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幼馴染が大切ならわたしとは離縁しましょう。
本当の幼馴染は。
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「ダレン!」
いつも俺の名を呼ぶ女の子。
俺より背が高くて俺より年上で俺より頭が良くて俺にいつも優しい。
笑うと少しエクボができる俺の大好きな女の子。
俺とミズナは幼馴染だった。
両親は友人同士で仲が良くて、歳の近い俺とミズナはよく一緒に過ごした。
だけど俺はとても体が弱かった。
ベッドで塞ぎ込んでいることが多く、医者から空気の良いところで過ごした方がいいだろうと言われ母方の田舎で静養して過ごすことになった。
ちょうどその頃ミズナの家も、鉱山で思うように鉱石が採れなくなっていたため、金銭面でも仕事面でも追われる日々が続き、ミズナにまで手が回らなくなり、俺の遊び相手として俺の住む田舎にミズナも一緒に暮らすことになった。
ばあちゃんの家は裕福でお手伝いさんも数人いたし、使用人の男たちもいた。
ミズナも俺の遊び相手以外の時間は勉強をしたり、ばあちゃんたちに編み物や刺繍を習ったりして、のびのびと暮らしていた。
俺も王都にいる時よりも体調が良くなりベッドから起きて、ミズナと一緒に勉強をしたり、外に散歩に出られるまでになっていた。
「俺本当はミズナと森に行ったり、川遊びをしたりしたい」
ミズナの前で拗ねるなんてカッコ悪いと思いながらも悔しくてついポロッとこぼした言葉。
「ダレンがもっと元気になったら、おばあちゃんにお願いして森の中にあるお花畑に行きましょうよ。そこは野生の花々がたくさん咲いているらしいの。お弁当を持ってピクニックに行きたいわ。夏になると川で水遊びもできるんですって、ね?約束よ?」
ミズナは一つ年上らしく怒るでもなく困った顔をするでもなく、俺の手を握って覗き込むようにそう言った。
「俺…元気になったよ?」
「うん、でも、あともう少し。外に出られるぐらい元気になれるから!」
「いつ?」
「うーん、今は冬だから……温かい春になったら?だってわたしでも風邪ひきそうな寒さなんだもの。今は外にはあまりでない方がいいと思うの」
「ミズナは外に出てるのに?」
「わたし?わたしは…元気だから」
ミズナは困った顔をして俺から目を逸らした。何か隠し事でもしてるの?
その時はそれで終わった。
でも、やっぱりミズナは昼間に勉強が終わると外へ出ていく。
俺はどうしても気になってこっそりミズナについて行った。
ここに来てから初めて一人で外に出た。
来た時は夏の終わりだった。でも外はミズナの言う通りとても寒かった。
家の中ばかりいた俺は薄着で上着を着るなんて考えていなかった。
前を行くミズナはしっかり暖かそうな上着を着ていた。
ーーさ、寒い。もう諦めて家に帰ろう。
そう思っていたら、ミズナが森の方へと歩いて行ったのでやっぱりあと少しだけついていくことにした。
ミズナは前を向いて必死に歩いていた。
森に入ったらすぐ脇道に入りしばらくするとしゃがみ込んで何かを探していた。
俺はもう寒くてミズナが何かしているのを見たし、帰ろうと慌てて走って家に帰った。
俺は家に帰る途中、寒さと珍しく歩いたり走ったりしたせいで、途中で意識を失ってしまった。
「ダレン!!」
みんなにバレていないと思ったのに、家の者達は俺が居なくなったことを知って、心配して探し回っていたらしい。
だけど俺を見つけたのはミズナだった。
ミズナは薬草を摘みに森へ行き、急いで帰る途中俺を見つけた。
驚いて俺のそばに駆け寄り倒れた俺を抱えては歩けないと、俺に着ていた上着を掛けて、自分は薄着の中、家に向けて全速力で走った。
途中で俺を探し回っていた使用人と出会い、なんとか俺を家に連れ帰った。
俺は高熱を出した。
そしてなかなか熱は下がらず死の淵を彷徨うことになった。
もちろん俺自身はあまり記憶はない。
ひたすらキツくて、本当に死にそうなくらいしんどかっただけ。
意識朦朧の中「ダレン…」と俺を呼ぶ大好きな声が聞こえたのはなんとなく覚えている。
そして目が覚めたとき、俺の前にはミズナはいなかった。
「ミズナは……?」
ばあちゃんにミズナはどこにいるのか尋ねた。だけど「はっ?誰のこと?」と言われた。
なんで?ミズナは?消えたの?
わからない、わからない。
やっと起きられるようになって家の中を探して回った。お手伝いさんに聞いても使用人に聞いても誰もミズナのことを知らない。
ミズナがいたはずの部屋は、ただそこにベッドと机があるだけの客室になっていた。
ミズナの服も小物も本や教科書、編みかけの編み物も消えていた。
ミズナが消えてしまった。
ミズナの姿はどこにもなかった。
いつも俺の名を呼ぶ女の子。
俺より背が高くて俺より年上で俺より頭が良くて俺にいつも優しい。
笑うと少しエクボができる俺の大好きな女の子。
俺とミズナは幼馴染だった。
両親は友人同士で仲が良くて、歳の近い俺とミズナはよく一緒に過ごした。
だけど俺はとても体が弱かった。
ベッドで塞ぎ込んでいることが多く、医者から空気の良いところで過ごした方がいいだろうと言われ母方の田舎で静養して過ごすことになった。
ちょうどその頃ミズナの家も、鉱山で思うように鉱石が採れなくなっていたため、金銭面でも仕事面でも追われる日々が続き、ミズナにまで手が回らなくなり、俺の遊び相手として俺の住む田舎にミズナも一緒に暮らすことになった。
ばあちゃんの家は裕福でお手伝いさんも数人いたし、使用人の男たちもいた。
ミズナも俺の遊び相手以外の時間は勉強をしたり、ばあちゃんたちに編み物や刺繍を習ったりして、のびのびと暮らしていた。
俺も王都にいる時よりも体調が良くなりベッドから起きて、ミズナと一緒に勉強をしたり、外に散歩に出られるまでになっていた。
「俺本当はミズナと森に行ったり、川遊びをしたりしたい」
ミズナの前で拗ねるなんてカッコ悪いと思いながらも悔しくてついポロッとこぼした言葉。
「ダレンがもっと元気になったら、おばあちゃんにお願いして森の中にあるお花畑に行きましょうよ。そこは野生の花々がたくさん咲いているらしいの。お弁当を持ってピクニックに行きたいわ。夏になると川で水遊びもできるんですって、ね?約束よ?」
ミズナは一つ年上らしく怒るでもなく困った顔をするでもなく、俺の手を握って覗き込むようにそう言った。
「俺…元気になったよ?」
「うん、でも、あともう少し。外に出られるぐらい元気になれるから!」
「いつ?」
「うーん、今は冬だから……温かい春になったら?だってわたしでも風邪ひきそうな寒さなんだもの。今は外にはあまりでない方がいいと思うの」
「ミズナは外に出てるのに?」
「わたし?わたしは…元気だから」
ミズナは困った顔をして俺から目を逸らした。何か隠し事でもしてるの?
その時はそれで終わった。
でも、やっぱりミズナは昼間に勉強が終わると外へ出ていく。
俺はどうしても気になってこっそりミズナについて行った。
ここに来てから初めて一人で外に出た。
来た時は夏の終わりだった。でも外はミズナの言う通りとても寒かった。
家の中ばかりいた俺は薄着で上着を着るなんて考えていなかった。
前を行くミズナはしっかり暖かそうな上着を着ていた。
ーーさ、寒い。もう諦めて家に帰ろう。
そう思っていたら、ミズナが森の方へと歩いて行ったのでやっぱりあと少しだけついていくことにした。
ミズナは前を向いて必死に歩いていた。
森に入ったらすぐ脇道に入りしばらくするとしゃがみ込んで何かを探していた。
俺はもう寒くてミズナが何かしているのを見たし、帰ろうと慌てて走って家に帰った。
俺は家に帰る途中、寒さと珍しく歩いたり走ったりしたせいで、途中で意識を失ってしまった。
「ダレン!!」
みんなにバレていないと思ったのに、家の者達は俺が居なくなったことを知って、心配して探し回っていたらしい。
だけど俺を見つけたのはミズナだった。
ミズナは薬草を摘みに森へ行き、急いで帰る途中俺を見つけた。
驚いて俺のそばに駆け寄り倒れた俺を抱えては歩けないと、俺に着ていた上着を掛けて、自分は薄着の中、家に向けて全速力で走った。
途中で俺を探し回っていた使用人と出会い、なんとか俺を家に連れ帰った。
俺は高熱を出した。
そしてなかなか熱は下がらず死の淵を彷徨うことになった。
もちろん俺自身はあまり記憶はない。
ひたすらキツくて、本当に死にそうなくらいしんどかっただけ。
意識朦朧の中「ダレン…」と俺を呼ぶ大好きな声が聞こえたのはなんとなく覚えている。
そして目が覚めたとき、俺の前にはミズナはいなかった。
「ミズナは……?」
ばあちゃんにミズナはどこにいるのか尋ねた。だけど「はっ?誰のこと?」と言われた。
なんで?ミズナは?消えたの?
わからない、わからない。
やっと起きられるようになって家の中を探して回った。お手伝いさんに聞いても使用人に聞いても誰もミズナのことを知らない。
ミズナがいたはずの部屋は、ただそこにベッドと机があるだけの客室になっていた。
ミズナの服も小物も本や教科書、編みかけの編み物も消えていた。
ミズナが消えてしまった。
ミズナの姿はどこにもなかった。
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