それでも、もうさっきみたいなことはいやだ。
好きでもない人に襲われるのは気持ちが悪いし怖い。
シエルのことを気持ち悪いなんて思うなんて……
「ライナ、本当にもうダメなのか?」
ソファに座り項垂れていたシエルが顔を上げてわたしに懇願した。
ーーこの人はまだ言っているの?
わたしの体はまだ小刻みに震えていた。
シエルはそのことにすら気がつかない。
「あんな事をしておいて何を言っているの?わたしがどんなに怖かったか分かる?」
「こ、怖い?嘘……だろ?」
驚いた顔でわたしを見るシエル、彼には私がそんなふうに思うなんて信じられないようだ。
「嘘ではないわ、シエル。わたしは貴方への愛情はもうないの。何度も言っているでしょう?」
「そんな……」
わたしは彼の辛そうな顔を見て胸が痛くなりそうになりながらもぐっと飲み込んだ。
「シエル、さようなら」
わたしは婚約解消の書類を握りしめてお父様達を置いてシエルに振り向く事なく部屋を出て行った。
「ライナ、待って!話をしよう」
わたしの背中に彼の声が聞こえる。
でももうわたしは振り返ることはしない。
一度でも振り返れば、空になったはずのシエルへの想いがどこからか溢れてきてしまうかもしれない。
だから絶対に振り返らない。
部屋に帰ると、わたしはシエルに無理やり引っ張られたドレスの裾の破れを見つけ、脱ぎ捨てた。
下着姿になり、鏡を自分を写した。
髪が少し乱れている。
顔もなんだか落ち込んで疲れて見える。
ーー本当にシエルと終わってしまった。
寂しい?
ーーうん、本当は辛い。
悲しい?
ーー泣きそうなくらい胸が痛い。
泣きたい?
ーーもう泣いていいのかな?
ベッドに顔を伏せて泣いた。
涙が溢れて止まらない。
声を出して泣いた。
「うっ……うわぁ……あっ………」
子供のように泣いた。
好きだった、愛していたわ。
心は空っぽになったはずなのに、自分が決めたことなのに。
自分が選んだくせになんて狡いんだろう、今更こんなに後悔して泣くなんて……
コンコン。
扉を叩く音が聞こえた。
鍵はかけてある、誰も入ってこれない。
コンコン。
返事をしないのにしつこい!
「……誰?」
「俺………」
小さな声だけどこの声の主は分かる。
「バズール、今は一人にして!」
扉に向かって泣きながら叫んだ。
「……ライナ……さっきは助けてあげられなくてごめん……泣かないで」
ーー泣いているのがわかってるんだったら声なんて掛けないで!一人にして欲しいのに……
返事をしないわたしにバズールは………
「ライナ、シエルは帰ったよ。もうライナを苦しめる人はいない」
「………お願い、今は誰とも話したくないの」
「うん、わかってる……様子が気になって………また会いにくるよ」
バズールはそう言うと帰って行った。
「はあ……バズールは心配してくれたのに……わたしって最低だね」
でも今は会いたくなかった。優しい言葉も同情も要らない。
もう外は暗くなった。
窓の外をボッーと見ると、わたしの部屋を見上げて立っている人がいた。
ーー誰?
目を凝らして見ると、シエルがわたしの部屋を見ていた。
ーー帰ったと思ったのに……
どんな気持ちで立っているのかしら?
わたしの姿が見えているかもしれない。
慌てて窓から離れた。
すると、下から大きな声が聞こえた。
「ライナ、ごめん。もう二度と君を傷つけない、もう二度と話しかけない。だから幸せになって欲しい」
「やめなさい」
おじ様の声が聞こえてきた。
窓を開けると、おじ様に怒られて腕を掴まれ「帰るぞ」と言われているシエルがいた。
「ライナ、本当にごめん」
もう一度わたしの姿を見つけて叫んだ。
「シエル、さよなら、今までありがとう」
ーーこれで本当のさよならだね、シエル。
彼はおじ様に連れられて帰って行った。
わたしはそっと窓を閉めた。
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