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ダイアナとジャスティア③
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キース様が慌ててハンカチを渡してくれた。
「ありがとうございます」
「お願いだ。気持ちを抑え込まないでくれ、俺にだけは思っていることはなんでも言ってくれ」
「ごめんなさい、公爵家での生活を思い出したらつい……」
下を向き俯いてしまった。テーブルに置いた手に涙の雫が落ちてしまう。
泣いているのがバレてしまって恥ずかしい。
「俺は……守っているつもりでいたのに守りきれていなかった。気持ちだってジャスティア様の件が終わってからきちんと伝えるつもりで後回しにしていた」
「わたしだって貴方のこと好きだから離れないといけないと思っていました。わたしなんかが婚約者で気の毒だと思っていました」
「俺は君を守りたかった。あの小さな女の子の成長を。それがいつの間にか違う感情に変わっていたんだ。俺がもっと早くに君の辛い日々をわかっていたら…ごめん」
「ううん、話を聞いてくれただけで嬉しいです。今まで誰にも話していなかったし自分でもほんと意地っ張りだったと思います。誰にも助けてほしいと言わなかったんですもの」
辛かった日々を少しだけ聞いて貰えてスッキリした。
「せっかくなのでケーキ食べちゃいますね?」
そう言って笑ってみせた。
大好きなチョコレートのケーキはとても美味しかった。
キース様はわたしがケーキを食べている間コーヒーを飲みながらずっと優しく見守ってくれた。
「貴方がいつもわたしを見守ってくれたからわたしはあの屋敷で強い気持ちで頑張ることができたんです」
そう言うとキース様は「ダイアナがずっと笑っていられるように守るから」と言われ、わたしはまた顔が真っ赤になってしまった。
それからは和やかな時間を過ごした。
「そろそろ出よう、ダイアナまだ時間は大丈夫だよね?買い物でもして帰ろう」
「はい、新しい家の食器を見たいと思っていたんです」
「わかった、じゃあ行こうか」
お店を出て二人で歩いた。
こんなにずっと長い時間を二人で過ごしたのは初めて。ちょっとした会話ですらドキッとして恥ずかしくて、そんな顔をキース様に見せられない。
わたしは彼と目を合わせないように前をずっと見ながら、それでも話をしたくてずっとくだらない話を彼に話していた。
「わたしお菓子の中ではチョコレートが大好きなんです」
「猫と犬どちらが好きかと言われたらわたしは犬。メリンダの屋敷には犬がいてとても可愛いんです」
キース様と話す内容としてはあまりにも子供っぽい話なのにキース様は返事をしてくれる。
「メリンダとはハリモン伯爵令嬢のことかな?君と親友だったよね?」
「はい、友人のこと知っていてくれて嬉しいです」
「ダイアナは心許した相手のことを話す時はとても幸せそうに話すから覚えてしまうんだ、少しだけ妬いてしまうけどね」
「へ?」
キース様の言葉に驚いていると
「俺だってヤキモチくらい妬くよ?ダイアナが必死で俺との婚約解消をしようとした時もちょっとムッとしてしまっていたんだ」
「嘘……」
「嘘じゃない。好きな子からフラれるのわかっていて嬉しいわけないだろう?」
「あ……ごめんなさい。自分の気持ちだけしか考えていませんでした」
「いや、ごめん、意地悪言ったよね?ダイアナは俺のこと好きだから俺のことを思って解消しようとしたんだったよな?」
ちょっと意地悪な顔をしてわたしの顔を覗き込んだキース様。
「……はい、そうです。好きだからです」
恥ずかしくてだんだん小さな声になった。
「今日のキース様は優しいけど意地悪です」
思わず小さく呟いた。
「そうかな?」
二人で見つめ合って……クスっ笑い合った。
お店に着く少し前、二人でそんな会話をしていると前から男の子を抱えて走る騎士と私の肩が当たってしまった。
「きゃっ」
思わずキース様の手を離して、バランスを崩して転んだ。
「ダイアナ!」
走っていた騎士は立ち止まりわたしの姿を見て
「すみません、この男の子の命が危ないんです。あとでどんな罰でも受けます。医者のところへ行かせてください」
と必死で頭を下げた。
「だ、大丈夫です。その子を早く病院へ連れて行ってあげてください」
騎士は頭をぺこりと下げて「ダイアナ様後ほど」と言って去って行った。
わたしを起こしてくれて怪我をしていないか確かめながらキース様が「あの男の子、かなり体調が悪そうだったな」と言った。
「ええ、とても急いでいましたね。病院はこの近くにあるのかしら?」
「ここからなら……あの速さで走れば数分で着くと思う」
「そう、よかった」
騎士が走って行った方へ視線を向けているとはあはあと言いながらまた走ってくる声が背後から聞こえてきた。
「…キース、ダ…イアナ?」
振り返ると肩で息をしているジャスティア様が立ち止まった。
「ジャスティアさ、ま?」
汗をかき髪型も少し乱れている。常に綺麗に着飾って優雅に過ごすジャスティア様しか見たことがない。目の前にいるのは……本物のジャスティア様?
驚いて目を見張っていると
「貴方達にかまっている暇はなくてよ?」
そう言って隣にいたさっきと同じ制服を着た騎士に
「急ぐわよ!」と言ってまた走り出した。
ーーあの男の子を抱えた騎士を追っているのね。何か事情があるのかも。
「ジャスティア様が走られるなんて」
キース様も驚いていた。
「そうですよね?疲れることがお嫌いな方ですもの。走るなんてどうしたのかしら?」
「あの制服は王妃様の実家の侯爵家のだと思う。ジャスティア様は王妃様の実家で再教育をされているはずだ。まだ外出許可は出ておらず屋敷で強制的に勉強をしているはずなんだが」
「よくご存知ですね?」
「ジャスティア様の処罰が決定した時俺もその場にいたからね。半年間は外出禁止で今まで怠けてしてこなかった勉強をすることになっていたんだ。そのあと彼女は以前から話があった他国の貴族に嫁ぐことになっているんだ。本当は塔に幽閉される案も出ていたんだ。王族からは籍を抜かれて今は侯爵家預かりになっている。ただし今度問題を起こせば王妃様も庇いきれないだろう。幽閉か鉱山送り、もしくは……」
「そんな…ジャスティア様はそんな大きな問題を起こしていたのですか?」
「内容は教えられない。だけど表向きには大病されて今は寝込んでいることになっている。そして半年後、病気が治り他国に嫁ぐことが決まっているんだ」
「じゃあ、街の中を走っていることを知られたら……」
「うん、かなりヤバいね、まぁ化粧も以前ほど濃いくはないし見た目が随分落ち着いているので気づかれないとは思うんだけど……」
「心配だから追いかけましょう」
「でもさっき転んだのに、足は大丈夫かい?」
「ええ平気です」
そしてキース様とジャスティア様を追いかけた。
◆ ◆ ◆
【イアンとオリエの恋 ずっと貴方が好きでした】
新しい話を更新しました。
「ありがとうございます」
「お願いだ。気持ちを抑え込まないでくれ、俺にだけは思っていることはなんでも言ってくれ」
「ごめんなさい、公爵家での生活を思い出したらつい……」
下を向き俯いてしまった。テーブルに置いた手に涙の雫が落ちてしまう。
泣いているのがバレてしまって恥ずかしい。
「俺は……守っているつもりでいたのに守りきれていなかった。気持ちだってジャスティア様の件が終わってからきちんと伝えるつもりで後回しにしていた」
「わたしだって貴方のこと好きだから離れないといけないと思っていました。わたしなんかが婚約者で気の毒だと思っていました」
「俺は君を守りたかった。あの小さな女の子の成長を。それがいつの間にか違う感情に変わっていたんだ。俺がもっと早くに君の辛い日々をわかっていたら…ごめん」
「ううん、話を聞いてくれただけで嬉しいです。今まで誰にも話していなかったし自分でもほんと意地っ張りだったと思います。誰にも助けてほしいと言わなかったんですもの」
辛かった日々を少しだけ聞いて貰えてスッキリした。
「せっかくなのでケーキ食べちゃいますね?」
そう言って笑ってみせた。
大好きなチョコレートのケーキはとても美味しかった。
キース様はわたしがケーキを食べている間コーヒーを飲みながらずっと優しく見守ってくれた。
「貴方がいつもわたしを見守ってくれたからわたしはあの屋敷で強い気持ちで頑張ることができたんです」
そう言うとキース様は「ダイアナがずっと笑っていられるように守るから」と言われ、わたしはまた顔が真っ赤になってしまった。
それからは和やかな時間を過ごした。
「そろそろ出よう、ダイアナまだ時間は大丈夫だよね?買い物でもして帰ろう」
「はい、新しい家の食器を見たいと思っていたんです」
「わかった、じゃあ行こうか」
お店を出て二人で歩いた。
こんなにずっと長い時間を二人で過ごしたのは初めて。ちょっとした会話ですらドキッとして恥ずかしくて、そんな顔をキース様に見せられない。
わたしは彼と目を合わせないように前をずっと見ながら、それでも話をしたくてずっとくだらない話を彼に話していた。
「わたしお菓子の中ではチョコレートが大好きなんです」
「猫と犬どちらが好きかと言われたらわたしは犬。メリンダの屋敷には犬がいてとても可愛いんです」
キース様と話す内容としてはあまりにも子供っぽい話なのにキース様は返事をしてくれる。
「メリンダとはハリモン伯爵令嬢のことかな?君と親友だったよね?」
「はい、友人のこと知っていてくれて嬉しいです」
「ダイアナは心許した相手のことを話す時はとても幸せそうに話すから覚えてしまうんだ、少しだけ妬いてしまうけどね」
「へ?」
キース様の言葉に驚いていると
「俺だってヤキモチくらい妬くよ?ダイアナが必死で俺との婚約解消をしようとした時もちょっとムッとしてしまっていたんだ」
「嘘……」
「嘘じゃない。好きな子からフラれるのわかっていて嬉しいわけないだろう?」
「あ……ごめんなさい。自分の気持ちだけしか考えていませんでした」
「いや、ごめん、意地悪言ったよね?ダイアナは俺のこと好きだから俺のことを思って解消しようとしたんだったよな?」
ちょっと意地悪な顔をしてわたしの顔を覗き込んだキース様。
「……はい、そうです。好きだからです」
恥ずかしくてだんだん小さな声になった。
「今日のキース様は優しいけど意地悪です」
思わず小さく呟いた。
「そうかな?」
二人で見つめ合って……クスっ笑い合った。
お店に着く少し前、二人でそんな会話をしていると前から男の子を抱えて走る騎士と私の肩が当たってしまった。
「きゃっ」
思わずキース様の手を離して、バランスを崩して転んだ。
「ダイアナ!」
走っていた騎士は立ち止まりわたしの姿を見て
「すみません、この男の子の命が危ないんです。あとでどんな罰でも受けます。医者のところへ行かせてください」
と必死で頭を下げた。
「だ、大丈夫です。その子を早く病院へ連れて行ってあげてください」
騎士は頭をぺこりと下げて「ダイアナ様後ほど」と言って去って行った。
わたしを起こしてくれて怪我をしていないか確かめながらキース様が「あの男の子、かなり体調が悪そうだったな」と言った。
「ええ、とても急いでいましたね。病院はこの近くにあるのかしら?」
「ここからなら……あの速さで走れば数分で着くと思う」
「そう、よかった」
騎士が走って行った方へ視線を向けているとはあはあと言いながらまた走ってくる声が背後から聞こえてきた。
「…キース、ダ…イアナ?」
振り返ると肩で息をしているジャスティア様が立ち止まった。
「ジャスティアさ、ま?」
汗をかき髪型も少し乱れている。常に綺麗に着飾って優雅に過ごすジャスティア様しか見たことがない。目の前にいるのは……本物のジャスティア様?
驚いて目を見張っていると
「貴方達にかまっている暇はなくてよ?」
そう言って隣にいたさっきと同じ制服を着た騎士に
「急ぐわよ!」と言ってまた走り出した。
ーーあの男の子を抱えた騎士を追っているのね。何か事情があるのかも。
「ジャスティア様が走られるなんて」
キース様も驚いていた。
「そうですよね?疲れることがお嫌いな方ですもの。走るなんてどうしたのかしら?」
「あの制服は王妃様の実家の侯爵家のだと思う。ジャスティア様は王妃様の実家で再教育をされているはずだ。まだ外出許可は出ておらず屋敷で強制的に勉強をしているはずなんだが」
「よくご存知ですね?」
「ジャスティア様の処罰が決定した時俺もその場にいたからね。半年間は外出禁止で今まで怠けてしてこなかった勉強をすることになっていたんだ。そのあと彼女は以前から話があった他国の貴族に嫁ぐことになっているんだ。本当は塔に幽閉される案も出ていたんだ。王族からは籍を抜かれて今は侯爵家預かりになっている。ただし今度問題を起こせば王妃様も庇いきれないだろう。幽閉か鉱山送り、もしくは……」
「そんな…ジャスティア様はそんな大きな問題を起こしていたのですか?」
「内容は教えられない。だけど表向きには大病されて今は寝込んでいることになっている。そして半年後、病気が治り他国に嫁ぐことが決まっているんだ」
「じゃあ、街の中を走っていることを知られたら……」
「うん、かなりヤバいね、まぁ化粧も以前ほど濃いくはないし見た目が随分落ち着いているので気づかれないとは思うんだけど……」
「心配だから追いかけましょう」
「でもさっき転んだのに、足は大丈夫かい?」
「ええ平気です」
そしてキース様とジャスティア様を追いかけた。
◆ ◆ ◆
【イアンとオリエの恋 ずっと貴方が好きでした】
新しい話を更新しました。
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