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嫌です。別れません
3話
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朝目覚めるとベッドにはリオはいなかった。
部屋の外から声が聞こえて来た。
「リオ、父ちゃんとあとで散歩にでも行くか?」
「おさんぽ?いくいく!かあちゃんは?いっしょ?」
「うーーん、そうだな。母ちゃんは仕事が忙しいからな。俺と二人で行こう」
「ええ?かあちゃんもいっしょが、いい!!」
「リオはかあちゃんがすきか?」
「うん!かあちゃんはとうちゃんのせいで、しあわせじゃないから、りおが、しあわせ、するんだ」
「はああ?なんだそれ?」
「となりのおばちゃんが、いってる。だからかわりに、リオがしあわせ、しなさいって!」
二人の声が聞こえなくなった。
少し待っていると。
「しあわせ、ってなに?とうちゃん?」
リオの質問にダンが笑い出した。
「わっはははは、幸せか。たぶん母ちゃんの幸せはリオが笑っていることだと思うぞ」
「わらうの?だったら、かあちゃん、ずぅっと、しあわせだね?」
「ああ、そうだな」
「もう!とうちゃん、かみのけ、わしゃわしやしたら、やだ!やめて!」
「父ちゃんもリオとマナがいてくれるだけで幸せだ」
「へんなのぉ。とうちゃんは、かあちゃんしあわせ、しないのに!ずるい!!」
「父ちゃんは、ずるいよな、ほんとに」
ダンの寂しそうな声が聞こえてきた。
ダンはわたしのことを愛してくれている。ただ、恋愛ではなく家族愛なだけ。
二人の話声が聞こえてきて「かあちゃん、おこそう!」とリオが言い出したので慌てて寝たふりをした。
毛布を被ってスヤスヤと寝た……ふり。
「かあちゃん!!おきて!!あさごはん!!おなか、すいたぁ!!」
わたしの体を小さな手が揺する。
「あと少し……」
眠たそうに言うと「もう!お・な・か・すいたぁの!」と半べそを掻きはじめた。
「……ふあああーー、わかったわ、リオ、起きるから!お腹が空いたのね?」
仕方なくベッドからでて、リオを抱っこした。
扉に身体を預けて立っていたダンと目が合った。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
なんとなくお互いぎこちない朝の挨拶を交わした。それをリオはキョトンとして見ていた。
台所へ行き、すぐに火をつけてお湯を沸かした。釜にも火を入れておく。
前の晩に仕込んでおいたパン生地を捏ねて丸める。中にダンの好きなチーズをたくさん入れた。
パンを焼いている間に、ベーコンを焼いたり目玉焼きを作ったりと大忙し。
その間リオとダンは庭に出て野菜を作っている小さな小さな畑で胡瓜やトマトを採ってきてくれた。
リオは腹ペコでひとりトマトを齧っていた。
お口の周りがトマトで真っ赤になり、面白い顔になっていた。
その顔を鏡に映して、自分の顔を見てクスクス笑うリオ。
「リオ、お前の顔、変だぞ!」
「へんじゃないもん!リオ、かわいいもん!」
まだ3歳のリオは可愛いと言われるのが嬉しいらしい。
ダンが笑いながら優しくハンカチで口元を拭く。
リオはダンがずっとそばにいてくれるのが嬉しい。
いつもはわたしとリオ、二人の生活が多い。
街で暮らすダンはたまにこうして我が家に帰ってくる。
この家はダンの家なんだけど、わたしに遠慮してあまり帰ってこない。
かと言って街でいろんな女性の家に転がり込んで暮らすのはどうかなと思う。
そういえば酔った勢いで一度だけダンに言ったことがあった。
「よそで女を抱くのならわたしがいるじゃない」と。
「お前はそういう対象じゃない」との返事にわたしはすっごく傷ついたけど、酔っ払いの戯言だと次の日には自分が言った言葉は無かったことにした。
ケロッとしていつも通りにダンに接したら、ダンの方が『忘れてるのか』と少し安心したような……でも少し寂しそうな顔をした。
パンが焼き上がり三人で囲むテーブル。
リオはいつも以上にご機嫌で
「おいしい!」
「かあちゃん、じょうず、ね?」
「ほめたから、もういっこ、たべていい?」
と、お腹を壊すのではないかしら?と心配になるくらい食べた。
「ごっそさま」
リオはお腹いっぱいになって一人で庭に行って飼い犬のシロと戯れてキャッキャッ言いながら遊んでいる。
玄関の扉を開けているので外の様子も見れる。
リオには話し声は聞こえていないはず。だからダンに昨日のことを伝えることにした。
「ダン、昨日、アイリスさんが怒鳴り込んできたわ。
『ダン!ダンはどこ?』
『ダンをどこに隠したの?』
『ダンはわたしの恋人よ!』
『ダンはわたしの夫です』って言ったら
バチっ!!って思いっきり頬を叩かれたわ」
一気に捲し立てて話してひと呼吸。
ふぅっ。
「そしてアイリスさんがね?
『ダンは結婚なんてしてない!毎日わたしの家に帰ってきていたのよ!それなのに最近帰ってこないの!返して!返してよ!』
『ダンがどこにいるかわたしの方が聞きたい。いつか帰ってきたらあなたのところへ行くように言います。お名前は?』
『アイリス!ダンの恋人のアイリスよ!早く返して!』
と言ったわ。
ねぇ?ダン?あなたの恋人のアイリスさんに何故わたしが叩かれないといけないのかしら?」
ダンはあの超美丈夫なお顔を引き攣らせながらわたしを見ている。
もちろん一言も発せず。
「わたしは転ぶし、カゴから薬草は落ちるし、リオに内緒にしようと思ったらリオは見ていたの。
『おかあちゃん……』って目に涙をためていたわ。
『おかあちゃん………とうちゃん、わるいの?』って聞くから、
『そんなことない、父ちゃんはお仕事に行ってるの、だからさっきの人は間違ってうちに来ただけなの』って言い訳したわ」
これだけ言ってもなにも反応せず。
「ダン?ねぇ、聞いてる?わたし、怒ってるのよ?あなたの浮気はもう病気だから仕方ないわ。わたしの作る薬でも治らないもの。でもね、もう少し相手は考えるべきだと思うの。せめて浮気するなら家族にはわからないように、迷惑をかけないようにして欲しいの」
「すまない」
いつも陽気なダンが流石に落ち込んでいたわ。
だけど、今回は許さないわよ!!
もっと責めてあげたくなるわ!
部屋の外から声が聞こえて来た。
「リオ、父ちゃんとあとで散歩にでも行くか?」
「おさんぽ?いくいく!かあちゃんは?いっしょ?」
「うーーん、そうだな。母ちゃんは仕事が忙しいからな。俺と二人で行こう」
「ええ?かあちゃんもいっしょが、いい!!」
「リオはかあちゃんがすきか?」
「うん!かあちゃんはとうちゃんのせいで、しあわせじゃないから、りおが、しあわせ、するんだ」
「はああ?なんだそれ?」
「となりのおばちゃんが、いってる。だからかわりに、リオがしあわせ、しなさいって!」
二人の声が聞こえなくなった。
少し待っていると。
「しあわせ、ってなに?とうちゃん?」
リオの質問にダンが笑い出した。
「わっはははは、幸せか。たぶん母ちゃんの幸せはリオが笑っていることだと思うぞ」
「わらうの?だったら、かあちゃん、ずぅっと、しあわせだね?」
「ああ、そうだな」
「もう!とうちゃん、かみのけ、わしゃわしやしたら、やだ!やめて!」
「父ちゃんもリオとマナがいてくれるだけで幸せだ」
「へんなのぉ。とうちゃんは、かあちゃんしあわせ、しないのに!ずるい!!」
「父ちゃんは、ずるいよな、ほんとに」
ダンの寂しそうな声が聞こえてきた。
ダンはわたしのことを愛してくれている。ただ、恋愛ではなく家族愛なだけ。
二人の話声が聞こえてきて「かあちゃん、おこそう!」とリオが言い出したので慌てて寝たふりをした。
毛布を被ってスヤスヤと寝た……ふり。
「かあちゃん!!おきて!!あさごはん!!おなか、すいたぁ!!」
わたしの体を小さな手が揺する。
「あと少し……」
眠たそうに言うと「もう!お・な・か・すいたぁの!」と半べそを掻きはじめた。
「……ふあああーー、わかったわ、リオ、起きるから!お腹が空いたのね?」
仕方なくベッドからでて、リオを抱っこした。
扉に身体を預けて立っていたダンと目が合った。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
なんとなくお互いぎこちない朝の挨拶を交わした。それをリオはキョトンとして見ていた。
台所へ行き、すぐに火をつけてお湯を沸かした。釜にも火を入れておく。
前の晩に仕込んでおいたパン生地を捏ねて丸める。中にダンの好きなチーズをたくさん入れた。
パンを焼いている間に、ベーコンを焼いたり目玉焼きを作ったりと大忙し。
その間リオとダンは庭に出て野菜を作っている小さな小さな畑で胡瓜やトマトを採ってきてくれた。
リオは腹ペコでひとりトマトを齧っていた。
お口の周りがトマトで真っ赤になり、面白い顔になっていた。
その顔を鏡に映して、自分の顔を見てクスクス笑うリオ。
「リオ、お前の顔、変だぞ!」
「へんじゃないもん!リオ、かわいいもん!」
まだ3歳のリオは可愛いと言われるのが嬉しいらしい。
ダンが笑いながら優しくハンカチで口元を拭く。
リオはダンがずっとそばにいてくれるのが嬉しい。
いつもはわたしとリオ、二人の生活が多い。
街で暮らすダンはたまにこうして我が家に帰ってくる。
この家はダンの家なんだけど、わたしに遠慮してあまり帰ってこない。
かと言って街でいろんな女性の家に転がり込んで暮らすのはどうかなと思う。
そういえば酔った勢いで一度だけダンに言ったことがあった。
「よそで女を抱くのならわたしがいるじゃない」と。
「お前はそういう対象じゃない」との返事にわたしはすっごく傷ついたけど、酔っ払いの戯言だと次の日には自分が言った言葉は無かったことにした。
ケロッとしていつも通りにダンに接したら、ダンの方が『忘れてるのか』と少し安心したような……でも少し寂しそうな顔をした。
パンが焼き上がり三人で囲むテーブル。
リオはいつも以上にご機嫌で
「おいしい!」
「かあちゃん、じょうず、ね?」
「ほめたから、もういっこ、たべていい?」
と、お腹を壊すのではないかしら?と心配になるくらい食べた。
「ごっそさま」
リオはお腹いっぱいになって一人で庭に行って飼い犬のシロと戯れてキャッキャッ言いながら遊んでいる。
玄関の扉を開けているので外の様子も見れる。
リオには話し声は聞こえていないはず。だからダンに昨日のことを伝えることにした。
「ダン、昨日、アイリスさんが怒鳴り込んできたわ。
『ダン!ダンはどこ?』
『ダンをどこに隠したの?』
『ダンはわたしの恋人よ!』
『ダンはわたしの夫です』って言ったら
バチっ!!って思いっきり頬を叩かれたわ」
一気に捲し立てて話してひと呼吸。
ふぅっ。
「そしてアイリスさんがね?
『ダンは結婚なんてしてない!毎日わたしの家に帰ってきていたのよ!それなのに最近帰ってこないの!返して!返してよ!』
『ダンがどこにいるかわたしの方が聞きたい。いつか帰ってきたらあなたのところへ行くように言います。お名前は?』
『アイリス!ダンの恋人のアイリスよ!早く返して!』
と言ったわ。
ねぇ?ダン?あなたの恋人のアイリスさんに何故わたしが叩かれないといけないのかしら?」
ダンはあの超美丈夫なお顔を引き攣らせながらわたしを見ている。
もちろん一言も発せず。
「わたしは転ぶし、カゴから薬草は落ちるし、リオに内緒にしようと思ったらリオは見ていたの。
『おかあちゃん……』って目に涙をためていたわ。
『おかあちゃん………とうちゃん、わるいの?』って聞くから、
『そんなことない、父ちゃんはお仕事に行ってるの、だからさっきの人は間違ってうちに来ただけなの』って言い訳したわ」
これだけ言ってもなにも反応せず。
「ダン?ねぇ、聞いてる?わたし、怒ってるのよ?あなたの浮気はもう病気だから仕方ないわ。わたしの作る薬でも治らないもの。でもね、もう少し相手は考えるべきだと思うの。せめて浮気するなら家族にはわからないように、迷惑をかけないようにして欲しいの」
「すまない」
いつも陽気なダンが流石に落ち込んでいたわ。
だけど、今回は許さないわよ!!
もっと責めてあげたくなるわ!
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