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幼馴染が大切ならわたしとは離縁しましょう。
魔女はやっぱり意地悪だ。
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「ミズナはあんたのことを思い出そうとすると体調を崩す。だから無理やり思い出させようとはしないことだね」
「なんでそんな意地悪をするんだ?」
「意地悪?あんたの命はもう残りわずかだった。その命を助けるためにあたしが使った魔法がどれくらいのものかわかるかい?もしあんたが王族ならこの国一つもらってもいいくらいの仕事だった」
「俺……そんなに悪かったんだ……」
「ああ、それを無理やり治したんだ。その対価をミズナの記憶からあんたを消すだけなんて、あたしゃとっても優しい方だと思うよ」
何も言い返せなかった。命を助けてもらった。魔女さんにだって理由はある。
ずっと体が弱くて本ばかり読んでいた。だから知ってる。
魔法はなんでも思うとおりに願いが叶うわけではない。
簡単な魔法なら大したことではないけど人一人の命を助けるために魔女さんはかなりの魔力を使った、それを補うためにミズナの大切なもの、記憶を差し出したんだと思った。
「だけど、それでも、ミズナから俺が消えてしまったら、俺はもう生きていても意味がない」
「はっ、クソガキのくせに、ませてるね。お互いそんなに大切なのかい?」
「ミズナが大人になったら俺の嫁にするって約束したんだ」
「でもそれは一生叶えられないね」
唇をギュッと噛み締めた。
口の中が血の味がする。
どんなに現実を突きつけられても認めたくない。ミズナの中にもう俺はいない。思い出してももらえない。
悔しくて悲しくて涙が溢れた。
その涙を拭くこともせずただ泣いた。
バカヤロー!俺が助かってもミズナに会えないんじゃ意味ないじゃん!
だけど、それでも、ミズナに会いたいよ。
もう近くに魔女さんがいたことなんて忘れて座り込んで膝を抱えて泣いた。
さ、寒い………
どれくらいここにいたんだろう。
少し空が赤くなり始めた。陽が落ちてきて暗くなり始めた。このままここにいたら暗くなって家に帰れなくなる。
焦って立った。
だけどまた座った。
なんだかもうどうでもいいや。
俺はそのままじっと座っていた。
「おい、クソガキ!もうすぐ森は真っ暗になるぞ。ここには魔獣もいるしお前を襲う熊もいる。いいのか?」
「………う…る…さい」
「ミズナが必死で助けた命を簡単に捨てるのか?」
「だってミズナにもう会えないんだ」
「ああ、もう!ミズナ、ミズナって。お前には他に大切な親や友達もいるだろう?」
「いるよ。だけど、ミズナは特別なんだ」
ーー俺の初恋で憧れで、可愛くて、優しくて、とにかく……大好きなんだ。
「…………お前も大切なものを差し出す勇気はあるか?」
「大切なもの?」
「………ふははははっ、いい事を思いついた。あんたの時間をわたしがもらう」
俺の時間?
それが魔女との契約。
意味がわからなかった。
だってその時は魔女は笑いながら突然俺を家に魔法で移動させたから。
心配していたばあちゃんに叱られた。
数ヶ月後、すっかり元気になった俺は再び王都へと帰った。
だって、ミズナと俺の関係はまた元に戻ると魔女が言ったから。
まさか魔女がアデリーナになって俺の幼馴染になってしまうなんて思わなかった。
そう、アデリーナは、俺のことを大好きな幼馴染としていつの間にかみんなの記憶の中に入り込んでいた。
ずっと当たり前のように。
もちろん俺はミズナの記憶は消えなかった。だって俺の大切な時間をアデリーナに捧げただけだから。
何があっても優先するのはアデリーナ。
どんなに嫌でもアデリーナの言うことを優先させた。
一緒に買い物にも行くし、カフェにもついて行った。学校ではアデリーナだけではなく女の子に囲まれても楽しそうにして過ごした。それがアデリーナの命令だったから。
それは20歳になるまでの約束。
それでも俺はどうしてもミズナとの結婚だけは譲れなかった。俺が無理やり結婚を申し込まなければミズナが他の男と結婚してしまう。
それだけはどうしても嫌だった。なんのためにアデリーナと我慢して過ごしてきたのか、聞きたくもない命令を必死で笑顔を作ってずっと耐えてきた。
だから、俺は家族にだけは魔女との契約を伝えた。
考えてみたら家族はミズナが幼馴染だったことを忘れているだけ。ミズナが俺を忘れた、あの強い魔法ではない。
周囲の混乱を起こさせないための辻褄合わせのための簡単な魔法のはず。
もちろん最初は家族にも信じてもらえなかったけど、親達にミズナの両親と仲がよかったことを何度も伝え、思い出話もたくさんして、親達の記憶は常に曖昧で違和感があったらしく、理由に納得してくれた。
そしてなんとかミズナとの結婚にこぎつけた。
もちろん政略で俺のことを思い出させることはしない。
お互い白い結婚でそこに愛情なんてない。
ミズナは俺のことを嫌っていて、アデリーナを愛しているのに、よくもわたしと結婚したわね?的な態度を取られている。
アデリーナはそんな俺とミズナの関係をとても面白がっていた。
家に来ては俺との仲をミズナに当てつけのように見せて、ミズナの様子を窺って楽しんでいた。
俺にとってはどんどんミズナに嫌われるだけ。
そしてミズナの両親は、実は全てを知っていた。だから結婚も承諾してくれた。
ミズナが魔女により俺の記憶を消されたことも。周囲がミズナではなくアデリーナが俺の幼馴染に変わってしまったこと。
うちの両親がミズナの両親のことを忘れてしまったこと。
全て理解して俺たちから遠ざかっていたらしい。
それは全てミズナのためであり、俺のためでもあった。
あと少し。あと少ししたら、ミズナの記憶が元に戻る……はず。
あの魔女が、気が変わらなければ。
アデリーナは俺のことをオモチャのように楽しんでいる。それを簡単に手放してくれるのか……
そしてミズナに記憶が戻っても、俺とアデリーナがずっといつも一緒にいた日々の記憶は残っているはず。そんな俺を夫として受け入れてくれるのだろうか。
「なんでそんな意地悪をするんだ?」
「意地悪?あんたの命はもう残りわずかだった。その命を助けるためにあたしが使った魔法がどれくらいのものかわかるかい?もしあんたが王族ならこの国一つもらってもいいくらいの仕事だった」
「俺……そんなに悪かったんだ……」
「ああ、それを無理やり治したんだ。その対価をミズナの記憶からあんたを消すだけなんて、あたしゃとっても優しい方だと思うよ」
何も言い返せなかった。命を助けてもらった。魔女さんにだって理由はある。
ずっと体が弱くて本ばかり読んでいた。だから知ってる。
魔法はなんでも思うとおりに願いが叶うわけではない。
簡単な魔法なら大したことではないけど人一人の命を助けるために魔女さんはかなりの魔力を使った、それを補うためにミズナの大切なもの、記憶を差し出したんだと思った。
「だけど、それでも、ミズナから俺が消えてしまったら、俺はもう生きていても意味がない」
「はっ、クソガキのくせに、ませてるね。お互いそんなに大切なのかい?」
「ミズナが大人になったら俺の嫁にするって約束したんだ」
「でもそれは一生叶えられないね」
唇をギュッと噛み締めた。
口の中が血の味がする。
どんなに現実を突きつけられても認めたくない。ミズナの中にもう俺はいない。思い出してももらえない。
悔しくて悲しくて涙が溢れた。
その涙を拭くこともせずただ泣いた。
バカヤロー!俺が助かってもミズナに会えないんじゃ意味ないじゃん!
だけど、それでも、ミズナに会いたいよ。
もう近くに魔女さんがいたことなんて忘れて座り込んで膝を抱えて泣いた。
さ、寒い………
どれくらいここにいたんだろう。
少し空が赤くなり始めた。陽が落ちてきて暗くなり始めた。このままここにいたら暗くなって家に帰れなくなる。
焦って立った。
だけどまた座った。
なんだかもうどうでもいいや。
俺はそのままじっと座っていた。
「おい、クソガキ!もうすぐ森は真っ暗になるぞ。ここには魔獣もいるしお前を襲う熊もいる。いいのか?」
「………う…る…さい」
「ミズナが必死で助けた命を簡単に捨てるのか?」
「だってミズナにもう会えないんだ」
「ああ、もう!ミズナ、ミズナって。お前には他に大切な親や友達もいるだろう?」
「いるよ。だけど、ミズナは特別なんだ」
ーー俺の初恋で憧れで、可愛くて、優しくて、とにかく……大好きなんだ。
「…………お前も大切なものを差し出す勇気はあるか?」
「大切なもの?」
「………ふははははっ、いい事を思いついた。あんたの時間をわたしがもらう」
俺の時間?
それが魔女との契約。
意味がわからなかった。
だってその時は魔女は笑いながら突然俺を家に魔法で移動させたから。
心配していたばあちゃんに叱られた。
数ヶ月後、すっかり元気になった俺は再び王都へと帰った。
だって、ミズナと俺の関係はまた元に戻ると魔女が言ったから。
まさか魔女がアデリーナになって俺の幼馴染になってしまうなんて思わなかった。
そう、アデリーナは、俺のことを大好きな幼馴染としていつの間にかみんなの記憶の中に入り込んでいた。
ずっと当たり前のように。
もちろん俺はミズナの記憶は消えなかった。だって俺の大切な時間をアデリーナに捧げただけだから。
何があっても優先するのはアデリーナ。
どんなに嫌でもアデリーナの言うことを優先させた。
一緒に買い物にも行くし、カフェにもついて行った。学校ではアデリーナだけではなく女の子に囲まれても楽しそうにして過ごした。それがアデリーナの命令だったから。
それは20歳になるまでの約束。
それでも俺はどうしてもミズナとの結婚だけは譲れなかった。俺が無理やり結婚を申し込まなければミズナが他の男と結婚してしまう。
それだけはどうしても嫌だった。なんのためにアデリーナと我慢して過ごしてきたのか、聞きたくもない命令を必死で笑顔を作ってずっと耐えてきた。
だから、俺は家族にだけは魔女との契約を伝えた。
考えてみたら家族はミズナが幼馴染だったことを忘れているだけ。ミズナが俺を忘れた、あの強い魔法ではない。
周囲の混乱を起こさせないための辻褄合わせのための簡単な魔法のはず。
もちろん最初は家族にも信じてもらえなかったけど、親達にミズナの両親と仲がよかったことを何度も伝え、思い出話もたくさんして、親達の記憶は常に曖昧で違和感があったらしく、理由に納得してくれた。
そしてなんとかミズナとの結婚にこぎつけた。
もちろん政略で俺のことを思い出させることはしない。
お互い白い結婚でそこに愛情なんてない。
ミズナは俺のことを嫌っていて、アデリーナを愛しているのに、よくもわたしと結婚したわね?的な態度を取られている。
アデリーナはそんな俺とミズナの関係をとても面白がっていた。
家に来ては俺との仲をミズナに当てつけのように見せて、ミズナの様子を窺って楽しんでいた。
俺にとってはどんどんミズナに嫌われるだけ。
そしてミズナの両親は、実は全てを知っていた。だから結婚も承諾してくれた。
ミズナが魔女により俺の記憶を消されたことも。周囲がミズナではなくアデリーナが俺の幼馴染に変わってしまったこと。
うちの両親がミズナの両親のことを忘れてしまったこと。
全て理解して俺たちから遠ざかっていたらしい。
それは全てミズナのためであり、俺のためでもあった。
あと少し。あと少ししたら、ミズナの記憶が元に戻る……はず。
あの魔女が、気が変わらなければ。
アデリーナは俺のことをオモチャのように楽しんでいる。それを簡単に手放してくれるのか……
そしてミズナに記憶が戻っても、俺とアデリーナがずっといつも一緒にいた日々の記憶は残っているはず。そんな俺を夫として受け入れてくれるのだろうか。
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