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お父様の秘密②

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『お前がエレファと別れたくなければその女を孕ませろ。それがエレファをこの国に留める唯一の条件だ。それが出来なければ即離縁して国に帰す』

 読んだ手紙をグシャグシャにして丸めて握りつぶした。

「ふざけんな!あのくそジジイ!」

 怒りで目の前にいるこの女を殴りつけたかった。しかし、一糸纏わぬ裸で青い顔をして震えているくせに俺から目を離そうとしない意思の強さに驚いた。

「落ちぶれた子爵家の娘が公爵になる俺の子供を産んでどうすると言うんだ」

 俺はこの女が俺の子供を産む必要性を感じなかった。もっと高位貴族なら分かる。何故この女を父上が選んだんだ?

「わたしには地位もお金もありませんが、頭脳があります。わたしは王立学園で首席で卒業しました」

「ふうん、父上はそれを狙ったのか……だが俺には愛する妻がいる。たとえ君が俺の子供を産もうとその子供も君も愛することはない」

 俺は吐き捨てるように言った。

「貴方からの愛など要りません。欲しいのは領地を救うための援助金です。子供も必要なら産んで公爵家に差し上げます」

「………服を着て出て行ってくれ!今は何も考えられない」

「……わかりました」

 服を着ると女は黙って出て行った。

 朝になるまでじっとベッドに腰掛けて過ごした。

 どうすればいいのか。
 病気を抱えたエレファを国に帰すなんて絶対にできない。
 しかし、父上はどんなことがあっても自分の意思を変える人ではない。
 公爵家を出て行き三人でエレファの国へ行くことも考えたがエレファの体力で長旅が出来るわけがなかった。

 だが父上は俺が受け入れなければどんな状態のエレファだろうと追い出すことを平気でする人だ。

 みんなが動き出したのを確認して、父上に会うため部屋を出て執務室へと向かった。

 朝早くから執務室で仕事を始める習慣の父上はやはり俺を待っていた。

「遅かったな、ミリアという女の体は良かったか?しっかり子種を仕込んだと報告があった。今回妊娠しなければ来月また抱くといい。わかったな」

 下衆な言い方しかしない父上にカッとなった。

「貴方には人としての情はないのですか?」

「情だけでは公爵家を守ることはできない。そんなものとっくに捨てた。お前も早く愛なんて捨てて当主としての自覚を持て。わたしなりにエレファには同情しているんだ。反対したのに嫁いできて四年も経たないうちに病気になって子も産めない体になって、いつ死ぬかわからないなんて可哀想な女だ。
 ダイアナは黒髪で翠色の瞳だ。あれは公爵家にとって忌み嫌われるだけの存在にしかならない。エレファが死んだら早々にエレファの国へ返してしまえ!わかったな」

「エレファはわたしの大切な人です、ダイアナだって愛しい我が子なんです」

「そんな愛情は必要ないと言っているだろう。黙ってわたしの言うことを聞かないなら今すぐ二人を屋敷から何も持たせないで追い出すぞ!そうなればすぐにその辺の男達に攫われてどんな目に遭わされるか。
 お前次第だ、しっかりと考えろ」

 目の前にいる男はわたしの実の父親なのにこんな非情になれるなんて……

 だがエレファを今追い出すなんて死ねと言っているのと同じだ。

 俺は項垂れるしかなかった。




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