あなたとの離縁を目指します

たろ

文字の大きさ
上 下
114 / 156
嫌です。別れません

21話  ダン編

しおりを挟む
「リオがここに?」

 俺は王妃のご機嫌取りに疲れ、王宮にある専用の部屋で休んでいた。

 ほとんど証拠は揃った。あとは陛下が決断さえしてくれれば、こんな茶番劇は終わる。

 愛してもいない王妃に愛を囁き、口付けをする。
 抱いたフリをするためにお香を焚き夢虚ろにさせ俺と寝たと思わせる。

 俺は仕事とはいえもう適当に女は抱かない。最初はマナと結婚してからもしばらくは女遊びをした。

 だけどあんな虚しいものはない。
 好きでもない女を抱いても虚しいだけだ。もう今は、この仕事を終わらせて早くマナに会いに行きたい。

 何度も頭を下げてマナに謝り、マナに『愛している』と伝えたい。

 結婚して何年も経って、やっとまともにマナに向き合える。

 そう思っていたのに……

 侍従から伝えられた言葉に思わず俺は絶句した。

 リオが王城に……しかも陛下に会いに一人で乗り込んだ?

 リオは王妃に命を狙われている。だからリオは死んだことにした。王妃は満足していた。

『俺はリオを邪魔だから捨てた。そしてリオはのたれ死んだ』

 俺は王妃にそう伝え、陛下には病に倒れ死んだことにした。

 もうリオが二人に関わって生きることだけはさせたくなかった。
 リオはリオのままで、自由に伸び伸びと生きて欲しかった。

 王子として生きればいずれこの国を背負い、闇と憎悪の中、国王になり生きていかなければならなくなる。
 それだけは阻止したかった。



 二人の仲はかなり悪い。王妃はその地位に執着しているだけで、陛下と関わることはない。

 陛下も王妃を憎んでいた。

 だから、俺はリオが死んだと伝えた。

 なのに、なぜ?

 魔女だってわかっていたはずだ。
 この場所がリオにとってどれだけ危険か。

 そして俺がこれまであのクソ王妃とクソ陛下に我慢して耐えてきたのに。


「なぜリオが?」

 俺が呟いていると、侍従が説明を始めた。



 リオは突然陛下の前に姿を現し、魔女から頼まれて魔道具を借りにきたこと。

 陛下はリオが生きていることを知りとても喜んだ。

 俺は知らなかったが、あの魔女はその昔この国の王妃だったらしい。リオは、王妃の子孫?
 だからあんなに可愛がっていたのか?

 俺は簡単な説明を聞いた後、陛下に呼ばれていると言われ、急ぎ玉座の間へと向かった。




 陛下は静かに座って、俺を見下ろしていた。

 片足を床につけ頭を下げたまま俺は陛下の言葉を待った。





『とうちゃんは要らない。返さなくていいよ、だから帰ってこないで!と言っておいて!』


 ーーえっ?

 この子供の声は?
 静かな部屋に響き渡った声。

 ここには子供はいないはず。

 頭を上げ、探そうか迷ったが、陛下は何も言わない。許可も得ず頭を上げることは俺にはまだ許されていない。

「ダン、リオからの伝言だ」

「申し訳ございません」

「リオは、とても勇敢でしっかりとしていた。とてもリスティナに似ていた、すぐにわかった。魔女に守られて暮らしていたんだな」

「はい、わたしの妻と魔女がリオを育ててくれました」

「もう魔女はこの国を捨てた、リオたちはこの国にはいない」

「えっ?迷いの森で暮らしているはずです」

「魔女はこの国を去った、伝言がきていた。止めることは叶わなかった。
 理由はわからなかったが、今分かった。リオたちと共に去ったのだ」

「魔女が去った?なぜ?リオたちは幸せに暮らしていたのに……」

 俺が、浮気をしたからなのか?まさか…アイリスのこと誤解したまま?それとも王妃とのこと?

 あまりにも理由がありすぎて……でも、魔道具を借りにきた理由は?

「魔女が去る、この国の守りが消えた。今の繁栄は彼女の力だ。魔女の力がなくなれば衰退していくだろう」

 周りがザワザワとし始めた。

「衰退?なぜ……」

「魔女が全てを守ってきたわけではない。しかしあの迷いの森の結界がなくなれば魔物が増えてしまう、早めに手立てを打たねばならない。早急に会議を始める」

 陛下は俺にそう告げ、すぐに王宮にいる官僚や高位貴族を集めるように指示した。

 俺はもちろんその会議に出席しなければならなかった。

 リオたちを探すことよりもまずは国の対策を考えなければならない。

 魔女は気まぐれだ。彼女に無理矢理戻ってくることを望めば、へそを曲げてさらに姿を消してしまうだろう。

 リオは箒で飛んできたらしい。

 どこからきたのか?

 俺は会議の間もそのことしか考えられなかった。






しおりを挟む
感想 154

あなたにおすすめの小説

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

半日だけの…。貴方が私を忘れても

アズやっこ
恋愛
貴方が私を忘れても私が貴方の分まで覚えてる。 今の貴方が私を愛していなくても、 騎士ではなくても、 足が動かなくて車椅子生活になっても、 騎士だった貴方の姿を、 優しい貴方を、 私を愛してくれた事を、 例え貴方が記憶を失っても私だけは覚えてる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるゆる設定です。  ❈ 男性は記憶がなくなり忘れます。  ❈ 車椅子生活です。

運命だと思った。ただそれだけだった

Rj
恋愛
結婚間近で運命の人に出会ったショーンは、結婚の誓いをたてる十日前にアリスとの結婚を破談にした。そして運命の人へ自分の気持ちを伝えるが拒絶される。狂気のような思いが去った後に残ったのは、運命の人に近付かないという念書とアリスをうしなった喪失感だった。過去の過ちにとらわれた男の話です。 『運命の人ではなかっただけ』に登場するショーンの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

この罰は永遠に

豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」 「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」 「……ふうん」 その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。 なろう様でも公開中です。

戦いから帰ってきた騎士なら、愛人を持ってもいいとでも?

新野乃花(大舟)
恋愛
健気に、一途に、戦いに向かった騎士であるトリガーの事を待ち続けていたフローラル。彼女はトリガーの婚約者として、この上ないほどの思いを抱きながらその帰りを願っていた。そしてそんなある日の事、戦いを終えたトリガーはフローラルのもとに帰還する。その時、その隣に親密そうな関係の一人の女性を伴って…。

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

この偽りが終わるとき

豆狸
恋愛
「……本当なのか、妃よ」 「エドワード陛下がそうお思いならば、それが真実です」 この偽りはまだ終わるべきときではない。 なろう様でも公開中です。

処理中です...